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番外編:魔術師長とご対面①

   ルッツとシュヴァリエが番になって数ヵ月経った頃の事だ。  聖グローリア騎士団の食堂奥にある厨房から、ルッツが大きなティーポットを持って現れた。椅子に座って待っていたシュヴァリエの前にカップを置き、そこにポットの中に入っているお茶を注いだ。 「良い感じに出来ました! お召し上がりください!」  明るい声でルッツはそう言いながら、どうぞとカップに手を向ける。中に入っているのはエリ草をメインに、様々な植物を混ぜて作った薬茶だ。  シュヴァリエと番になり、発情期や仕事が一段落した後、再び向かった群生地で採集したものだ。咲いている数が多かったので、栽培の研究に使う用以外も採集しておいた。  エリ草から作る薬茶については、シュヴァリエが上官に報告済みらしい。そんな経緯もあり、現在のルッツは薬茶を作る係に任命されている。 「うん、美味くなっているな!」  カップに少し注いだ茶をすすりながらシュヴァリエは言う。口元に自然と笑みを浮かべているシュヴァリエの顔を見て、ルッツはほっと胸をなでおろした。  最初はルッツが持っていた図鑑通り、エリ草のみで茶を作ったのだが、そのままだとかなり苦味が強かった。良薬は口に苦しとは言うが、せっかくのお茶なのだからもっと気軽に楽しんで飲めるように改良したかったのだ。  独特の匂いを消せるハーブを入れたり、甘みのあるフルーツを混ぜたり、試行錯誤をかさねて味を改善していった。  今では薬茶というよりちょっと変わった香りの紅茶に近い。適量の砂糖とジャムを入れて混ぜれば、ちょっとした食後のおやつになる。 「じゃあ、いよいよ魔術師長にお披露目だな」  そして今日、聖グローリア騎士団の魔術師のトップにそのお茶をお出しする事になっていた。  エリ草で薬茶を作ることになって知った事だが、どうやら一部の魔術師たちは魔法石作りでかなり疲弊しているらしい。特に癒しの魔法は使い手が少ない上に、使用頻度が高く大変なのだとか。  なんでもルッツが魔物討伐時に渡されている癒しの魔法石の殆どは、聖グローリア騎士団に所属している魔術師長が作っているらしい。 「彼女は甘党だからジャムも持っていこう。ついでに手土産に持ってきたビスケットも」 「なんだかおやつみたいですね。喜んでいただけると良いのですが……緊張してきました」 「俺はまだ試飲程度しかしていないが、多めに飲んだ翌朝は少し身体が軽くなった気がするよ。まあ結果はどうあれ、美味い茶と菓子を貰って喜ばない方ではない。挨拶ついでに一緒にお茶をする気持ちで行けばいいよ。俺にとっても、良い気分転換になる」 「そうですね。大切な仲間たちと談笑しながら何かを食べるって楽しいですから!」  ルッツはシュヴァリエが手土産に持ってきてくれたビスケットもオーブンで軽く温め直してお皿に乗せた。  ティーポットとカップを乗せたお盆は、そこそこ重量があるのでシュヴァリエが持ってくれるようだ。ビスケットが乗せられたお皿はルッツが持ち、初めて会う魔術師長の部屋へ向かった。 ―――――――――  ルッツとシュヴァリエが寝泊まりをしている兵舎とは別の棟の扉を潜る。  魔術師長もシュヴァリエと同じで奥の方にあるちょっと良いお部屋を頂いているらしい。普段すれ違わない人に時折頭を下げながら、やがて2人は目的地にたどり着いた。 「リベッサ魔術師長、シュヴァリエです」  シュヴァリエが扉をノックしながら少し声を張り上げる。  すると扉の奥の方でドタドタと大きな足音が近づいてきた。 (なんだ……?)  扉の内側ではどうなって居るんだと少しハラハラしながら待っていたら、いきなり扉がバーンと音を立てて開かれた!! 「あら良い匂いね!! 紅茶!? あっ、ビスケットも!!」 「ひぃ……!!」  中から勢いよく人が飛び出てくる。あまりの勢いにルッツは驚いて後ろに下がった。  現れたのはルッツたちより年上の妙齢の女性だった。本日は非番だったようで、ゆったりサイズのフワフワしたルームウェアを着ている。ただ完全にだらけているわけではなく、薄紫の髪の毛は綺麗に整えられ、控えめだが化粧も施している。 「リベッサ魔術師長、貴方が甘い物好きなのは分かっていますがどうか落ち着いて下さい。初対面の俺の番が驚いているでしょう?」  そう言いながらシュヴァリエは困惑しているルッツを背中に隠す。 「あららっ、シュヴァリエさんの番さんも来るとか聞いていないわ。お菓子くれるって事しか聞いてない! 分かっていたらもっとそれらしい服着たのに!」 「言いましたが『美味しい茶と菓子を持っていきます』と言った途端、他の話は耳に入っていないご様子でしたので諦めました」 「あれ、ごめんなさいね。最近疲労でお菓子作りもしなくなっていたから、糖分不足で……」  申し訳なさそうにシュン……と項垂れている。おそらくシュヴァリエより年上の女性なのに、まるで弟に叱られる姉のようにションボリしている。  ルッツは魔術師長と言われてもっと堅苦しい人物を想像していたがそんな事もなく、むしろ随分と親しみやすそうな人物に見える。 「あの、シュヴァリエ隊長の番の、ルッツと申します。このティーポットにはエリ草と呼ばれる薬草から作った特製の薬茶が入っています。ビスケットも美味しいですが、こちらも楽しんでいただけると嬉しいです」 「ふふ、ご丁寧に有難う。自己紹介がまだだったわね。私の名前はリベッサ。魔術師長って肩書を頂いているけど堅苦しいのが苦手でね、気軽にリベッサちゃんと呼んでも良いわよ」 「いやそれは……」 「……リベッサ魔術師長、そろそろ中に入っても良いかな?」 「あらら、ごめんなさい。2人とも中へいらっしゃい」  しまった、と慌てた顔でリベッサは扉から数歩離れる。 「えっと、お邪魔します」  ルッツはぺこりと頭を下げながら部屋の中に足を踏み入れた。  中には透明な水晶玉や天然のクリスタルのインテリアが飾られている。壁紙や家具もシックな色合いでまとめられている。落ち着いていて、どこか幻想的な雰囲気の内装は、魔術師のイメージとピッタリだ。 「とりあえずこちらのテーブルに座って。上に乗っている物は今片付けるから!」  そう言われてルッツはテーブルの方へ首を向けた。アンティーク調の猫足のテーブルだ。立場上来客もそれなりにあるらしく、椅子も4つある。  作業用だったのだろうか、テーブルの上には分厚い魔導書と数枚の書類、羽ペンが置かれていた。  そして書類の近くにはお菓子の箱が置かれており、中には可愛らしいチョコレートボンボンが入っていた。中身は3分の2ほどが無くなっており、甘いチョコレートの香りがルッツのもとにも届く。 「糖分不足……?」  ルッツは疑問に思いながらも椅子に座った。  

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