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第7話 極道の夏休み
結人が鬼神一家の人間になってから三ヶ月が過ぎた。
一家の姐としての立ち居振る舞いにも慣れてきた。同時に、顧問弁護士としての仕事も徐々にこなしている。
特別事件性のある出来事は無かったが、結人にとっては慣れない環境で無我夢中に過ごした三ヶ月だった。
そして、一家の者たちも結人の頑張りを認め受け入れている。皆が自然に、結人は男ではあるが、一家の姐であり、貴重な顧問弁護士であるとの認識なのであった。
「西川がお前たちを地元に招待したいと言ってきたぞ」
朝の挨拶に来た祥吾と結人に東吾が言う。
「西川の叔父貴が地元に」
「ああ、先日の土地の売買契約が結人のおかげで上手くいった礼をしたいそうだ」
西川の叔父貴は、結人が一家の皆に紹介された席で、既に相談したい案件があると言っていた。ゆえに、正式に弁護士資格を得て最初に取り扱った案件。結人にとって、弁護士としての初仕事でもあった。
相手側は表面堅気だが、裏では怪しい組織。そんな相手に結人は、弁護士として粛々と取り組んだ。かえってそれが良かったのか、さして問題はなく片付いたのだった。
見守る祥吾も安堵したが、結人にとっても大きな自信に繋がった初仕事であったのだ。
そして一人、結人の信奉者が増えたのだった。依頼した西川である。
西川は、結人を紹介された時驚愕した。なんと言っても跡目の相手が男など全く想像外だったから。その後、結人の経歴を聞くと驚きは増すばかり。
一家に顧問弁護士がいるのは良いことだと思う。自分も相談したいことは一つや二つではない。今の時代、極道も法律の道を外れるわけにはいかない。警察の目が厳しいのは当然だが、世間の目も厳しいのだ。反社組織ではない、正当な極道であるというプライドもある。
早速相談をと思ったが、懐疑的な思いもあった。東大出は確かに凄いが、弁護士としては新米。どこまで出来るのかと。
そんな西川の思いを結人は、少しずつ払拭していった。この人は、頭が切れる。それだけではなく、意外と度胸もあると思った。
頭が切れるのは当然のことと思うが、度胸があるのは驚いた。結人の見た目は、きれいで優しいそうでどこか中性的だ。つまり男らしさは皆無、まあだから若も惚れたんだろうと。
その見た目に反した度胸の良さに、驚き感心したのだ。さすが、若が選んだ人だとも思ったのだ。
「美味い魚で歓待したいそうだ」
「叔父貴の地元港町だからな」
「ああ、美味い魚食いがてら行ってきたらどうだ? 若い衆も喜ぶだろう」
「そうだな、結人も大丈夫か?」
「うん、叔父貴から地元は魚が美味いって聞いてるから楽しみだな」
かくして西川の地元へ、祥吾と結人にその配下の者たちで行くことに決まる。そしてその後、夏休みだからと玲も一緒に行くこととなった。
「ねえお兄ちゃん、今度行く海、泳げるかなあ?」
「そうか、それは聞いてなかった。港町だから泳げそうではあるね、ちょっと叔父貴に聞いてみるね」
結人が早速西川に電話をすると、勿論大丈夫との返事。
「泳げるって、玲くん泳ぎたい?」
「うん、僕ね去年は海に行かなかったから今年は行きたいなって、そして泳ぎたいなって」
「そうだね、プールもいいけど、海で泳ぐのも楽しいからね」
「お兄ちゃんも一緒に泳ぐよね」
「そうだね、せっかくだから泳ごうかな。あっ!」
「どうしたの?」
「水着買わないと、大学入ってから泳いでないから、さすがに高校生の時のじゃだめだよね」
「僕も新しいの欲しい!」
というわけで、二人で水着を買いに行くことが決まる。無論、二人だけで行くわけではない。当然護衛も一緒だ。
結人は沢村に、玲と水着を買いに行きたいから日程の調整を依頼する。これまた当然直ぐに祥吾の耳に入る。
「結人、お前水着買いに行くって?」
「うん、あっ、祥吾さん水着持ってる? 一緒に行く?」
「いや、待て待て、水着なんて買ってどうするんだ?」
「今度西川の叔父貴の地元へ行く時泳ごうと思って。叔父貴に聞いたら泳げるってだから」
何勝手に俺を通さずに、直接叔父貴へ聞いてるんだ。だいたい親しくなりすぎだろと思う。
「あのな、勝手に決めるな、泳ぐのはだめだ」
「勝手にって、それになんでだめなの?」
「危ないだろ」
「危ないって、地元の叔父貴が泳げるって言うんだから大丈夫だよ」
「だめだ! 地元は関係ない。いや、むしろ地元の人間は慣れてるから安全と思っても、お前はだめだ危ない」
「はあーっ、あのね、子供じゃないんだから。玲くんも一緒に泳いで大丈夫ってだから、大丈夫だよ」
「だめだ、海は危ない」
「はあーっ、じゃあプールならいいの?」
「……プールもだめだ、水は危ない」
全くわけがわからない、水が危ないって、過保護にもほどがある。しかし、取り付く島もない祥吾に、ここでの反論は無駄だと思う。こうなったら、脇から責めるしかない。結人も祥吾への対処の仕方をかなり学んでいるのだ。
先ずは同行する玲の親の意向を聞かねばならない。考えたら、自分が危ないのなら、小さい子供の玲はもっと危ない。
もし玲の親が危ないから駄目だと言えば、仕方ない諦めようと思うし、そこに気付かなかった自分は迂闊だと反省もする。
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