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(27)土井さんのお見舞い
土井さんがミイラ男みたいになってるのを見て、僕はまた涙が出てきてしまった。
「うっ!土井さ~ん、ごめんなざい~ 」
「 佐藤君 !? 」
ベッドに駆け寄った僕の涙と鼻水顔に土井さんは驚いたようだった。
「 痛いですよね。本当にすいませんでした…… 。僕が外階段に誘ったからあんな目に 」
「 佐藤君怪我はなかったかい?無事だと聞いていたけど会えて安心したよ 」
椅子に腰掛けて土井さんの話を聞いた。
山本先生の診察結果は、鼻の骨折と頬骨の陥没、裂傷も酷く、準備が出来次第形成手術になるそうだ。
「 鼻にプロテーゼを入れたり、千切れた鼻を左右対象にしたり、それよりも私は顎にひどいズレがあるのがまずいらしいんだ。ほら、出っ歯でネズミみたいに食べると女子職員にからかわれてたろう?将来的に顔が歪んで大変な事になるらしいんだよ 」
山本先生は、この際その問題も一気に手術して解決するべきだと提案してきたそうだ。
ただ、自費治療になる為費用がかかるらしく、土井さんはためらったそうだ。
「 加藤弁護士がその後来てくれて、怪我をさせた鈴木さんと男が慰謝料で解決したいと申し出ていて、費用はそれでカバーできると説明してくれたんだよ。健康の為にも是非手術して復帰して欲しいと背中を押してくれてね 。手術を決意したんだよ 」
手術は 口腔外科の先生や他の外科医を呼んで大掛かりなものになるらしい。
日にちが決まったら教えてもらう事になった。
土井さんもご両親が他界し身寄りがない為、欲しい物は僕が届けると約束した。
加藤弁護士は土井さんの私物を施設から運んで来ていた。
仕事に復帰するまで、施設は労災扱いにしてくれるとの事だった。
よかった~。
ほんとに仕事に抜かりがないよね~。
あやかりたいよ~。
柔らかいプリンは食べられるようなので、備品の冷蔵庫に入れました。
「 佐藤君次の仕事は決まりそうかい? 」
僕の仕事を心配してくれる優しい土井さん。相手が稼いでるから、しばらく専業主夫になると教えたら、相手に興味が湧いたようだ。
手術が終わったら、一緒にお見舞いに来ますと約束したよ。
土井さん龍さんを見たら驚くかなぁ~?
また明後日来ると告げてお|暇《いとま》した。
あ、僕の苗字菊田になった事教え損ねたよ。
次でいいか…… 。
打ち合わせまで1時間程あるので、手土産を買いがてらアーケード街を通り抜ける事にした。
工務店は山本クリニックから徒歩で10分と近くにあった。
手土産何にしようかなあ~?
アーケードの果物屋をのぞいてみようかと歩いていると、通行人が左右に分かれて行く先にひとりの老婦人が立っていた。
その老婦人は初冬なのに着物姿で羽織は着ておらず、寒そうに見えた。
表情も不安げで同じ所でウロウロしていた。
あの表情は…… 。
足元を見ると、失禁した名残がアーケードのタイルに水たまりを作っていて、老婦人は何度も踏んだのだろう、草履と足袋が濡れていた。
あちゃ~、あれじゃ染みて冷たいよね。
不意に目が合って、僕が微笑むとこっちに向かって手を伸ばしてきた。
僕はゆっくり近づいて行った。
「 どうしました?何かお困りですか? 」
「 お茶会に遅れそうなの。どこか知らないかしら? 」
不安げな口調だ。
「 お茶会ですね? お調べしますので、まずは暖かい場所に入りませんか? 」
僕は意識して柔らかい声で話しかける。
笑顔は絶対に消さない。
この老婦人は恐らく認知症だろう。連れはいないのかな?
