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ドラゴン、アイスを食べる

 ショッピングモール内にあるスーパーは、まだ午前中だからか閑散としていた。 「涼しいのお、生き返るようじゃ」  店内に入った楓は嬉しそうに尖った耳を動かした。ガチャガチャコーナーに来た朝陽のように、きょろきょろと左右を見る。はじめて連れてきた時ほどの興奮は見せないが、彼にとっては心躍る場所のようだ。 「畑や海に行かずとも食べ物を手に入れられるとは、げに良い世になったものじゃ」  カートにカゴを乗せ、通路を進む。 「ところで、『ご馳走』とは何じゃ? 何を準備するのだ?」 「そうですね、まずはカレーですかね。朝陽からリクエストされているので」  ニンジンやジャガイモをカゴに入れ、恭平は答えた。 「かれえ、というとあれか、我が来た日に出してくれた汁かけ飯か」 「汁かけ……まあそうです」  楓がふにゃりと顔を蕩けさせた。どうやらカレーのことはかなり気に入っていたようだ。 「あれはよいな! うまかったぞ!」 「でも、副菜はどうしましょうかね」  ゆっくりと歩きながら、手がかりがないかとなんとなく店内を見回す。 「そうなのか? あれはうまいぞ?」 「そう言ってくれるのは嬉しいですけど、誕生日にカレー一皿ってちょっと侘しくないですか? もう少し品数が欲しいですよ。できれば野菜の」  個人的にはサラダをつけたいし普段ならそうするところだが、生野菜が苦手な朝陽の誕生日にまでサラダを並べたくない、と思ってしまうのは甘いだろうか。 「ふうむ。野菜」  腕を組んだ楓が、恭平の横で首を傾げた。 「一昨日あたり、給食の豆の煮物が好きと言っておったが、そういうのではいかんのか?」 「豆?」 「豆とひじきの煮物と言っておったかな」 「へえ」  そんな渋いメニューが好きだなんて初耳である。  それにしても、楓はいつの間に朝陽とそんなことまで話すようになっていたのだろうか。 (ずっと、朝陽と二人家族で生きていこうと思っていたけど……こうやって朝陽の話ができる相手がいるのって、いいよな)  いつもだったら、きっとさんざん考え込んだ末に茹でブロッコリーなどになっていただろう。豆の煮物なんて、考えたこともなかった。  しみじみと楓の顔を見ていると、気まずそうに楓が顎を引いた。 「なにか変じゃった、か?」 「いいえ、じゃあそれにしましょう。豆とひじき……っていうと、ニンジンとか油揚げとか入ってるあれですよね、きっと」 「うむ……?」  カートにひじきと水煮大豆、パック入りのコーンポタージュなどを追加してレジに向かう。本当はもっとオードブルなども買いたいところだが、そちらに気を取られた朝陽がケーキを食べられなくなってしまうことが容易に想像できるので我慢だ。  支払いを終えてサッカー台へと向かうと、楓がすでに袋詰めまで終わらせてくれていた。 「ありがとうございます」 「なんの、手伝いに来たのじゃからな」  荷物を受け取ろうと手を出すと、楓は恭平の手を見下ろして不思議そうな顔をした。 「楓さん、荷……」  意図を伝えようと口を開く。だが、その前ににっこりと笑った楓の手が恭平の差し出した手を握りしめていた。 「む? なんぞ言うたか?」 「い、いや何でも……」  嬉しそうに恭平と手を繋ぐ楓に、「欲しかったのは君の手ではなく荷物である」なんて言えない。 (朝陽ともよく手を繋いでいるから勘違いしたんだろうけど……)  率直な感想を述べるなら、「とても恥ずかしい」だ。  両者成人男性なだけならまだしも、楓は水干姿だし、真っ赤な髪に角と尻尾まで生えている。しかも大柄なので目立つ。そしてさらにスーパーのビニール袋まで下げているのだ。 (なんだ、なんだこの状況は!)  心のなかで叫びながら、気づいてくれと楓を見上げてしまう。だが、楓には全く通じないようで、つぶらな瞳で恭平を見返してくるだけだ。 (まあ……楓さんがいいなら、いいか)  楓の手は、朝陽と違って硬くて大きい。おずおずと恭平が握り返すと、ぎゅっと握り返されると同時に楓の尻尾ががぶんぶんと揺れた。それが妙に嬉しくて、恭平も微笑む。 「で、あとは予約していた『けえき』を受け取って帰るのじゃな?」 「そうですね」  恭平は頷き、モール内の時計を見上げた。楓にメニューをすぐに決めてもらえたおかげか、まだ少し時間に余裕がある。  吹き抜けになったモールの床にはくっきりとした影が落ちており、外の光の強さを伺わせた。  その下を通る楓が強い光を受け、スポットライトを浴びたように輝く。赤髪が金に近い色で透き通った。 「しっかし、様々な店があるものよのう」  興味深げに尻尾を振り、時折足を止めながら楓は歩く。手をつないでいなかったらはぐれてしまいそうだ。  楓と一緒に店を見ながら歩いていると、道の先にフードコートが見えた。暑いせいか、中にあるアイス屋が目についてしまう。  普段だったら、一人だったら、高いから我慢してしまうけれど。 (アイス食べたことないだろうな、楓さん) 「……ね、楓さん、ちょっとアイス食べていきません?」  手を握った楓を見上げ、店を指差す。大男がきょとんとした顔になるのが面白い。 「あいす?」 「牛乳を甘くして凍らせたやつです」 「ほお」  雑な説明に頷く楓を引っ張り、フードコートの一角にあるアイスクリーム店の前に向かう。 「ケースの中にあるものから、好きなのを選んで注文するんです」 「ほおお……? いちご、抹茶、めろん? ……沢山あるのお」  じっと中を見つめながら、冷ケースの端まで行った楓が戻ってくる。  困った顔をしていた。 「多すぎるし、どれがどんな味かまるでわからぬ。恭平のおすすめはあるか?」 「はじめてですし、まずはバニラにしてみましょうか」  コーンのバニラアイスを2つ持ち、手近な椅子に座る。  スーパーの袋を置いた楓に、アイスの1つを渡す。大きな手のなかにあるアイスは、恭平の手のなかにあるものより2回りほど小さく見えた。  恭平がアイスを舐める様子を見てから、楓は恐る恐るアイスクリームを口元に近づけた。  割れた赤い舌先が、ちらりと白い表面を舐める。 「!」  楓の尻尾がピンと立った。  瞳が見えないほど目が細くなる。 「これは冷っこくて、甘くて、よいのお!」  お気に召したようだ。嬉々としてアイスを舐める楓を見ながら、恭平は自分もアイスをかじった。  冷たくて、甘くて、口の中で爽やかに溶けていく。 「あ、俺たちがアイス食べたの、朝陽には内緒ですからね」  二人だけでこんなことをしていたのがバレたら、朝陽は大層腹を立てるだろう。 「わかっておる」  恭平を見る楓の目は、いたずらっぽく光っていた。 「秘密、じゃな」

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