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第19話 親になった日
そこへ静かに襖を少し開けた若い衆、振り向いた三角が頷く。
「会長、準備が整ったようですので」
「そうか、では行くか」
会長、そして祥吾の後ろを結人は玲と並んで歩く。後ろには三角と燁子が続く。
大広間に入ると、一年前の儀式と同じ光景が待っていた。結人は緊張に身を固くする。だが今日は自分より玲を気遣ってやらねばならない。大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
祥吾と玲が正面床の間の前でに向かい合って座る。結人は祥吾の後ろに控える。
若頭の久城の口上で皆が見守る中、儀式が始まる。先ずは親になる祥吾が盃を取り飲み干す。その後玲が盃を取り飲む真似をする。
結人ははらはらしながら見守るが、今朝教えた通りにしている。小さいながら堂々としたものだ。
結人は玲の姿に感心しながら、これが世襲たるゆえんかと思う。この子は鬼神一家五代目になる運命を受け入れ歩んでいくのだ。
それは自分にも大いに責任がある。傍観者でいることは許されない。自分こそ覚悟を決めなければ申し訳ない。
「実にめでたい! これで鬼神一家は五代目まで安泰だ。若、ようございましたな」
若頭の久城の言葉に祥吾も大きく頷く。祥吾も今日の玲を見て、我が甥、いや我が子ながら感心したのだ。さすが鬼神の血だと。
「頭にそう言ってもらうと俺も嬉しい。今後もどうか助力を頼みます」
祥吾が言うのに、結人も一緒に頭を下げる。
「玲坊ちゃんはかしこい! 小さいのに堂々としたもんだ。それに先生が付いてなさる。益々安心ですな」
久城の手放しの褒め言葉に結人は恐縮しつつ嬉しさがこみ上げる。思い切ってこの世界に飛び込んで良かったのだと思える。随分と迷い悩んでのが遠い昔のことに思える。
久城や若頭補佐の渋谷や保住たちと談笑していると、西川の叔父貴と息子の洋介が近づいてきた。
「改めて若、先生おめでとう。ほんとめでたい! 良かった、わしも安心したぞ。坊も中々立派だったぞ。実に頼もしいな」
「ありがとう、俺も一安心です。今後もどうか助力を頼みます」
「おおっ、勿論じゃ。また夏に三人でくるといい。家内も楽しみにしとる」
西川の言葉に玲がぴくっと反応する。
「海にまた行けるの!」
「ああ、沢山泳いで、沢山旨いもの食えるぞ!」
「やったー!」
玲は大喜びだ。結人も楽しかった思い出がよみがえる。また行けるのは嬉しい。
「それじゃあまたご厄介かけますがよろしく頼みます」
「厄介なんて何もない。気楽にくるといい」
こうして早々と夏の予定が決まる。実際は跡目親子の訪問となると、双方大変なのだが女子供を楽しませるのも男の甲斐性。無論この場合の女子供には結人も入っている。
出席した人間一通りと会話を済ませてほっとすると、それを見計らったようにお開きとなる。
結人は祥吾と玲と並んで、帰っていく者達を見送る。今日は三角も燁子と一緒に帰った。結人は聞いていないが、多分会長の配慮だろう。燁子が一人で帰るのは淋しいだろうからとの。
結人たちも東吾に挨拶をしてから離れに引き上げる。
離れのリビングに入ると結人はソファーに座り込む。さすがに疲れたと暫し放心状態。
自分の時もそうだったが、今日も激動の一日だった。気持ちは今日の方が重いと思う。より責任を感じるという意味で。
ただ覚悟は深まった。跡目の伴侶として、次代の跡目の親としての覚悟。
自分の人生だけでなく、未だ幼い子供の人生に深く関わる恐れがある。だけどここまできて逃げるわけにはいかない。ならば覚悟を決めねばならない。
よろしく玲、よろしく鬼神一家。結人は心深く思うのだった。
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