3 / 6
第3話 結人の付き人
祥吾の腕の中で目覚めた結人が身じろぐと、抱きしめられる。
「まだ早いだろ」
「そんなことないよ。初日からだらだらできないから起きるよ」
「全く、お前は真面目だよな」
名残惜し気な祥吾を振り切って起き上がった結人は、さっさと洗面所へと行く。ベッドには昨夜の甘さの余韻が残っている。振り払うためには顔を洗うのが一番なのだ。
顔を洗い身支度を整えて、ほどなくすると相川と若い衆が朝食を運んでくる。
「おはようございます。今日も早いですね」
「おはよう。月曜だからね、だらだらしたくないと思って。相川こそ直ぐに準備してくれてありがとう」
「先生らしいですね。こちらは済ませてあったんで大丈夫ですよ」
相川は、昨日は結人も疲れただろうから、今朝は遅くなると思っていたので少し驚いたのだった。朝食の準備は済んでいたのが幸いだったと思う。同時に結人の真面目さに感心したのだった。
そして結人の自分への言葉づかいの変化に、結人の切り替えの良さと、それができる頭の良さにも感心する。この人が姐なら大丈夫だと。
実は結人は、一昨日東吾から言われたのだ。
明日正式に鬼神一家の人間になったら、言葉づかいを改めるようにと。
以前一家に紹介された時、三角から組織図を見せられた。その図で祥吾はナンバーツーと同格。結人も祥吾と同じ立場と言われた。
この世界立場の違いに厳しい。上の者が下の立場の人間に敬語は使わない。結人が敬語を使うのは、ナンバーツーである若頭の久城までということ。そこに、年齢差は関係ないとも言われた。
つまり、相川に対しても敬語は使うなということ。
正直結人は戸惑った。広沢たちなら、年上でもさして抵抗感はないが、相川はかなりの年上。しかし、これも一家の掟と言われれば、従わないといけない。
決心すると、結人は潔い。その性質は美点であり、そこを早くに見切っている東吾はさすが一家の長と言える。
二人は朝食を済ませると、揃って東吾の部屋へと出向く。朝の挨拶をするためだ。
朝の挨拶をしてから仕事開始、そして終わりには終業の挨拶をする。これが毎日の決まり事、大事なけじめである。
揃って「おはようございます」と言う二人を、東吾は穏やかな笑みで迎える。
「ああ、おはよう。二人共いい顔をしているな」
そうだろ! という表情の祥吾に、少し顔を赤らめる結人。
そんな顔をすると、昨夜のあれこれを察せられるぞと結人は思うが、そんなことは皆お見通しではある。
「祥吾、今日は結人に配下を引き合わせるのだろう?」
「ああ、この後執務室で引き合わせる。その後、結人に心構えを教えたりと、まあ今日はそんな感じだな」
「ゆっくりと覚えていけばいい。今のところ急ぐ案件もないからな」
二人の会話に、結人は配下? 何の事? と思いながら退出した。
「配下って何?」
「文字通りお前の配下だ。今から紹介する」
はあーっ僕の配下って、なにそれ?! そんな者いらんよ! と結人は思う。
執務室に入ると、広沢たち見知った者の他に、何人か見知らぬ男たちが二人を頭を下げて出迎える。
極道式の出迎え。これにも慣れねばならない。いちいち頭を下げることはないのに、とは思うけど。
「紹介しよう、こいつらがお前の配下になる。先ずは秘書の沢村だ」
祥吾が先頭にいる男を紹介する。見た目極道らしさのない男、少し三角の雰囲気に似ている。
「ひっ秘書?!」
「何を驚く」
「いやだって、僕に秘書なんている?!」
「いるだろ。お前は俺の伴侶ってだけではないぞ。うちの顧問弁護士なんだ。沢村は法学部卒業で頭も切れるからと、三角の兄貴の推薦で決まった」
「沢村拓也です。先生のため懸命にお仕えいたします。よろしくお願いいたします」
「はっ、はい、よろしくお願いします」
「結人、言葉づかい気を付けろ」
「あっ、うん、よろしく」
配下に敬語は使うなと言われている。そうだったと思い、沢村に対して言い直す。
「そしてこの二人が、お前の専属護衛。まあ、ボディーガードだな。吉沢と古井だ」
「吉沢克樹です。先生のことはしっかりお守りいたします。よろしくお願いいたします」
「古井宗馬です。同じくしっかりお守りいたします。よろしくお願いいたします」
「よろしく」
二人共確かに護衛にぴったりな体格。いかつい感じだなあと思いながら言葉を返す。
「今日からお前の日程管理は沢村が一手に引き受ける。昨日まで三角の兄貴の下でみっちり仕込んでもらったからその点は安心だ」
三角が沢村を結人の秘書にと見込み、自ら秘書としてのノウハウを叩きこんだ、という言う事だ。つまり一家として、結人を迎える準備万端整えていたのだった。
結人は、なるほど、だから少し三角に似た雰囲気があるのだと思う。それにしても秘書に専属護衛って大げさだと思うが、これが極道の世界なんだと改めて思うのだった。
ともだちにシェアしよう!

