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Year 7 - #3

Year 7 - #3 / Total #27 『貞操帯つけられちゃった』 そう言って衣服の裾をひらり、と捲るサクヤに思わず目が眩む。 白い肌に食い込むそれはあまりにも淫猥過ぎて、ミコトは思わず目を逸らす。 そして次に顔を向ければ、サクヤは椅子をガラスにピッタリと寄せていた。 「怒られたの?」 『うん、怒られたの』 へらっと笑ってみせるサクヤの表情は全くと言っていいくらい、反省の色が見えない。 そしてミコトに向かって、指先でちょいちょいと近寄るように促す。 ガラスにペッタリと背を付けて、自らの頭を撫でるように擦るサクヤ。 ミコトは何も言われずともその指に指を重ね、サクヤが振り返るのを待つ。 『伸びたかな?』 ムスカリの花弁をひとつ摘んで潰し、ミコトの押さえていてくれたそこにピッと、線を引く。 『交換』 言われるがままにミコトもサクヤがしたように背を付け、頭に手を置いておく。 振り返れば、背伸びしたサクヤが丁度、少し視線を落とした位置にいた。 どちらからとも無く唇を寄せ、ちゅ、と触れるだけのキスをする。 相変わらず、伝わってくるのはガラスの冷たさだけだが。 『ミコトだけ伸びた気がする』 「流石にもう伸びないよ」 思い立った時に突発的に行われる背比べ。 10センチ程度だった差が15センチ、20センチ……と開いてゆき、今ではサクヤの顔が収まるくらいの差まで開いてしまった。 『オレもお役目終わったら30センチくらい伸びるかもだし、ミコトを見降ろせるかもよ?』 極限まで近づけた椅子に登り、そう笑うサクヤ。 「外は天井低いから、そんなに伸びたら大変だよ」 ミコトも笑い返し、そう指で紡ぐと、丁度顔の前にあるサクヤの腹をゆっくりと撫でた。 相変わらず膨れたそこではあるが、先程見た貞操帯の上は、いつもより大きかった気がする。 「水溜まってる?」 『うん、よく気付いたね』 嬉しそうなサクヤは何度もミコトの頭にキスを落としながら、ズルズルと、膝を折ってゆく。 「苦しくない?」 『張ってる感じ、後で抜いてもらえるから大丈夫だよ』 サクヤが落ちずに座った事を確認し、ミコトも背後のベッドへと腰掛ける。 サクヤの貞操帯はこの腹水のために、いつものように淫らなことをせぬように、という無言の圧力なのだろう。 「最近ずっと全裸だったし部屋汚してるし、今後は少し控えようね」 座り込んだサクヤは目を反らし、見えていなかったと言わんばかりに唇を尖らせる。 『ミコトはするの、嫌なの?』 「いや、違うけど」 飢えは増していくばかりだが、嫌だとは微塵にも思っていない。 寧ろ帰宅後に思い出してはありがたいと、そう思わんばかりに自慰に耽っている。 「ここですると他の人に見られるでしょ?」 散々監視カメラの下で痴態を披露しているのだから、羞恥も何も無いが。 そう零せばサクヤはさも心外と言わんばかりに。 『オレが帰った後に散々シャワーブースでひとりでしてるのも知られてるのに、今更だよ』 そう笑ってみせる。 「……なんで知ってるの」 『この部屋の所有権はオレにあるから、報告が上がって来るんだよ』 サラリととんでもない事を言ってのけているのだが、ミコトは額に手をやるだけで、さほど驚かなかった。 普通に考えて、ガラス越しであっても、国家の機密と言えるサクヤと対面させているのだ。 警備をするなら徹底的に、トイレまで監視されていてもおかしくはない。 そうは思ったが特にサクヤには聞かなかった。 『大丈夫、こんな可愛いミコト他の人に見せないから』 サクヤはガラスに、すき、と指先を沿わせながら茶目っ気たっぷりに口角を上げる。 「ありがとう、ぜひそうして」 ガラスに額を寄せ合い、ひっそりと、隠れるようにくすくすと笑う。 そしてふと、先程気になっていた事を思い出す。 「今日は1本しか持ってこなかったんだね、ムスカリ」 いつもなら束になった状態で、抱えるようにしている青紫色が、今日は異様に少なかった。 サクヤが帰る頃には、潰されたムスカリの花弁で床が水面のようになっている時だってあるというのに。 その代わり、たくさんの見たこともない生花が、この部屋に彩りを添えていた。 『今日は譲ってあげたの』 「譲った?」 『そう、最近お勤めが始まった子に』 サクヤから、施設の別の誰かの話をされたのは、これが初めてだった。 『オレみたいに、大好きになっちゃったんだって』 「誰を?」 『運命の人。オレにとってのミコトみたいな人のことだよ』 そう言って、ちゅ、とガラスに口付けるサクヤ。 胸いっぱいに広がる幸福感に、顔面が熱くなる。 「サクヤ、嬉しそうだね」 『うん。オレたちにとって本当に幸せな事なんだよ』 うっとりと、目を細めて、ガラス越しにミコトの頬を撫でるサクヤ。 この愛らしい表情に絆されて8年目、出会ったあの日はもう昔のように……と、思い返した所で気付く。 出会いは運命的なものではなかった。 