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Year 2 - #4 ※R

Year 2 - #4 / Total #8 …… (Year 2 - #1) ミコト 来てくれてありがとう もうあっという間に1年経ったね 三ヶ月に一度だけ会える事が何よりの楽しみ この花はムスカリって言うみたい 葡萄みたいで可愛いよね ミコトが来る時はいつも咲いてるの 春の花なんだって 桜の下にはいろんな花があるけど オレはこの色が一番好き ミコトは何色が好きかな? 前にここと外は色の数が全然違うって聞いたの ほんと? もしかしてオレとミコトたちの目の構造って違う? ミコトの黒くてちるちるの髪と瞳が凄く綺麗で大好き 黒で合ってるかな? 肌も雪みたいに白いよね そう言えば最近目の下にクマがあるけど大丈夫? ちゃんと寝れてるのかな ミコトに向けたメッセージのはずだったのに 独り言みたいになっちゃった …… インクで満たされたペン先を紙の上で走らせ終え、ミコトはひとつ息を吐く。 サクヤの書いてくれた文字を、どうにかして形に残しておきたかった。 インクが乾くのを待っている間、ガラスのすぐ向こう側のサクヤを眺める。 指先も、足も、服も、そして椅子も、その青紫色の花で汚す事をサクヤは全く厭わない。 服は毎度新品のようになっているが、流石に家具はそうはいかないのだろう。 これまでにサクヤが付けてしまった汚れは、鮮やかな色彩を失って、薄茶色の痕跡としてあちらこちらに残っていた。 そしてその上に眠るサクヤは。 最初こそ脚を揃えて綺麗にそこに収まっていたが、途中で手を投げ出し、脚を投げ出し、一度落ちそうになりながらの現在。 やはり腹を守るように、くるりと身体を丸めて小さくなっていた。 柔らかそうな頬が、押し付けられた座面によって、いつもの形を変えている。 寝顔はあどけなく、なんの邪気も感じないのに、何か嫌な夢でも見ているのかもしれない。 時折、眉間に皺が寄り、きゅ、と唇が噛み締められた。 「サクヤ」 呼んでも聞こえない、だから起きるわけではない。 それでもミコトは自然と、愛しいその名を口にしてしまう。 名を呼んでも許されるのは、3ヶ月に一日、この部屋だけ。 だから何度でも。 どれほどの時間が流れただろう。 そのうち、もぞもぞと身動ぎ始めたサクヤ。 何かに気付いたようで、ハッと目を開け、キョロキョロと辺りを伺っている。 そしてこちらに気付いたようで、大きな欠伸と共に眠たげな瞳を擦りながら、椅子から脚がスッと降ろされる。 「おはよう、サクヤ」 『うん、おはよう……寝過ぎた』 ミコトの部屋に時間を測るものは一つもない。 ガラスを隔てたサクヤの部屋にも、あるのはたった一脚の長椅子だけ。 しかし、サクヤが出入りする開口部の向こう側。 そこに広がる空間には、それらしき物があるようで、時折そちらを伺っている。 『起こしてくれていいんだよ?』 「はは、どうやって?」 忙しなくぱたぱたと折れながら文字を紡ぐサクヤの指先が、ミコトの頭上を指す。 施設長に声を掛けろ、という意味なのだろう。 「いや、いいんだ。ここにいる間はサクヤ以外の誰も考えたくない」 『施設長怖くないよ、遠慮しないでね』 本心だったが、サクヤにはミコトが施設長を恐れていると、そう捉えられているらしい。 小さな寝癖を揺らしながら、心配そうな顔でそう綴るサクヤに、ミコトはぎこち無い笑顔を浮かべながら頷く。 怖いわけではない、けれど。 『何してたの?』 「書き取りをしていたよ。サクヤの綴った文字を書き留めておこうと思って」 『紙だ。持って来られてよかったね』 「うん、許可が降りるまで思ったより時間が掛かったけれど」 書き連ねた紙面を見せながら笑うと、サクヤは驚いたように瞳を瞬かせる。 『これ覚えてる。