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最終話:2人で1つ

   ルッツとシュヴァリエが番になって2年が経過した。  今日は魔物討伐の仕事は無いので、ルッツは管理を任されている地下の温室の中に入った。専用の道具で湿度や気温を測り、温室の中で育てられている植物の状態を確認していく。外部の光があまり入らない薄暗い温室を、シュヴァリエの魔力が込められた魔法石で周囲を照らしながら歩いていった。  僅かな光で照らされた白い花畑は、いつ見ても満天の星空のようで美しい。独特の甘い香りがふわりと漂う。今日も状態は良いようだ。 「ルッツ、居るか?」  入口から誰かが温室に入ってくる音と、炎が灯る小さな音が聞こえる。後ろから現れたのは、ルッツの番であるシュヴァリエだ。シュヴァリエは隣に立つと、にこりと笑うルッツの肩を優しく撫でる。 「沢山の花が咲いたな。今年もこれに助けられそうだ」 「ええ、シュヴァリエ隊長がこの温室を用意してくださったお陰です」  ルッツは目の前の無数の花……エリ草を見て目を細める。  あの時崖の下で見つけたエリ草は、シュヴァリエや植物の知識豊富な研究員たちと一緒に採集しに行った。研究員たちも近場にこんな群生地がある事は知らず、興奮気味にルッツに感謝の気持ちを述べた。  丁寧に掘り出した球根は後にこの温室に植えられた。あの崖の下の明るさや土質、湿度、気温に至るまで近い状態になるよう調整し、今ではこんなにも沢山の花を咲かせた。  エリ草から作られた薬茶は改良を重ねて飲みやすくなり、兵士たちや魔術師たちの嗜好品になりつつあった。 「当時はまさか癒しの魔法石を作る魔術師たちにも重宝されるとは予想外でしたけどね」  エリ草は疲労回復効果だけでなく魔力の回復にも効果がある。  それは分かっていたが、ルッツは魔法や魔法石に関する知識はあまりなかった。シュヴァリエが魔法で炎を瞬時に呼び起せるように、癒しの魔法も簡単に出せるものだと思っていた。 「魔法って剣を振るより疲れるんだ。しかも魔法石に魔力を宿すのにはすごく時間がかかるから、長時間魔法を発動し続けないといけない。魔術師たちが泣いて喜んでいたな。しかも茶は美味いし」 「兵士たちより魔術師たちに喜ばれるとは思いませんでした」  当時は密かに目の敵にしていた魔術師たちがあんなに泣くとは思わなかった。本当に泣いていた。命に関わる重要な物だからしっかり作っていたが、やはり相当辛かったらしい。  そりゃあ一般家庭に普及しない訳だと反省した。  疲れた顔で泣いている魔導士たちを見て、ルッツは悩んでいた自分が馬鹿らしくなった。見えないだけで、皆いろんな苦労や苦悩を抱えている。 「魔法や道具の技術が発展すれば、かつての物が使われなくなることは多い。でも新しいものが出来れば新しい課題が出てくるものだ。兵士たちの被害が減る一方、魔術師たちの負担をどう軽減するか会議室でずっと議論していたんだ。でも君が改善してくれた。まだまだ万全とは言えないが、君の助けで沢山の人が救われたんだ」  シュヴァリエはルッツを見下ろす。その瞳にはただの庇護対象としてでなく、多大な愛情と尊敬が込められている。シュヴァリエもまた、自分には持っていないルッツの知識と行動力を誇りに思っていた。 「前に言っただろう? 俺では返せないくらいのとんでもない恩返しだって」  それは、崖の下でシュヴァリエがルッツに言った言葉だった。ルッツはそれを自分を元気づける優しさだと思っていたが、シュヴァリエにとっては本当に大きな収穫だったのだ。 「会議で魔術師たちから直接不満を聞いていたから、なんとかしてあげたいと思っていたんだ。でも君に出会う前ならそんな事も考えていなかったと思う。君のお陰で助け合う事の重要さに気付いた。勿論魔術師たちだけでなく、俺にとっても有難い代物だ」 「でもシュヴァリエ隊長が居なければ成し遂げられませんでした。僕はスライムにも勝てませんから」 「ああ、でも俺だけでも無理だった。俺たちは番だ。お互い助け合う事で……2人だからこそ出来る事もある」  ルッツの肩を優しく撫でていた手の動きが止まり、シュヴァリエはその身体をそっとルッツの方に引き寄せた。 「これからも、一緒に生きていこう」  炎に照らされた2つの影が、1つに重なる。  それがまるで本来の形であるかのように、2人は穏やかな顔で身を寄せ合っていた。 ―――――――――――――――――― ここまで読んでくださり有難うございました。 番外編も少し投稿しますので、そちらも読んでいただけると嬉しいです そして、よろしければ『お気に入り登録』と『コメント』もお願いします。    

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