周りを見渡すと、目の前は古めかしい洋品店だった。
その右手は薬局、左手はハンバーガーショップだ。
うーむ、助けてくれそうなのは…… 。
丁度洋品店のドアが開き、中年女性が顔を出した。僕が老婦人の手を引いているのが気になったのかもしれない。
「 突然 すいません。よろしければ着替える場所を貸していただきたいのですが 。こちらのご婦人の服が汚れてしまったもので 」
「 いいですよ。さ、入って下さい 」
「 床が汚れてしまいますが大丈夫ですか? 」
後で掃除しますよとの言葉に甘える事にした。
店の奥の事務所にはパソコン机、テーブルと折りたたみ椅子が置いてあり、とりあえず老婦人を座らせた。
部屋はストーブで暖かく、お店の女性はお茶を老婦人の前に置いた。
老婦人は小さな巾着を手首にぶら下げていたので、お店の人に中を見てもらう。
財布も身分証もなかったが、巾着の外側に、名前、住所と電話番号が記入された布が縫い付けられていた。
老婦人は高橋 あやのさんとわかった。
「 僕は隣の薬局で紙の下着などを買ってきますので、お家に電話をお願いしていいですか? 」
「 わかりました 」
お店の女性が電話をかけ始めた。
「 あやのさん 」
「 はいよ」
よかった、ご本人だ。
「 僕はちょっとお茶会の事を調べてきますから、ここでお茶を飲んで待っていて下さいね。すぐ戻りますからね 」
「 そうかい?悪いねぇ。よろしく頼むねぇ 」
「 はい、行ってきますね 」
お店のレジにはいつの間にかおじさんが座っていた。
ご主人かな?頭を下げて出口に急ぐ。
隣の薬局で履かせる紙オムツ、介護用ウェットシート、ラテックスの手袋を買う。
急いで戻ると、息子のお嫁さんが迎えに来てくれると教えられホッとした。
尿失禁で着物を濡らして汚れているので、着替える事になった。
僕はリュックからパスケースを取り出して女性に見せた。
免許証ではなく、介護職員初任者研修の終了証だ。
「 僕は介護職員として特養老人ホームで働いてます。男性ですが、着替えをお手伝いします 」
「 助かります。ご家族には服を着替えると話しておきましたよ 」
お茶を飲み、お嫁さんと電話したあやのさんは落ち着きを取り戻したようだった。
着替えをしますよと声をかけた。
「 何で着替えなきゃならないの? お茶会はどうしたの?」
あやのさんはなかなか納得しない。
「 調べてきたら、今日は洋装のお茶会だそうですよ。皆さん暖かいセーターとパンツスタイルでした 」
「 あら、そうだったかしら? じゃあ着替えようかねぇ」
「 ただ今お持ちしますね 」
お店の女性が慌てて商品を取りに行ってくれた。
あやのさんの着物の帯を解き、襦袢姿になった頃、洋服を手にお店の女性が戻ってきた。
「 Mサイズで大丈夫かしら? 」
「 多分大丈夫でしょう。 まずは上から着替えますね 」
お店の女性が襦袢をはだけて脱がせてから、僕が長袖の下着を着せていった。
続けてニットのブラウスにアンサンブルのニットカーディガンを羽織ってもらう。
よし、上半身はオッケー。
ラテックスの手袋を手にはめながらお店の女性に頼む。
「 新聞紙はありますか?足を載せますので」
僕はしゃがんであやのさんの草履と足袋を脱がす。足元に新聞紙を敷き、そこへ立った隙に襦袢を取り去る。
やはり下着ははいていなかったか。
ウェットシートを何枚も使い、股間、お尻から足を拭いていく。履かせる紙オムツとズボンを右足に重ねて履かせる。
今度は左足を順に。
「 なるほど、オムツもズボンも一気に履かせると早いですね。さすがー 」
お店の女性が感心している。
椅子も念のため拭いてからあやのさんに座ってもらった。
靴下と靴も履き、あやのさんもスッキリしてご機嫌になった。
ゴミを捨て、着物はビニールに入れてもらう。トイレで手を洗い戻ると待ち合わせの時間まで後15分!!
マジですか!?
「 僕、用事があるから後お願いしていいですか?」
「 あら、もうすぐご家族が来るからいてほしいわ 。向こうもお礼がしたいでしょうし 」
「 いえ、お礼なんてとんでもないです。あやのさん僕失礼しますね 」
「 おや、帰るのかい?また遊びにおいで 」
「 はい、ありがとうございます。さようなら 」
「 待って!せめて名前と携帯番号書いていってちょうだい! 」
お店の女性に請われ、名前と携帯番号を書いて急いで店を出た。
あ、また佐藤 瑠衣のままにしちゃったよ。
ま、いいか~。急げ急げ~。
途中の果物屋さんでりんごを購入。
蜜りんごふたカゴ。
工務店の分。菊田家の分!へへっ。
工務店の店長は、お義父さんのご友人だった。
今回のリフォームは息子さんの小野さんに任せてあるそうだ。
若旦那の小野さんはとても感じのいい人で、龍さんから色々事情を聞いていたようだ。
「 はじめまして、小野 友晴です。よろしくお願いします 」
若旦那から名刺を渡される。
「 菊田 瑠衣です。よろしくお願いします 。これよろしかったらどうぞ 」
蜜りんごを手渡しすると喜んでくれた。2歳の娘さんが大好きらしい。よかった~。
菊田姓でややこしいから、瑠衣とよんで欲しいと頼んだよ。
「 ところで瑠衣君、早速だけどポールダンス のポールはどこに設置したいんだい? 」
「 はひっ!?」
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