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第5話 祥吾の誕生日
四月に入って数日、祥吾はソワソワとしていた。側近たちには目に見えて浮かれていると分かる。
若は何を浮かれているのか? 未だ新婚の甘さが抜けていないのか? それだけなのか……。
側近筆頭の広沢には、ほどなくしてその理由が分かった。他でもない本人が自ら明かしたのだ。
もうすぐ自分の誕生日だからと。しかし、極道には派手に誕生日を祝う習慣はない。還暦だの古希は祝うが、若い時は成人になった時くらいだ。
「誕生日ですか?」と疑問形の広沢に、祥吾はにこやかに答えたのだ。
「結人と結婚して初めての誕生日だからな。去年あいつの誕生日祝った時に、俺のを聞かれて、もう終わっているとがっかりしてたんだ。そんで来年はきっと祝うって言ってたからな」
だから楽しみなのか、それは分かった。日頃『結人命』の祥吾のことだ。結人から祝われたらさぞ嬉しいだろう。それは広沢にも分かる。
しかし、ここで広沢は不安になる。結人は覚えているのかと……。
一家の構成員の中では、広沢が一番結人を近くで見て来た時間が長い。ゆえに、結人の気質も一番理解していると言えるかもしれない。
その広沢から見て、結人は大らかな人だと思っている。その気質は良いところだし、だからこそあれだけの経歴の人が、極道一家に嫁いでくれたと思っている。
大らかな人だから、細やかに覚えているだろうか……それが広沢の疑問であり、不安なところ。
直接本人に質そうと、結人が一人になる機会を待った。これがなかなか難しい、祥吾が常に結人の側にいるからだ。だが、ほどなくしてその機会がめぐってきた。
「先生、ちょっとお尋ねしますが、若の誕生日ご存知ですか?」
「ああ知ってる、そろそろなんだよな」
「何か考えていますか?」
「いやまだだよ。何かした方がいいのかなとは思っているけど」
覚えてはいたんだと、まずそこには安堵する。考えたら結人の記憶力は人並み以上だ。
「一家では誕生日祝いとか特別するの?」
「特別何もしませんね。特別するのは成人祝い、次はずーっと飛んで還暦祝いです」
「そうか……」
つまり、昨年の自分への祝いは祥吾が特別にしてくれたものか。かなり派手なお祝いだったと、今更ながら思う。
「じゃあ、どうしようかな……」
「プレゼントはされた方がよろしいかと思いますが」
「そうか、プレゼントだよな、しかし、何がいいかな……。祥吾さんなんでも持ってるだろ」
結人も昨年の自分の誕生日の時、交わした言葉を覚えているのだ。ゆえに今年の祥吾の誕生日は何かせねばとの思いはある。しかし、何をすればいいのかがさっぱり分からない。
祥吾はなんでも持っている。それも、物にこだわりのない結人にも上質で高級品と分かる。そんな祥吾に何をプレゼントすればいいのか。
広沢にも、結人の思いは理解できた。同時に結人の祥吾への思いも少なからずあると分かり嬉しく思う。日頃、祥吾の結人への思いはあからさまに分かるが、結人は照れもあるのか分かりにくい。
ここで広沢の頭に名案が浮かぶ。
「先生、ネクタイなんかどうですか?」
「ネクタイ? 祥吾さん沢山持ってるよ」
「はい、ネクタイなら何本あってもいいし、先生からのプレゼントなら喜んで着けると思いますよ」
「そうかネクタイかぁ……確かにそうだな。だけどどこで買えばいいのかな」
結人が今まで自分の物を買った店とは違う、それは結人にも分かる。
「それは、私が沢村に言って手配させます。そこで先生が選ばれたらいいかと」
「ああそうだな、うん、じゃあよろしく頼むよ」
かくして結人は秘書と護衛を連れて買い物へ行くことになる。
結人の行動の全てを把握している祥吾。常なら結人単独で買い物へ行くなど許さない。心配だからだ。
しかし、時期が時期だし祥吾も察する。一体結人は何を買ってくれるのだと、期待をしつつ知らぬふりをしたのだった。
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