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第10話 猫パンチの威力は増すのか

 西川組の地元へ行った時の玲の言動を、結人は思い出していた。  祥吾にいじめられたと言った時、玲は祥吾に立ち向かっていった。子供でも、極道の血を引いている片りんを感じた。同時に八歳の子共に庇われる自分も情けないと思う。  鬼神一家では、姐さんと呼ばれることは拒否し、それは受け入れられたが、扱いは完全に嫁だ。むしろ極道の姐の方が強いのではとも思う。  映画にもあるだろう、極道の女って、自分よりよっぽど強そう……。  常に守られるばっかりってのもなぁ……なんだかなぁと悶々とする結人なのであった。  そんな、結人はあることに閃いた。そうだ! 自分だって少し強くなればいいんだ。幸い、身近に良い先生がいるじゃないか! 「吉沢、君は確か総合格闘技やってたんだろ」 「そうですよ、古井もですよ」 「それ、僕にも教えてくれない」 「はっ……」  吉沢は絶句する。何を言われたのか咄嗟に理解できない。 「僕もさ、少しは強くなりたいと思ってね」 「強くなりたいって、先生のことは俺らがお守りするんで、そこは安心して下さい」 「うん、それは安心してるよ。だけど、僕だって男だからね、あんま弱々しいのも情けないだろ」 「いや、弱々しいって、先生はそれでいいって言うか、別に情けないとかないんで」  二人の会話に沢村も入ってくる。 「先生には弁護士として大変力になっていただいてるんで、それだけで十分っていうか、腕力の方は我々に任せて下さい」 「その通りです。それに下手に反撃とかするとかえって危ないんで、俺らに任せて下さい」  そうなのだ、素人の反撃ほど怖いものはない。相手を刺激し、余計にひどい目にあう。 「まあさすがに敵に向かうのは僕も無謀だと思うけど、全然心得も無いのは、男として情けないだろ」  いや男って、あなたは若の嫁なんでと思うが、さすがにそれは口にできない。今の結人に言えば傷つけるような気がする。 「なんか、こうやっても、祥吾さんには猫パンチって馬鹿にされて悔しいんだ」  結人がパンチの真似をする。それは確かに猫パンチほどの威力も無いのは明らか。若には全く効かないだろうし、じゃれつかれている感じだろうと思う。 「若は、護衛専属の俺らよりよっぽど強いんで」  精一杯の慰めのつもりで言うが、だからと言って結人の慰めには全くならない。 「なんかさ、こつって言うか、基礎だけでも教えてくれない。祥吾さん驚かせてやりたいんで」 「いやいや、とんでもないですよ。そんなことしたら若にどやされるって言うか、下手したら破門なんで」 「えーっ、そんな大げさだよ!」 「大げさじゃないですよ。俺ら、上の命令は絶対なんです。先生に格闘技教えるなんて、それは命令違反なんで」 「内緒にするし、ちょっと遊びっていうか、ストレッチと思って基礎だけ、ねっ」  手をすり合わせて必死にお願いしてくる結人。    吉沢自身、個人的にも結人には好感情を持っている。やましい意味はなく、 人として好きなのだ。だから、結人のことはきっちり守る。それが自分の務め、そう思っている。結人付きになって良かったと思っているのだ。  しかし、これは困る。若に内緒って、そんなことは無理に決まっている。吉沢は困り果てて、沢村に助けを求めるべく、視線を向ける。  沢村は、俺に振るよな……とは思うが、このままほっとくわけにもいかない。結人付きでは沢村の立場が一番上だ。 「先生、もう一度言いますが、下手に攻撃するとかえって反撃されるんです。危ないし、若に内緒は無理だと思います。我々の立場もあるので、気持ちはわかりますがすみません、ご理解下さい」 「……」  結人はしょんぼりする。そこまで言われると無理強いできない。極道の掟が怖いというか、厳格なのは結人にもだいたい分かる。  沢村、吉沢にとって、結人は守るべく人ではあるが、仕える主は祥吾なのだ。つまり、祥吾の命令が絶対。それに反する恐れがあれば、たとえ結人の願いであっても聞けない。それが、極道の掟。  結人は、吉沢に教わるのは無理だと諦める。  しかし、ここで引き下がらないのが結人であった。  祥吾のような強引さはないが、粘ってやり遂げる、それが結人の真骨頂。鬼神一家の姐に相応しい資質を持っているのだ。  結人が働きかけた人、勿論東吾である。鬼神一家のトップが認めれば全てが通る。  海で泳ぐ件も、東吾の口添えで祥吾も渋々認めた。だが、今回の件は祥吾に内緒で事を進めたい。それを東吾が認めるか? 正直自信はなかったが、ダメもとで話してみる。

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