結構前のお勤めの時に、オレが書いた内容だ』 「そう、もう1年前かな……この時の光景がずっと頭から離れない。今日みたいによく寝てて可愛かったし」 『ずっと見てたの?』 「もちろん」 サクヤとの逢瀬が始まってだいぶ慣れた頃、ミコトの何かが達成される度に、この面会時間が伸びてゆくシステムなのだと知った。 そんな古典的な、と思ったが、ミコトは自分の単純さを嫌というほど思い知る事になる。 おかげで我武者羅に勉強したし、父の協力の元、アカデミアの人気バイオ研究室に転がり込むことにも成功した。 『せっかく半日まで時間増えたのに、半分は寝ててごめんね』 「いいよ、これはサクヤが寝てる時に書き進める事にしてるから気にしないで」 『ふふ、ありがとう。ねえ、そこの1ページ前を捲って見せて欲しい』 身を乗り出すように額を寄せてくるサクヤに、ミコトはより見やすいよう向き直す。 じっと文字を眺める目と、その繊細な睫毛が、瞬きの度に揺れている。 できる事なら、そこに生えた本数も、長さも、全て記録してしまいたい。 「……このページはサクヤが初めて文字を綴ってくれた時のだよ。俺はサクヤ程字が上手くないから恥ずかしいけど」 『ずっと前の事なのにね……覚えてられるんだ、凄いね』 賢いサクヤはその特殊な育成環境からか、偶に突拍子のないことを言う。 それでも褒められる事が嬉しくて、ミコトは少しだけはにかむ。 「一度見たら忘れられないよ、特にサクヤの全ては俺にとって強力だから」 『オレそこの綴り間違ってた?』 「うん、でもサクヤらしくて俺は好き」 ミコトにとって非常に愛らしく感じたし、更に庇護欲を掻き立たせるのだ。 持ち込みの認められた紙類の束。 遠い昔は大して高価ではなかったという厚いノートを閉じて、ミコトは額をガラス面に擦り付ける。 「持ち出しは禁止されたから、この部屋に置いておくだけだけど。一緒に読み直したりしようか」 『なら、ミコトの事も記録しておいて』 「それは少し恥ずかしい」 『オレも同じだよ? でもオレは全部を覚えていられないから、お願い』 少しだけ眉を寄せて圧をかけてくる悪戯な表情は、ミコトの心情をグチャグチャにかき混ぜる。 サクヤのためになにかしてあげたい、望むものは何でも差し出したい。 「このやり取りも残す?」 『どうしようか、でもふたりの秘密じゃなくなっちゃうね』 視線を上げたサクヤの額が、ミコトの額に寄せられる。 音の振動すら響かない数センチ厚のガラスは、こうして温め続けたら、いつか向こう側に体温が届くのだろうか。 無数の監視カメラは至るところに設置されていて、数も場所も把握できていない。 そもそも禁止されている行為は一切ないが、けれどもこうしてふたりの影で交わされる思いは、誰にも見せたくない。 『すき』 初めてサクヤから好意を形にされて、もう1年以上が経った。 お互いの名と、頻繁に使用する単語は、いつの間にか独特な手の形で表現するようになった。 この愛の囁きもそのうちの一つだった。 「俺も、好きだよ、サクヤ」 溢れんばかりの幸福感が胸のうちに満たされるも、同時に残りの年数を思って絶望も抱いてしまう。 ……サクヤはこの役目が終わったらどうなるのか、そればかりは外堀から攻め続けても分からなかった。 『どれくらい好き?』 サクヤからの愛を測るような物言いに驚いた。 そして蒼く染まった指先から視線をあげて、数センチ先の瞳を凝視してしまう。 酷く潤んだ瞳。 その潤いは下瞼を伝い、重力に逆らいきれずに、目尻から落ちた。 たった一粒だけの、真珠のような涙。 「どうしたの、何か悲しいの?」 ふるふると頭を左右に揺らすサクヤ。 ペタリと張り付く指先が、小さくガラスを叩く。 『ミコトがいて幸せなの、でも、オレ欲張りだから。触りたいなぁって』 自分と同じ思いを抱くサクヤに胸が激しく脈打ち、頷くことしか出来ない。 「俺も同じだよ、いつだってサクヤに触れたい」 『嬉しい』 「全てを差し出してもいいくらい、サクヤだけが好き」 『オレも好き』 そしてピタリと止まる指先。 