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鈴虫、捨てられる
楓の家は、すぐ決まった。
山の中腹にある巨大な古民家だ。そこからの景色はどことなく裏山に似ていると思ったけれど、恭平は言い出せずにセイランと楓の会話を聞いていた。
余った時間で名物の釜めしを食べ、特産のガラス細工などをいくつかお土産に見繕う。
新幹線に乗り込み、遠くなっていく特区を見るともなしに見ながら、ただぼうっと堅いシートに体を預ける。
赤いドラゴンのフィギュアを握りしめた朝陽が、恭平の向かいに座った楓を見た。
「楓、やっぱり特区に住むの?」
「ああ」
「……なんで?」
「んー、愛実さんが来たのに、我がいたら家が狭いじゃろう。それに、竜族の町に住んだ方が、何かと便利じゃしのう」
「そう……」
物わかりのいい子供の回答だ、と思った。
自分が今更どう言っても変わらない。それを朝陽に理解させてしまっている。かといって、どうすればいいかなんて恭平にも分からなかった。
「なに、会いたくなったらいつでも来ればいい。新幹線ですぐじゃったろ」
「……うん」
唇を引き結んだ朝陽が、低く答える。
すぐじゃない。顔にはそう書いてあった。
楓の一時間と、朝陽の一時間は長さが違う。
それきり会話も弾まないまま、電車を乗り換えているうちに家の最寄り駅についてしまう。
「……夕飯、何にしましょうか」
「そうじゃのう、何か簡単にできるもの……確か、パスタソースがなかったか」
「ああ、ありましたね」
話しながら家の玄関を開けると、なんだかいつもより玄関がすっきりしている気がした。
「あっ、鈴虫!」
恭平が違和感の正体に気づく前に、朝陽が叫んだ。
ずっと玄関の端に置いてあったはずのプラケースがなくなり、隣にあった霧吹きだけが残っている。
「お帰りー。どうだった?」
リビングから出てきた愛実とともに、肉の焼ける香ばしい匂いが玄関に広がった。
「お夕飯できてるから、先にお風呂に……」
「鈴虫! いない!」
「えっ?」
朝陽の抗議めいた声に、愛実は何のことか分からないとばかりに首を傾げた。
「すず……むし?」
「ほら、玄関のそこに土の入ったプラケースがあっただろ」
プラケースがあったはずの場所を指差すと、「ああ」と笑顔を浮かべた。気づいたわね、と言わんばかりの得意げな表情だ。
「あれね。土しか入ってなかったから片づけておいてあげたわよ。恭平、片付けが苦手なところは昔から――」
「違う! 何で捨てたの!」
涙声の朝陽は、叫ぶなりリビングに走って行ってしまった。音を立てて子供部屋の扉が閉まる。
「なんでって……ただの土じゃないの」
何も理解していない愛実に、ああ、と後ろで楓が嘆息する声が聞こえた。
「……あの土の中には、鈴虫の卵が入ってたんだよ」
恭平の説明に、愛実は顔を顰めた。
「し、知らないわよそんなこと!」
「そうだろうね。俺も説明しなかった」
「悪気があったわけじゃないのよ」
「うん、それも分かるよ」
答えながら、恭平は靴を脱いで玄関に上がった。
「でも、勝手に捨てることはないだろ」
「私、ただ役に立とうと思って……」
「なら捨てる前に聞けばいい」
むっとした顔で黙り込む愛実の前を通り過ぎ、寝室に向かう。
扉を閉めると、ついてきていた楓に抱きついた。
「……疲れました」
小さく呟くと、困ったように楓が恭平の背中を叩いた。
「少しずつじゃと思うぞ、恭平」
「……はい」
頷いて、楓の胸に顔を押し付ける。
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