「適合検査で引っ掛かっただけだったのにね」 その事実にほんの少し、不満な表情をしてしまうミコト。 サクヤは眉を上げ、そして困ったように、嬉しそうに目を細める。 『オレたちみたいなのはね、このコロニーで年に3人産まれたら豊作って言われるくらい少ないの』 「思ってたよりだいぶ、少ないね」 『うん、それでね、運命の人は、絶対にAlphaなの』 ああ、とミコトの薄く開いた唇から、意図せず声が漏れた。 以前アカデミアの教授の所で見た、あの騒がしい程に禁書だとスタンプの押された教科書。 全ての文字が一気に頭の中に蘇る。 「そっか、Omega、なんだね……」 そう零したミコトに、サクヤは一瞬驚き、そして表情を綻ばせる。 『そう、そうなの。ミコトはちゃんと辿り着いていたんだね』 「アカデミアで……教授が、だから正攻法ではなくて裏技みたいな感じかも」 『そんなことないよ、たくさん知ろうとしてくれてありがとう』 少し気恥ずかしいものを感じると同時に、ふと、あの適合検査を思い出す。 甘い匂いを嗅いだ途端に、理性を吹き飛ばされた自分。 それはつまり。 「オレは匂いだけで、サクヤを好きになったってこと、なの?」 自分の小さな鋤鼻器がサクヤの甘い匂いに反応し、全てを掛けてでもサクヤを手に入れなければならないと、脳も身体も心も、全てを蕩かしてしまったのか。 ゾクリと、背中に冷たいものが走る。 『ミコト』 『今なら幻覚だったってことに、できるよ』 眉尻を下げたサクヤは、ミコトが居なくなる事を受け止めようと、そう堪えている表情だった。 理性ではなく本能で、強制的に恋心を擽られた結果がこれなのだとすれば、それはとても、恐ろしい。 しかしミコトは知っているのだ。 「貞操帯を幻覚に付けさせてるってことになるのは、ちょっと受け入れられないかな」 サクヤの瞳が丸く見開かれ、そして見る見るうちに赤く染まる頬。 長年見てきたサクヤの表情の中でも、珍しい顔だった。 『もう! 珍しく真面目な話なのに!』 「サクヤを手放す気は更々ないよ、俺のこと狂わせておいて清算なんて絶対駄目だよ」 ぽろりと、複雑な表情で真っ直ぐにミコトを見据えるサクヤの瞳から、涙が溢れる。 相変わらず、美しい真珠のよう。 「こんなに美しくて賢い色欲魔を引き当てた俺の本能は、凄い優秀だったってことだと思う」 そう指先で紡げば、怒ったように眉間に皺を寄せるサクヤ。 しかしそれも一瞬で、すぐに口角を緩ませながら髪を掻き上げる。 以前より伸びたその真珠母貝の色は、相変わらず美しい。 『添い寝して欲しいの』 伺うように、ねだるように、ほんの少し顎を引いて紡がれるサクヤの願い。 「ベッド移動して大丈夫なやつ?」 『大丈夫』 椅子を退け、ガラス面にベッドを押し付ける。 重厚そうな見た目とは異なり、簡単に動くベッドは、そうされるのが当たり前のようだった。 「眠いの?」 『最近あまり寝られてないの』 椅子の肘掛けに頭を乗せて、転がるサクヤ。 「何か差し入れるよ、欲しいものある?」 サクヤに倣ってベッドへと身を沈めながら、見たことの無い角度の顔を堪能する。 『肉』 「胃もたれしない?」 『お腹空いて寝られない』 ズルズルと肘掛けから落ちてゆく頭を見ながら、またクッションを差し入れようと心に決める。 以前贈ったものは前回、サクヤの体液で濡れてしまったのだ。 「分かった、たくさん食べて」 ミコトに対し、サクヤは笑顔で頷くだけだった。 言葉を紡ぐ指先は、生花を弄っていたから。 「綺麗だね」 持ち込まれた様々な花。 形も異なれば、色も異なる。 サクヤが鼻にそれを寄せるのを見て、恐らく匂いも異なるのだろうど、想像が膨らむ。 「どれも瑞々しい、っていうのかな……綺麗な桜色だね」 サクヤは気付いたように上半身を起こす。 『ミコトは桜が好き?』 「桜が色付くとサクヤに会えるからね」 『ふふ、これはね、桜色じゃないんだよ』 そして青色に染まった指先で、繊細な花弁のついた花をひとつ、摘んでみせる。 『これが桜色に近いかな』 指の間に挟みながら、器用に文字を紡ぐ度に、その美しい花は小さく揺れる。 『昔はここの桜も花が咲いていたけれど、今は葉を出すだけみたい』 『花を咲かせるには物凄いエネルギーが必要なんだって』 そう言ってサクヤはその美しい桜色の……いや、緑色の綺麗な瞳をそっと細める。 「知らなかった」 『時間とともに言葉の意味は少しずつ変質していくからね』 再び椅子の座面に頬を押し付けながら、眠たそうに欠伸をする顔はどこか満足気だった。 『ミコトが作ってた果実カプセルも、桜色だったね』 「そうだね……思ったよりも売れてるよ、そのうち価格も下がると思う」 『また食べさせてね』 「もちろん、サクヤに食べて欲しくて作ったものだから」 真珠母貝の髪に鮮やかな花弁を散らしながら、サクヤの唇はミコトにだけ、愛を囁いた。 next

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