すきなの あいしてるの けれども柔らかそうな唇が、はっきりとそう動く。 整然と並んだ白い歯の奥、赤く熟れた粘膜に包まれた舌が僅かに見えて、意味も分からず衝動のまま口元を寄せる。 伝わってくるのは冷たいガラスの無機質な硬さだけなのに、同じように唇を寄せてきたサクヤに、下半身が凶暴な熱を帯びる。 「何、これ……俺、おかしくなりそう」 『見て、ミコト。おそろいだよ』 ペロリと服を捲くるサクヤ。 その下に隠れていた淡い光を帯びた皮膚と、下衣に隠れてはいるものの、ふっくらと不自然に膨らんだ腹部。 『ミコトがオレをこうするの』 そしてその下で、ミコトと同じように、激しく存在を主張する下半身の真ん中。 『それ』 同様に熱り立つミコトの下半身を指差しながら、サクヤは下唇を噛み締めつつ口角を持ち上げる。 『オレの中に挿れたら赤ちゃんできるんだよ』 ミコトは頭を殴り付けられたような衝撃に、息を呑むことしかできない。 そんな破壊力を持った言葉を綴った直後の指先で、サクヤはゆっくりと腹を撫で付ける。 慈悲深いのに何処か淫猥さを感じさせる動作から、目が離せない。 堪らず、握り拳を作った手を、ガラスに力強く押し付ける。 「サクヤ」 どこからか漂う甘い香り。 これが邂逅の終わりを告げる合図なのだと、嫌でも理解してしまう。 顔は上げず、視線だけをミコトに絡ませながら、サクヤは笑う。 「俺、頑張るから。サクヤが早くここから出られるように、何でもするから」 『ありがとう、嬉しい。でもお役目は10年って決まってて、例外はないの。ごめんね』 サクヤの上衣の裾がパサ、と落ちた。 膨らんだ腹も、性器に押し上げられた布も、隠れてしまう。 その朱く染まる頬は扇情的で愛らしく、そしてミコトに酷く劣情を植え付ける。 こんなにも愛しいのに、同時に恨めしく思ってしまう。 サクヤも同じように自分を求めてくれていると言うのに、一体自分はなぜ、ここにいるのだろう。 なぜサクヤは向こう側にしかいないのだろう。 「……その後は?」 サクヤとの触れられもしない逢瀬を重ね、渇望を深めてゆくだけの虚無。 それでも自分はまた4ヶ月後にはここに来る。 国のためではなく、会いたいという自分自身のエゴのためだけに。 こんなにも自分を狂わせる、別れ方をさせられるのに。 『ミコトが望むなら』 そして脈絡もなくぴくり、と身体を揺らしたサクヤ。 スピーカーから何かを咎められたのだろう、ほんの少しだけ唇を尖らせ、そしてゆっくりと立ち上がる。 終わりの時刻だ。 『また来て、約束』 何度も何度も頷くミコトに、細められる桜色の瞳。 拭った涙でガラスに『だいすき』と書いたサクヤは、振り返ることもせず部屋から出ていってしまった。 「……施設長、シャワーブースをお借りしてもいいですか」 『許可しよう』 一拍の間も置かずに頭上から響く声に驚くこともせず、ヨロヨロと立ち上がったミコト。 こんな姿では帰ることすら到底不可能だ。 着ていた衣類を寝台に脱ぎ捨て、シャワーブースの戸を荒々しく閉める。 キュッと水栓を捻れば、シャワーの吐水口から注ぐ温い水がサラサラと降り注ぐ。 狭い室の壁に、両手を強く押し当て、荒い息を吐き出しながらズルズルと座り込む。 濡れて額に張り付く髪に構ってすらいられない。 首筋を伝う雫が、脈打つ血管の上を滑り落ちていく。 頭の奥が、重く痺れるように熱い。 体内が焦がれる程の衝動の源泉は、明確だった。頭から離れないサクヤの顔と、鼻腔にこびり付いた甘い匂い。 本能を苛むその残像にすがるように、ミコトは己の股間に手を伸ばし、硬く立ち上がった熱を握りしめた。 一度火がついた性衝動は、生半可なことでは鎮まらないことはこれまでの体験から知っている。 水滴と体液が混ざり合い、生々しい滑りを生む。