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子供、7歳になる

「ハッピバースデートゥーユー」  電気を消して暗くしたダイニングに、楓と恭平、それから朝陽の歌声が響く。テーブルの真ん中にあるホールケーキには7本の蝋燭が刺さり、揺れる火が3人の顔を照らしていた。 「ハッピバースデーディア朝陽ー、ハッピバースデートゥーユー!」  歌いきった恭平は、「おめでとう!」と手を叩いた。頬を膨らませた朝陽が蝋燭をふうっと吹くと、暗くなった部屋の中に少し焦げ臭い匂いが広がる。  席を立った恭平は、壁伝いに歩いて電気のスイッチに向かった。感動で涙ぐんできた目を一度擦ってから明かりをつける。  振り向くと、誇らしげな朝陽と手を叩く楓がライトに照らされていた。その前にあるシンプルなショートケーキの上に、「あさひくん おたんじょうびおめでとう」と書かれたチョコプレートが載っている。 「7歳おめでとう、朝陽」  もう一度言った恭平は、隠していた包みを背後から取り出した。 「はい、プレゼント」 「やっっった! 開けていい?」 「うん」  恭平が答える前に朝陽は袋のリボンを引っ張っていた。あっちを引っ張りこっちを引っ張り、かえって固く結んでしまう小さな指先がかわいい。 「むむむ……」  それでもプレゼントなので自分で開けたいのか、しばらく試行錯誤して不織布のプレゼントバッグが引きちぎれそうになったころ、中からゲームのパッケージが顔を出した。  最近子供たちの中で流行っている、サンドボックス型のゲームだ。 「よっしゃー!」  両手で空中にゲームを突き上げた朝陽が、キラキラした目で恭平を見上げてくる。 「ね、ね、ね、やっていいパパ?」 「やってもいいけど、全部やることやってからな。寝る時間も守れよ。あと、その前にケーキ食べようか」  本当に目の前のことしか見えていないのが面白い。お皿と包丁を準備しながら笑って返すと、「忘れてた!」と朝陽が椅子に座り直す。 「あ、そうだった」  ケーキを切る直前で恭平は手を止めた。包丁を置いてスマホを取り出す。 「写真撮っとこうか」 「写真?」  不思議そうな顔でゲームを見ていた楓が恭平を見る。 「えっと……今は機械を使って、一瞬で景色を絵にできるんですよ」  答えてから、昼間のアイス初体験の楓も撮っておけばよかったと気づく。 (……次は忘れないようにしよう) 「なるほどなあ」  わかっていない顔で頷く楓と朝陽にカメラを向け、恭平は構えた。 「じゃ、撮るよー! 朝陽、ゲームも見せてよ」  カシャ、と撮った写真を表示させ、恭平はスマホを楓と恭平に向けた。 「まあこんな感じです」 「僕にも見せてー」 「ほおお。随分と細かい絵よのお」  画面に鼻を近づけた楓は、朝陽と机の上のホールケーキ、恭平の顔と画面の間で何度も視線を行き来させた。 「……しかし、恭平が描かれていないようじゃが?」 「え、そりゃ撮ってませんから……?」 「撮って……? 一緒に描かれぬのか?」  首を傾げた楓が、尖った耳を動かす。 「そういうわけではないですけど」  確かに、なぜ自分が写真に入らないのかと言われると説明が難しい。特に考えたこともなかった。 「……じゃあもう一枚、俺も入りましょうか」  インカメラに切り替えた恭平は、朝陽と顔をくっつけるようにしてスマホを見た。思いっきり腕を伸ばすが、さっきよりも画角が狭い。 「楓さん、もっと寄ってください。あの板の中に顔が入るように」  朝陽越しに楓に手を伸ばし、肩を引き寄せる。  少し緊張した表情の楓が真ん中に寄り、3人がぎゅうぎゅうにくっついたところで、恭平は画面をタップした。  笑顔でゲームパッケージを構える朝陽とケーキを真ん中に、右に恭平、左に少し表情の硬い楓が一瞬画面に固定される。 「それじゃ、ケーキ食べましょうか」  今度こそ包丁を持った恭平は、小さいホールケーキを4つに切り分けた。皿に取り分け、朝陽、楓、自分、残った1つをダイニングテーブルの残りの角に置く。 「いただきます!」  手を合わせた朝陽が、まずチョコプレートにかじりつく。それから豪快にケーキにフォークを突き立てた。 「おいしい!」  その横で楓もケーキをそっとフォークですくい、口に運ぶ。 「ほお、これは……」  これも気に入ったのか、そこから無言になってひたすらにケーキを食べ進めていく。 「いいものじゃな、ケーキとやらも」 「でしょ? 僕の誕生日だからね!」  謎に誇らしげな朝陽の鼻先には、どうやったのかスポンジのかけらがついていた。 「ところで……そこに置いてあるケーキは? まじないか?」  半分ほどケーキを食べ終えたところで、楓は誰もいない席に置かれたケーキを見た。 「ああ、それは……」 「ママの分だよ!」  イチゴにフォークを突き刺した朝陽が答えた。 「ママ……? 母親か」 「そう! 天国に行っちゃったから」 「天国?」 「……えっと、朝陽を産んだときに、亡くなったんです」  恭平が説明を入れると、楓が目を開けたまま固まった。  お祝いの席であまりこの話はしたくなかったのだけど。今までやってきた習慣だったのでつい続けてしまった。  少し気まずくなっていると、楓は同志を見つけたとばかりに微笑んだ。 「我と同じじゃな、朝陽!」 「楓も?」 (えっ)  朝陽と同じようにフォークを突き刺したイチゴを、楓はぱくりと口に入れた。 「おう、我も母の顔を見たことがないぞ」 「そうなの?」 「ああ、我と似ていたとは聞くが……恭平が今やってくれたような絵の機械が、我の頃にもあればよかったのお」 「たしかにー」  話しながらケーキを食べ終えた朝陽が「ごちそうさま!」と席を立つ。 「楓! お風呂出たら一緒にゲームしよ! 先入ってるから早く来てね!」  よほどゲームをやりたいのか、リビングで裸になってから朝陽は洗面所に走っていった。 「承知した」  食べ終わった楓が朝陽の皿も合わせて流しに運び、朝陽の後を追う。 (……楓さん、どんな家庭で育ったんだ……?)  最後にケーキを食べ終わった恭平は、残った一切れにラップをかけて冷蔵庫に入れた。  流しに皿を置くと、風呂場でバシャバシャとはしゃぐ朝陽と楓の声が聞こえてくる。ゲームをすることなんてすっかり忘れていそうな声に、恭平は笑いながらため息をついた。  ポケットからスマホを取り出して、先ほど撮った写真を見る。  三人で写った方を、待ち受け画面にした。

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