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(30)結婚指輪を選ぼう!
ジュエリーショップ『 ワルキューレ 』のドアをくぐると、松越デパートと同様にガラスケースが並んでいた。
開店して間もないせいか他のお客さんは居らず、僕はちょっぴりホッとした。
一人のダークスーツを着た若い女性がやってきて、いらっしゃいませと声をかけてきた。
「 小野 玲さんからの紹介で来ました、菊田です 」
龍さんが告げた。
「 はい、店長から聞いております。ようこそいらっしゃいました。こちらのお部屋へどうぞ 」
ソファセットのある部屋へ通され、お茶を飲んで待つ。どんな指輪を見せてくれるのか楽しみだよ~。
ノックの音がして、アラサーの女性がジュエリーケースを持って現れた。
「 おまたせいたしました。ジュエリーワルキューレへようこそ。|私《わたくし》店長兼デザイナーの笹 京子と申します 。この度はご結婚おめでとうございます 」
龍さんが名刺を受け取る。
「 ありがとうございます。菊田です 」
僕もペコリと頭を下げた。
「 玲さんから男性用の結婚指輪を探していると聞いていくつかオリジナルデザインをお持ちしてみました 」
笹さんはお店の名前さながらに迫力のある長身美人だった。長い髪をたなびかせて、勇ましく戦ってくれそうだよ~。
僕勝てる気がしない~。
…… 僕なんかより龍さんの横が似合いそう。
う…… なんか落ち込みそう。
笹さんは笑顔でジュエリートレーをテーブルに並べていく。
黒のベルベットに指輪の輝きが映えてるよ。
「 わあ~ 」
「 瑠衣、サングラス外してみた方がいいぞ 」
「 あ、そうだね 」
忘れてたよ~。
サングラスを外して、向かい側の笹さんに照れ笑いしちゃった。
「 あら 」
「 え?」
「 いえ、菊田様は瞳が琥珀色なのですね 。とても美しいので驚いてしまいました 」
も~、笹さんお世辞が上手だね!笑顔サービスしとくよ、僕。
あれ?龍さんみたら頬がヒクヒクしてるぞ?
顔面神経痛か?
「 瑠衣、どれがいいんだ? 」
「 え、そうだな~。龍さんはどんなのが好きなの? 」
「 ピンクとか金ピカ以外ならデザインにこだわりはないな。」
まあ、龍さんは男らしいからな~。ピンクは嫌なんだね。
端からひとつひとつをゆっくり見ていく。
女性用は華奢でさすがに僕の指にも小さいや~。
あまり幅が細いと目立たないし、せっかくだから派手なのが良いかな~?
「 龍の指輪とかないかな~ 」
「 ございますよ。」
「 えっ!? 」
びっくり!一体どんなの ⁉︎
「 干支をデザインに選ばれるお客様もいますので 。こちらはオリジナル作品です 」
それは2匹の龍が微妙に顔形を変えてリングから浮き出るように飛んでいた。
女性用もかなり幅が太く、だがしなやかな龍達だ。
「 目の部分はお好きな宝石を入れられますよ。例えば瑠衣様の瞳と同じイエローダイヤモンドもございます 」
今2匹の龍は、それぞれ赤と青の宝石が入っている。
「 へ~そうなんだ~」
とさりげなく指にはめたら入っちゃったよ、女性用がぴったり!うそーん。
「 瑠衣、ぴったりだな 」
龍さんが可笑しそうに笑う。
龍さんも試しに渡してはめてもらうとそれもぴったり。うそーん。
「 あら、お二人とも直しが要りませんね 」
まるであつらえたかのようだ。
僕の心を読んだかの様に笹さんが語りかける。
「龍は中国では古来より神獣と伝えられる生き物です。私はこの指輪の龍があらゆる厄難を退け、お二人を守りますようにと祈りを込めながら作りました。世界で唯一のデザインです。二度と同じものは作らないとお約束します 」
世界で唯一のデザイン。僕達だけの龍。
僕はこの指輪が欲しい!
「 この龍の指輪は製作にふた月かかりました。出来上がったのがつい先日のこと。まるでお二人が訪れるのを待っていたかのようですね。」
笹さんはため息をつきながら話す。お世辞ではなく本当に感じ入るものがあったようだ。
龍さんは僕をじっと見つめていたが、おもむろに笹さんに問いかける。
「 目の宝石は左右違う石を入れてもらえるのか?例えば右目がルビー、左目がイエローダイヤのように 」
「 オッドアイですね。もちろん可能です 」
龍さんは赤と黄色目にしたいの?
僕が龍さんに首を傾げて表情で問いかける。
「 俺は琥珀色の目を持った赤い龍を手に入れたからな 」
そういうことか。
龍さんの指輪には僕を表す色を入れる。
そして僕は。
「 僕は青の龍の物だから、右目がイエローダイヤモンド、左目をサファイアにしたいな 」
意図を汲んでくれるだろうか?
「 うん、それが一番似合うと思う 」
「 宝石を入れ替えて、指輪の裏に名前や日付を刻むのでしたら明日のお受けとりが可能です 」
「 え!? そんなに早く?」
驚いて声がでちゃったよ!