手のひら全体でやわやわと締め上げ、根元から先端へと圧をかけるたび、腰がガクガクと震えた。 「はっ……、ぁ……っ」 呼吸が乱れ、視界が湯気と快感で白く霞んでいく。 熱がピークに達し、限界を迎えた瞬間。 ミコトは背筋を跳ね上げ、壁に頭を押し付けた。 「っ……!」 激しい射精の波が訪れ、濁った白濁が細かな水が流れる床へと叩きつけられていく。 体内の圧力が一気に抜け、脱力感が波のように押し寄せるも、陰茎の根元が緩く存在感を主張し始めた。 「最、悪だ……」 中途半端に固く、歪なままの生殖器。 薄々感じてはいたが、この身体は厄介な事が多い。 サクヤの誘いを真に受けて、繁殖しようとしているのだろう。 完全に膨らみ切ることもできず、かといって不完全燃焼のまま萎えることも許されない。 内部に不快な熱と不完全な圧迫感が残ったままだ。 「っ……なんだよ、これ……っ」 シャワーの温水が虚しく肌を叩く。 大きく息を吸い込み、胸を上下させて荒い息を吐き出す。 こんな場所で、美しい真珠の部屋のすぐ側で、したくはなかったのに。 芯にある熱が全く引かない。 寧ろ根元の疼きが神経を苛烈に逆撫でしてくる。 ミコトはぐったりと力なく項垂れながら、気持ちと身体とは裏腹に、垂れ下がろうとしない性器を見下ろした。 先端からはまだじわじわと白濁が滲んでいる。 熱は冷めるどころか、二度目の衝動を煽るようにドクドクと不気味な脈を打ち続けているのだ。 足りないのだ。こんな程度の慰めでは、全然。 一度吐き出したことで落ち着くどころか、体内の渇きが露わになってしまった。 脳裏に浮かぶのは、自分を狂わせるサクヤの姿。 想像しただけで、下腹部がキュッと締め付けられ、萎えかけた一本が再び恐ろしいほどの硬度を取り戻していく。 「……は……獣、みたい」 ミコトは苦悶の声を漏らし、自嘲気味に息を吐いた。 抗うことを諦めた彼は、まだ自分の精液で滑る手で、再びそれを握りしめた。 一度目よりもずっと乱暴に、しがみつくような強さで握り込み、上下に扱き始める。 膨らみきれない根元に指先が触れる度に、痺れる鈍痛と、それを上回る過剰な快感が染みのように広がっていく。 「ふ、……ぁ、……っ」 寄りかかろうと壁に寄せた背が、細かな水滴で滑る。 荒い吐息と生々しい水音が何度も、何度も響き続け、益々理性を鈍らせてゆく。 「……サク、ヤ」 青紫色に染めた指先と、そこに乗る丸みを帯びた貝のような爪。 指の腹で花弁を潰すサクヤの動作を思い出しながら、先端を弄る事が辞められない。 触れてすらいないのに、清潔感の塊のような衣類に卑猥な染みを作っていたサクヤ。 清らかで無垢なものと決め付けていたからこそ、あの破壊力たるや。 あの器用な指先は、サクヤにも備わった性器をどのように撫でるのだろう。 そしてその指先が紡いだあの言葉。 『オレの中に挿れたら赤ちゃんできるんだよ』 もう純真ではいられなくなったミコトは、それなりの知識も得た。 それでも無垢なものだと無意識に感じていたサクヤを、脳内で汚すようなことはしなかったのに。 「っ、ふっ」 そしてあの、口。 薄い皮膚の下に流れる血液の赤さを見せ付ける唇。 行儀よく並んだ白く滑らかな歯列。 そしてその奥に隠れているのに一際ミコトの視線を奪う、艶めかしい濡れた舌。 あの赤く熱を帯びたような粘膜が、サクヤの下半身にもあるのだ。 挿れて、そして? 今こうして己の手で扱くように出し入れし、その胎内で射精するのだろうか。 考えただけで頭が爆ぜそうだったが、実際に爆ぜたのは下半身だった。 何回にも分けて吐き出される白濁、それを手のひらで受け止めながら、全身が痺れるような、感じたことの無い快感を受け止める。 「っ、はぁっ、ぁ、……あ…」 そしてじわじわと、痺れの外側から滲み始める罪悪感。 初めてサクヤを穢した。 next

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