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第4話 結人の付き人
「今日は初日だからお前に、行動の心得みたいなものをレクチャーする」
「心得?」
「そうだ、護衛が付いていても、お前が勝手に動くと危険だし意味がなくなる。護衛される側も決められた動きがあるんだ」
今までも祥吾は結人の身の危険を思い、遠目から護衛を付けてはいたが、結人には制約を課さず自由にさせた。一家の正式な人間でなかったし、結人にも学生そして、修習生としての立場があったからだ。
だが、今からはそれではいけない。結人は一家の姐であり、顧問弁護士。公に護衛を付けるし、そのためには結人にも心得てもらいたい。
その後、祥吾自ら時に実演しながら日々の行動に対する心得を結人に教えていく。
最初に教えられたのは、車からは絶対に勝手に降りてはいけない。護衛が安全を確認してからドアを開けるからそれから降りろなどと聞くと、単にドアマンだと思っていたけど、違ったんだと結人にも意外に思うことが多い。
「今話したことは要人警護の基礎だ。警護する側は勿論だが、される側も知っておくべことだ、分かるな」
「分かった、これからは気をつけるよ」
要人警護って、己が要人とは今一実感できないが、一家の人間になることは自分で決めたことだ。一家の人間として、必要な事は覚えねばならないし、守らねばならない。
その点結人は意外と柔軟な思考を持っている。それは、母親の型にはまらない生き方も影響しているのかもしれない。
それがあったからこそ、結人のような経歴で極道一家の跡目の伴侶になり、顧問弁護士になるという選択ができたと言えるだろう。
「それにしても二人共いい体してるね。何か格闘技とかやってたの?」
「はい、俺も、古井も総合格闘技をやっていました」
結人の問いに、古井より年上で一家の先輩でもある吉沢が答える。
「そうか、総合格闘技って僕はよく知らないんだけど、どんなの?」
「いろんな格闘技の要素を集めたものです。やってる人間によってどの要素が強いとかはあるんですけど、まあなんでもありっていうか、いいとこどりって感じですね。俺らやってる人間は最強の格闘技だって思ってます」
「なるほど、だから総合なんだ」
納得の表情でそう言いながら、吉沢の体に触れる。スーツを着ていても分かる筋肉質な体に興味を引かれたのだ。
すると祥吾が血相を変えて結人の腕を掴む。
「お前、何をするんだ!」
「何って、ちょっと筋肉に触れてみたかっただけだよ」
血相変えた祥吾に、結人は戸惑いながら応える。
「はあーっお前なあ、結婚したんだっていう自覚もてよ! いきなり初日に亭主の前で浮気する奴があるかっ!」
「はあーっ! ちょっと何言ってるんだよ! 浮気なんてしてないだろっ! する気もないよ。言いがかりはよしてくれっ!」
さすがに頭にきた結人は、激しく反論する。何言ってるのか全く理解できない。
「亭主以外の男に触れたらそれは立派に浮気だ。ましてや正面から触れるなんてもってのほかだ。お前が触っていいのは俺だけだ。操を立てろ」
触れたら浮気?! あまりな言葉に結人は絶句する。いくら何でも浮気認定のハードルが低すぎる。
「触れたら浮気って、ちょっと無茶苦茶過ぎるよっ」
「そんなことはない。操を立てるためには必要な事だ。これも一家の大事な掟だ。当然お前も守る義務がある。以後気を付けろ」
一家の掟?! 何それ?! ほんとに?! まさかそれはない、絶対祥吾独自の掟の感じがする。
更に反論しようと思ったが、吉沢が悲壮な顔をしているのが目に入る。他の皆もおろおろしていると気付く。
ここで結人が引かないと配下の皆が気の毒だし、何より吉沢は被害者だろ。結人の浮気相手に認定されそうで顔色を失くしている。
今後の事を考えると、ここは穏便に納めなければならないとの気持ちが働く。
「分かったよ、これからは気を付けるよ」
祥吾がそれでいいとばかりに頷くと、配下の者たちもほっとするのが結人にも分かった。
それにしても触ったら浮気って、なんかめんどくさい男と結婚してしまった……。
今更後悔しても遅いけど、前途多難な気がする。
果たして結人の予想通り鬼神一家の姐としての道は、前途多難と言うべきか、波瀾万丈と言うべきか、始まったばかりなのであった。
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