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パパ、探す
最初に疑ったのは、愛実の連れ去りだった。
(あいつ、何考えて……)
愛実のスマホに何度もかけてみるものの繋がらない。そのうちに、本当にそうだろうかという疑問が頭のなかに出てきた。
愛実が出ていったあの瞬間に、朝陽も引っぱって行けたのだろうか。朝陽だってもう20キロはある。愛実が抱えて問答無用で連れていける大きさではもうない。車に押し込まれたとかならともかく、玄関で黙ったまま一緒に出ていくとは考えにくい。
……そもそも、いつからシャワーの音は聞こえていなかったんだろうか。
服を脱いだ朝陽を風呂場に入れ、シャワーを浴び始めるところまでは確かに見た。その後、愛実と言い争っている間はどうだったんだろうか。
(いや、自分で出てったのか……?)
ぐるぐると思考だけが空回りする。心臓の音が嫌に大きく響いた。サンダルを突っかけて外へ飛び出すものの、やっぱり家のなかにいるかもしれないと戻ってきては家中のタンスを開け閉めし、また家の外に出る。
どうしたらいいのか、何をすべきなのかわからなかった。
「朝陽ー!」
警察に連絡していいのだろうか。でも朝陽の足でそんなに遠くに行けるとも思えないし、きっと近くにいるはずなのに、そんな大事にしていいのだろうか。
(いや……でもそんな、行くって言ったって、どこに)
近所のスーパー、コンビニ、公園、仲のいい同級生の家、楓が働いていたパン屋……ぐるぐると様々な場所を回るものの、どこにも朝陽はいない。見たという手がかりすらなかった。
(やっぱり愛実か……?)
何度かけても、メッセージを送っても、愛実からは既読すらつかない。
(どうしよう、あいつの実家の連絡先なんて消しちゃったし、グルだったら連絡しても意味なんかないだろうし)
警察に連絡したけれど、それだけで魔法のように見つかるわけでもない。
お腹が空いたらひょっこりどこかから出てくるのではないだろうか。
最後に残った場所――裏山の藪をかき分けながら登っているうちに、辺りは暗くなってきていた。
「朝陽ー! あさひー!」
大声で呼ぶものの、恭平の声と風に葉が擦れる音しか聞こえない。
汗で濡れたサンダルの中に土が入り、足が滑った。
(……朝陽がいなければ、なんて、思ってしまったから)
関係ないとはわかっていても、自分の考えのせいで朝陽が消えてしまった気がした。
(ここにもいないなんて……まさか、どこかで水路にでも落ちたんじゃ……事故……いや……)
悪い想像が止まらない。
心は焦るばかりなのに、もう足がついてこなかった。
息を切らせて立ち止まった恭平のポケットで、スマホが小さく音を立てた。相手を確かめる前に通話ボタンを押す。
「はい、鏡野です!」
「おお、恭平か?」
「か、楓さん!」
低く柔らかい声に、一気に緊張の糸が切れた。
「楓さん、朝陽が、朝陽が……! いなくなって、どうしよう、俺のせいで、朝陽が」
支離滅裂な言葉をぶつけると、うむ、と電話の向こうで頷く声がした。
「そう、朝陽なんじゃがな、我のところに来ておるぞ」
「……えっ? 楓さんのところに?」
自分の耳が信じられなかった。
特区に行くにはまず駅まで行き、それから電車を乗り継いで、新幹線に乗らなくてはいけない。
家の下見や引っ越しで何回か楓の家には行ったが、小学一年生の朝陽が一人でそれをこなしたなんて、とても信じられなかった。
「腹が減ったというので、とりあえず食事を食べさせているが……一人で来るなんて、何があったんじゃ?」
「い、今すぐ行きます!」
叫びながら、恭平は暗い山道を駆け下りていた。
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