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第9話 極道の夏休み

 朝食後出発した鬼神一家若様の一行は、昼前には西川の地元の港町に着いた。  西川夫妻と息子の洋介の歓迎を受け、昼食は西川夫人の心尽くしの料理を堪能した。 「久しぶりの姐さんの料理美味かった、ごちそうさんでした」 「夜はもっと豪華な料理だ、期待してくれ。で、今から泳ぎに行くか?」 「そうですね。こいつが楽しみにしてるんで」  祥吾が玲を差して言う。あくまでも泳ぐのは玲だと言いたいのだ。 「子供はそういうもんだ。洋介に案内させよう」  西川組の跡目である洋介が率いる若い衆の先導で海水浴場へ向かう。  鬼神一家と西川組のいかつい面々に囲まれた結人と玲。守りは鉄壁だ。多分台風が来てもびくともしないだろう。  今回の訪問は洋介との交流も大きな目的だ。次世代の若者との絆を強めるのは、祥吾の代になってから大きな力になる。  海水浴場に着いて、祥吾は若い衆が用意したビーチチェアーに洋介と並んで座る。 「僕泳ぎたい、お兄ちゃんいこう!」 「うん、行こう」  玲の誘いに頷いた結人。 「お前は中には入るなよ」  祥吾の声掛けに分かってるとばかりに頷いて、玲と手を繋いで海へと駆けて行く。 「うわー! 海だ!」  海に入ってはしゃぐ玲。 「お兄ちゃんも入ろっ」  玲に手を引かれ結人も海に入っていく。玲はパンツ姿だが、さすがに結人はラッシュガードだけ脱ぎ、トップスはそのまま。結人としては、祥吾の気持ちに配慮しているのだ。  シャツ濡れるかな? 八歳の玲と一緒だから、どのみち深くまではいけない。祥吾が心配するようなことにはならないだろう、多分だけど。  ところが、濡れた体で抱きついてくる玲。みるみるうちに結人のシャツは濡れてくる。  あーあっ、濡れちゃった、まあいいか、海なんだから。第一男の体の線が分かったと言ってなんなんだよ。誰もなんにも思わないよ。  結人は開き直り、玲と思いっ切り楽しむことにする。  はしゃぐ二人を、取り囲むように護衛する若い衆。  結人は童心に帰ったような気分で思いっ切り楽しんだ。気が付くと全身びしょぬれ、そんな自分に笑いがこみ上げてくる。 「玲くん、楽しいね!」 「うん!」  祥吾は洋介と話していて、ふと結人が気になり目で探すと、なんと海の中! 「あいつ、入りやがった!」  慌てて駆け寄る。 「結人! 入るなって言っただろ!」  結人は返事をせずに、祥吾に水をかける。玲も加勢して一緒にかける。ラッシュガードを羽織っている祥吾はたちまち水浸し。 「お前らなんだ!」 「海なんだから、水につからなくっちゃ」  笑いながら言う結人に、何も言えなくなる。こんなにはしゃぐ結人は初めてだ。意外な面を見た気分。  祥吾は結人をがしっと抱き寄せる。 「全くお前は、あんまり悪さばっかりするとおしおきだぞ」 「何が悪さだよ! 玲くん叔父ちゃんがいじめるよ」 「叔父ちゃん! お兄ちゃんいじめたらだめっ!」  玲が祥吾にパンチを繰り出す。そのすきに結人は腕からすり抜け、二人でパンチ攻勢。  子猫二匹の猫パンチ。全く威力はないが、いつの間にこの二人は結託してるんだ。仲が良すぎるだろ。 「はい、はい、まいったよ」 「お兄ちゃんいじめたら、僕がめっ! するからね」 「全くお前は結人のナイト気取りかよ」 「玲くん、僕の味方だもんね!」  結人が玲を引き寄せると、玲も強く抱きついてくる。  最初の頃は、なんで好かれているか全くわからず、不思議な気持ちの方が強かった。だけど、最近は懐く玲が可愛いくて、良い相棒、そんな感じに思っている。  一家に早く慣れようと、そして弁護士として仕事に気を張っている結人にとって、玲の存在は一種の癒しになっているのは確かなのだ。    夕方西川組の本宅に戻った三人は、シャワーを浴びてさっぱりすることにしたが、そこで当然のごとく叔父甥バトルが勃発する。 「僕、お兄ちゃんと一緒に入る!」 「何言ってるんだ、小学生にもなって、一人で入れ!」 「いやっ! 一緒がいいもん」  結人に抱きつき、涙目で訴える玲。結人の胸はキュンと痛む。いつも「お前は玲に甘すぎる。甘やかすのは玲のためにならん」と言われているが、甘やかしているわけではないと、心の中で言い訳をする。 「うちじゃないし、よそのうちで、一人で入るのは心細いよ。今日は特別、一緒に入ろう」 「はあーっ、全くお前は! だから玲に甘いって言ってるんだぞ!」  祥吾の非難の声は無視され、二人一緒に浴室へ入る。入り際の玲の満面の笑みが勝ち誇ったようにも見えて、祥吾は舌打ちする。  なんだが今日は、玲に負け続けているような……このままでは完敗だ。これでは、叔父として、結人の亭主としての沽券にかかわる。  まあいい、勝負は夜だ。夜に子供の出番はない。旅先で、結人を甘い声で啼かしてやる。それは自分にしかできない。そう奮い立った祥吾だが……。 「僕は玲くんと一緒に寝るよ、ねえ、玲くん」 「うん、一緒に寝ようね!」 「何言ってだよ。お前は俺と一緒だろ」 「あのね、よその家で一緒に寝るなんて無理っ、祥吾さん一人で寝て」  結人には祥吾の魂胆は丸見えなのだ。そんな恥ずかしいことできるわけないじゃないか。一晩くらい一人で寝て! そんな気持ちだ。だから早々と玲と一緒に寝ると言ったのだ。  かくして港町では、祥吾は一度も勝を取れずに終わる。結人と玲の子猫連合は意外に強いのだった。    

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