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ドラゴン、寝落ちする
◇
部屋の奥に、男が座っていた。真剣な表情で、カタカタとキーボードの上で指を動かしている。年の頃は30ほどだろうか。Tシャツにジーンズというラフな格好で、黒い髪にはまだ直しきれていない寝癖が残っている。
外に出るときには、彼はこの髪を丁寧に直してしまう。それを知っているからこそ、今のしどけない姿が嬉しい。
近寄って、横からそっとコーヒーを差し出す。こちらを振り向いた男の目が、眼鏡の奥で優し気に細められた。
「ありがとうございます、楓さん」
カップに口をつけ、眼鏡を少し曇らせながら男がコーヒーを飲む。その頭に手を伸ばし、跳ねた髪の部分をなでる。見上げてきた男が嬉しそうに目を細め、コーヒーを机の上に置いて立ちあがる。
細い腕が、するりと腰に巻きついてくる。
「ん」
当たり前のように軽く顎を上げる男の唇に軽くキスを落とし、細い体にこちらからも腕を回す。抱きしめると、今にも折れてしまいそうな細さと、柔らかい温もりが伝わってきた。
顔を離すと、胸に男が顔を寄せてきた。
足りない、と甘えるように小さく口を尖らせる男に、またキスをする。今度は舌を入れ、柔らかく濡れた男の口の中をなぞった。
「んんっ……」
舌の端をやわらかく舐めると、面白いように腕の中で男が体を震わせる。その反応に切なさと愛おしさが込み上げてきて、体が熱くなっていってしまう。
ゆっくりと口内を堪能してから口を離す。男の口の端から唾液が糸を引き、唇を濡らした。少し上がった息を繰り返す様も上気した頬も、なんとも艶めかしい。
見上げてくる目は、いつの間にかとろりとした欲望を纏ったものになっていた。
「恭平、そんな顔で見られたら、もう……我慢できぬぞ」
男の腰を掴み、すっかり膨らんでしまった股間を押し付ける。服越しに硬いものに触れ、男が「あん」と甘ったるい声を上げた。互いの膨らみを押しつぶすように腰を動かすと、男が服を握りこんできた。
「も、もうっ……朝陽、帰ってきちゃいますよ……」
「そうだな」
知っているが、一度火がついてしまった体はどうしようもない。
そしてそれは、今腕の中にいる相手も同じはずだった。
手を下ろし、男の履いていたジーンズを引き下ろす。
◇
「ん……」
テレビの中では、いつの間にか映画が終わっていた。
(あれ、何して……)
リビングのソファに座った恭平は、ローテーブルの上に乗った缶チューハイを見た。
楓とコンビニに行って、ついでにお酒とつまみを買って帰ってきたのだ。そして、楓に前から見せてみたかった平安時代が舞台の映画を再生したところまで覚えている。
(寝落ちたか)
段々と意識がはっきりとしてくる。と同時に、今見ていた夢に対して恥ずかしさと罪悪感が込み上げてきた。
(楓さんに抱かれる夢、なんて)
欲求不満なのだろうか。まだドキドキする胸を抑える。夢の内容なんて自分でどうにかできるものではない。申し訳ないと思う一方で、今目を覚まさなかったらどうなっていたのだろうと期待してしまう自分もいた。
確かに楓は忘れがちだが美形だし、好き……いやまあ好きだけど。
いつの間にか、楓の方もすっかり寝入っており、恭平の肩にくたりともたれかかっていた。
「……」
さっき、この手で触られてたんだよな。
腿の上に投げ出されていた手を握ると、ぎゅっと握り返される。コンビニに行くときは何とも思っていなかったのに、妙に意識してしまう。
「楓さん、風邪ひきますよ」
逆の手で軽く肩を叩くと、楓の尻尾がもぞもぞと動いた。続いてうっすらと目が開く。
「ん……」
眠そうに恭平を見た楓が、幸せそうにとろりと笑う。
そのまま抱きつかれたかと思うと、恭平はソファに押し倒されていた。
大きな体にのしかかられ、身動きが取れなくなる。恭平の太腿に熱く、硬いものが押しつけられた。
「もう少し、な、恭平」
恭平の首元に鼻先を当てた楓が、くるくると嬉しそうに鳴いた。牙で喉元を甘噛みされて、恭平の身体が跳ねる。
「ちょっ……楓さん?」
「んあ」
大きな声を出すと、楓の目が大きく開いた。ガバリと身を起こす。
「っ、あ、いや、すまぬ恭平っ、つい寝ぼけて……」
「あ、もしかして、今の夢って……楓さんの夢でした?」
思い返してみたら、楓視点だった気もする。
恭平がぽろりとこぼした言葉に、楓の顔がみるみる青ざめていった。ソファの端で足の間に尻尾を挟み、体を丸めてしまう。
「ち、違うのじゃ恭平、わ、我はそんな……恭平となどと……思っては……」
「夢なんですから別に気にしてませんよ。楓さんなら嫌じゃないですし」
確かに気まずいし恥ずかしいだろうが、大したことではないだろう。恭平が笑いかけると、楓の目がじわりと潤んだ。両袖で顔を隠される。
「全部、全部忘れてくれ……お願いじゃ……」
弱々しく震えた声に、鼻をすする音が続く。
(あ……そうか)
恭平の心が、すうっと冷たくなっていった。
「僕となんて、夢でも嫌ですよね」
笑い飛ばそうとして、顔が引きつった。
男として無理。昔あの女に言われた言葉が、呪いのようにまた蘇ってくる。
楓は種族も違うし同性だし、余計に自分はそういう対象になんてならないだろう。ショックだったに違いない。
「すいません……」
嫌じゃないだなんて、何様のつもりだったんだろう。
いたたまれなくなって楓から視線を外す。
「あ、いや、そういう意味では」
「……大丈夫、です」
「そうではない!」
逃げるように立ち上がろうとした恭平の手を、楓が掴む。
「恥ずかしかっただけじゃ! わ、我が……そんな……風に、恭平を見ておるなど……」
「……そう、ですか」
楓のことだから、恭平に気を使っているだけではないだろうか。つい疑ってしまう。
楓がおずおずと恭平の手に指を絡め、それから握ってくる。軽く手を引かれ、恭平は楓の顔を見た。
見つめ返してくる目は、嘘を言っているようには見えなかった。長く赤いまつ毛に、まだ涙の粒がついている。
「俺は……さっきの夢、ドキドキしました」
「ん……」
「嬉しかったんですよ」
恭平の言葉に、楓の手の力が強くなった。ようやく血の気の戻ってきた顔が、困ったように微笑む。足の間に挟んでいた尻尾が、ぺたりと床に落ちた。
「忘れたく、ないです」
ソファに座った楓の膝をまたぎ、抱き合うように恭平はその上に座った。
そっと——夢よりも大分控えめな手つきで、楓が背中に手を回してくる。
「夢の続き……教えてくれませんか、楓さん」
楓の両肩に手をかける。太腿の下に感じる熱も膨らみも、夢よりもずっとはっきりしている。
そっと恭平から顔を近づける。
唇の柔らかく薄い皮の向こうに熱を感じるのが、愛おしくてもどかしい。猫のようにぐるぐると楓の喉が低く鳴っている。
「ん……」
硬くなってきた股間を擦り付け、息を弾ませる。
「ねえ、ほら、俺、こんなになっちゃってるんですよ……」
楓さん、どうしてくれるんですか、と甘ったるい声で呼ぶ。
強い力で抱きしめ返されるのが嬉しい。
身体を預けて、楓の舌を受け入れる。
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