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第8話 極道の夏休み
「義姉さん、今度玲くんも一緒に行く海だけど玲くん泳いでいいですか?」
「泳ぐの? いいわよ」
「危なくはないですかね」
「うちからも護衛が行くし、叔父貴んところにも若い衆がいるから大丈夫よ。結人さんも泳ぐの?」
「泳ぎたいけど、祥吾さんが危ないからって」
「またーっ、祥吾は過保護なのよ。そんだけ結人さんのこと心配なんでしょうけどね。まあ、父さんから言ってもらうといいわよ」
そうだ、会長から言ってもらおう。こんなこと会長に頼むのも少し気が引けるが、頑固な祥吾にはこの手しかない。なんだかんだ言っても会長の意向には逆らわないからだ。
「親父さん、今度の西川の叔父貴の地元へ行く件ですが」
「ああ、楽しんでこい。あいつもなすっかりお前を気に入って楽しみにしてるぞ」
「それで、玲くんと一緒に泳ぎたいと思うんですが」
「ははっ、二人で水遊びか。いいんじゃないか」
水遊び……まあ、そうだろうな。
「祥吾さんは危ないからだめだって言うんですが、泳ぐくらい大丈夫ですよね」
なるほど、結人が一人で来た目的はこれかと、東吾は思う。それにしても我が愚息、泳ぐのが危ないとは嫁に対する過保護が過ぎるだろうと少々呆れる。
「わしから祥吾へ言って欲しいのだろ」
「……すみません、おっしゃる通りです」
「わかった、言ってやろう。だが、お前の亭主は祥吾だ。最終的には亭主の意向に従え。それが嫁の務めだ。亭主の意向を己の考えに変えるのは、それこそ嫁の力量次第だぞ」
何もかもお見通しの東吾に、結人は自然と頭が下がる。
東吾は結人のことをはっきりと嫁と言って憚らない。それに対して結人も、自分は男だのと反発もない。東吾のもつ圧倒的な存在感故の事だろうと思うのだった。
「祥吾、結人の海の水遊び許してやったらどうだ。玲も一緒に遊びたいだろう」
「玲は子供だからな、結人が側で見てるのはいいぞ。ただし、水着はだめだ」
「水着はだめって、玲くんのことは勿論見てるけど、一緒に海にも入りたいよ」
「だからな、お前は俺の嫁だって自覚あるのか」
はあーっ、何それ! 嫁はさておき、祥吾の伴侶としてこの三ヶ月頑張ってきたとの自負はある。結人の内にメラメラと反発心が湧く。東吾の前でも遠慮するわけにはいかない。
「僕は十分自覚持ってこの三ヶ月頑張ってきた。そう思っている!」
「だったら水着は着るな」
「だからなんでそれが水着に繋がるの?! 関係ないよ! 親父さんどう思われますか?」
「確かに疑問だな、なんでだ?」
東吾の言葉に祥吾は盛大なため息をつく。親父まで何言ってるんだとの思い。
「あのなーっ、水着はパンツいっちょと同じだぞ。上半身裸! そんな姿を衆目に晒すわけにはいかん」
はっ、はあーっ! あまりの言葉に結人は咄嗟に言葉が出ない。パンツいっちょとか、上半身裸とか、女じゃあるまいし、男はそれが当たり前だ。
「ははっ……わはっはーっ」
東吾が笑い出す。いつもは無表情の三角まで体を震わせている。結人はいたたまれない思いになり、祥吾を睨みつける。
「ははっ……つまり嫁の体を見せたくないと」
「そうだよ、どこの世界に嫁の体見せたがる男がいるんだよ」
「だから、僕は男だって」
「それは関係ない、お前は俺の嫁だ」
だめだ、話が通じない。この人の考えを自分の考えに変えるのは難しい。嫁いで三ヶ月、まだまだこれからだ。
「じゃあ、水着の上にTシャツ着たらいいよね」
「Tシャツか……」
「それならいいじゃないのか。許してやれ」
渋い顔の祥吾に、東吾が横から口を出す。結人に対する助け舟だ。
「分かったよ、ただし水にはつかるな、体の線が出るからな」
渋々認めた上に、最後の言葉に結人はカチンとくる。何が体の線だよ! 全く。
結人は玲と二人で水着を買いに行くつもりだったが、結局祥吾も一緒に行くこととなる。結人はうざいと思うが、祥吾にしては当然のこと。嫁に変な水着は着せられない。
結人は最初ボックスタイプを手に取ったが、祥吾により長さのあるハーフパンツを勧められたというか強制された。
「長すぎない?」
「いや、こっちにしろ。上もセットにするといいな」
そう言って、トップスもぴったり目のものではなく、ゆったりとしたものを選ぶ。
「そんでこれ着るといいか」と、ラッシュガードも選ぶ。長袖のパーカータイプのもの。結人は海辺では暑そうと思うが、店員からも紫外線対策になるからと勧められたので受け入れる。まあ、海に入る時は脱げばいいからと思う。
そして、なぜか祥吾も同じシリーズのものを選び色違いのお揃いになる。そうなると玲も「僕も一緒がいい」と言って、結局三人色違いのお揃いになるのだった。
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