「 …… 悪いな急がせてしまって」
「 とんでもございません。玲さんのご友人とあれば最優先でご用意させていただきます 。それに…… 」
チラリと僕をみていたずらっ子のように笑いながらつけ加える。
「 菊田様も、一刻も早く指輪をはめなくては心が休まらないかと思いまして…… 」
「 …… それを理解してもらえてありがたい 」
「 玲が話してましたよ。新婚さんなのにうちでインドカレーとアップルパイを作らせてしまったって。三ツ星レストランのシェフ仕込みで極上の美味しさだったと絶賛してましたよ 」
「 玲さん大げさだなぁ。僕の一番の得意料理はギョーザなのに…… 」
「 あら、ぜひうちにも来ていただきたいわぁ!」
その強引さ、玲さんとおんなじだよ。
「 瑠衣、勘弁してくれ…… 」
龍さんが頭を抱えていた。
指輪の裏には入籍した日付と、二人のイニシャルを刻むことにしたよ。
明日の午後、僕が指輪を受け取りに来る事になった。
土井さんに頼まれた細々した買い物をして、お見舞いをしてから受け取りに行くと龍さんに告げる。
明日は寄り道せずに帰るからね! 龍さん!
だって新婚さんだからね!えへへ。
会計は龍さんがカードで払ってしまった。
お値段後で聞かないと。僕も半分持つからね!
お店のガラスケースに、ピアスも飾られていて、赤色が目に入ってきた。
僕ピアスの穴開けてないしな~。
「 瑠衣はピアスをつけないのか? 」
「 ピアスは目立つからね。つけたいけどなかなか勇気がでなくて 」
「 一緒につけるか?」
「 え!?いいの? 」
「 帰りに山本先生に開けてもらうか 」
「 片方だけ付けてる男性も結構いますよ。ペアのピアスをお二人でひとつずつ着けてもいいですね 」
笹さんがアドバイスする。
ちなみに、男性は左耳に開けてくださいと念を押された。
右耳だとゲイになるらしい。
ダメダメ~僕びびりなんだから!
断固左耳にします!
龍さんがピアスなんて意外だよね。会社では大丈夫なのかな?心配して聞いてみたよ。
「 今時は女性はみんなしてるぞ。男性はまあ、会社では地味なのにすれば大丈夫だろ。社長が俺に何かいうとは思えねぇしな 」
え、それって聞いちゃいけないやつですかね?
「 ファーストピアスは大体3ヶ月は外さないので、医師に相談して目立たない素材のものを付けるとよろしいかと 。それまでに指輪にぴったりのピアスのデザインもいたしますよ?」
ゆ、指輪にぴったり~?笹さん商売上手だな~。……欲しいけど高いかな~。
「 瑠衣の誕生日は4月だろう?それまでに仕上げてくれるか?」
「 承知しました。いくつかデザインが出来ましたらご連絡いたしますね 」
「 よろしく頼む 」
僕の旦那さんがスパダリ過ぎます~。
カエラ先生、またメールしますね~!
「 山本ビューティークリニック 」を訪れて、山本先生にピアスを開けてもらおうとしたら、今から手術だと受付で言われたよ。
山本先生が僕達だと知らされて、診察室に呼んでくれた。
なんと、急遽土井さんの手術のメンバーが集まれるからとのこと。日曜日だから他は休診が殆どなんだね。
土井さんも驚いていたが、あれよと言う間に手術の準備で運ばれていったそうだ。
ピアスの話をしたら、
「 龍がピアスを開ける日が来るとはね~ 」
と嬉々として左耳たぶの位置を決めてから冷やし、消毒し、ニードル型のピアスガンで開けてもらいました。
龍さんはお客様の要望で山本先生が開発した透明な素材のファーストピアスにしたよ。
僕全然痛くなかったよ、さすが先生!
手入れと注意点、3ヶ月後に診てもらう予約をしました。
手術は5~6時間かかるそうなので、昼食を食べてから戻って来る事になった。
個室のある和食屋で昼食を食べながら、龍さんが勤めている会社の話になった。
僕がうっかり素通りした(すんません)
龍さんの会社は、一族経営がかなり大きくなった食品卸売会社で、社長は龍青会会長の幼馴染なのだという。
明日社長には僕の話をするけど、会社の同僚たちに同性婚だと公表したいが構わないかと聞かれた。
指輪でバレるのは時間の問題らしく、僕が顔を出さないなら問題ないだろうと。
「 まあ、一番は瑠衣が俺のモノだと知らしめて牽制したいだけだがな 」
ヘビ避けになってくれるなんて優しい旦那さんだな~。
「 龍さんがそうしてくれるなら、機会があれば会社の皆さんにも挨拶するよ 」
お菓子とか差し入れすればいいのかな~?
来週から年末まで繁忙期を迎える為、ピーク時は22時過ぎる事になるという。朝は7時出勤だって! ブラックじゃん!
つい叫んじゃったよ!
「 まあ、その分ボーナスが公務員並みにいいんだよ 。こき使われるけどな 」
龍さんが苦笑いしている。
年明けはゆっくり温泉付き客室のある旅館に新婚旅行に行く予定だと明かしてくれた。
なにそのサプライズ!
龍さん大好き!
個室だから膝に乗ってちゅーしちゃいました。
リフォームの打ち合わせも、小野さんが昼休みに龍さんの会社まで来てくれるそうだ。
家具は引き渡し日が確定したら見に行く予定です。
土井さんの手術も無事成功し、面会は翌日からとなった。
翌朝龍さんを会社に送り出し、大人しくタクシーに乗りました。
土井さんの元気な様子を確認して安心したよ。
結婚指輪も受け取って、斜めがけ鞄にしっかり仕舞いました!
よそ見しないで帰りましたよ!旦那さん!
夕食の支度が終わり、19時過ぎに龍さんが帰宅した。
腕には見知らぬ若い男を抱えていた。
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