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第21話 伝家の宝刀
「煩いっ!」
ついに結人が切れた。二人はビクッとして結人を見る。
「二人共ギャーギャーと煩いんだよ! そうやって僕のことで喧嘩するなら、僕はいない方がいいよね! 僕がいなければ喧嘩にならないだろ! 僕は出て行くから!」
出て行こうとする結人を祥吾が引き留める。玲も結人の腕を掴む。
「ちょっと、待て、待てって! 出て行くって、こんな時間にどこへ行くんだ」
「ふんっ、実家が無いから帰るとこなんか無いと馬鹿にしてるんでしょ! 別にホテルだって、どこだって行く所はあるよ」
「馬鹿にはしてない。してないけどこんな時間に出て行ったら危ないだろ。いや、昼間でもだめだ。出て行くなんて言わないでくれ。謝るから、俺達が悪かった。許してくれ。玲っ! お前も謝れ!」
「兄さん、ごめんなさい。謝るから、出て行かないで」
必死に引き止める二人。結人にすがりつかんばかりの勢いだ。
だったら最初から喧嘩するなってんだ、もーっ! 結人は、はあーっと大きくため息をつく。
「そうやって謝るくらいなら、なんで僕が止めた時に喧嘩やめないの」
「ごめんって、俺らが悪かった」
「ごめんなさい」
しおれた花のような二人。本当に反省したのか……。
「だいたいね、二人ともたまにはの意味が分かってないね。一日おきはしょっちゅうだし、年一か年二ってのはごくまれにはだよ」
「ああ、そうだな、お前の言う通りだな。玲も分かったな」
玲も神妙な表情で頷いている。どうやら二人とも分かったようだ。この時結人の頭にきらりと閃いた。
「二人とも喧嘩しない? 仲良くする?」
「ああするよ、玲も俺と仲良くするだろ?」
「うん、するよ」
「よしっ、じゃあ仲良くするために今晩は二人で寝なさい」
「えっ、はーっ、こいつと二人で寝るのか?!」
「えーっ父さんと寝るの?!」
「二人とも何びっくりしてるの。親子仲良く寝るといいでしょ」
「どこで寝るって言うんだよ」
「玲のベッドで二人は狭いか……僕たちのベッドで寝るといいよ。僕は玲のベッドで寝るから」
「僕、兄さんと寝たいのに……」
「そうだろっ、お前も結人と寝たいよな、俺もだよ。なんだ、気が合うじゃないか」
祥吾と玲が二人で頷き合っている。
何団結してるんだよ! そもそもそれで喧嘩になったんだろ。全く……呆れる思いになる。
「父さんと二人で寝るなら、兄さんも一緒に三人で寝る方がいい」
「まあ、そうだな。俺もそれなら妥協する」
えっ、ちょっと待てよ! なんか話が変なほうにずれてないか。
「二人とも何言ってるの!」
「だから親子仲良くするってことで俺と玲が二人で寝るなら、お前も一緒に三人で寝る方がいいってことだ」
まあ、確かに理屈は通ているか。これ以上ごちゃつくのもいい加減めんどくさい。僕もそれで妥協するか……。
と言うわけで、三人一緒に仲良く寝ることとなった。
しかし今度は、並び順でもめるのだった。祥吾と玲がお互いに自分が真ん中だと主張するのだ。つまり、二人共自分が真ん中で結人を独り占めしたいとの、思惑の一致。
「俺はお前とも仲良くしたい、だから俺が真ん中な」
「えーっ、僕が真ん中でも仲良く出来るよ」
さっき雷落としたのに、もうこの騒ぎ。結人はほとほと呆れる思いになる。
「二人共そうやってまた喧嘩になるなら、僕は家出」
「ああ、いやいや大丈夫だ。喧嘩はしない」
結人が『家出』と言ったところで祥吾が慌てて言うと、玲も頷いている。結人の家出する宣言は伝家の宝刀のような効き目がある。きらりと光れば、二人は途端に大人しくなるのだ。
ふふっ、これは良いものを手に入れたと、結人はほくそ笑む。事実これ以降、結人の『家出する』宣言は伝家の宝刀の役目を発揮し続ける。決して色あせることなく。
「やっぱりこういう場合、子供が真ん中でしょ」
結人の言葉に、玲の顔が輝き、祥吾は沈む。
「そうだよね、僕が真ん中だよね!」
「いや、それは」
言いかけた祥吾を結人は睨みつける。全く大人げない。少しは譲れと思うのだ。
かくして新米親子は、仲良く三人で寝るのだった。
しかし、当然と言えば当然だが、玲は結人にぴったり引っ付いて寝る。祥吾には背中を向けて。
「お前、結人に引っ付き過ぎじゃないか。もっとこっち来いよ」
祥吾の言葉が聞こえているのか、聞こえてないのか、玲はそのままの姿勢で、結人にしがみつく感じで眠っていくのだった。
「眠ったのか?」
「そうみたい、子供は寝つきがいいよね」
結人はすやすやと小さな寝息を立て始めた玲の額に口付ける。そして自分も眠りに入っていった。
それを見届けた祥吾は、半分呆れながら、だが納得感も感じながら眠りについたのだった。
翌日、三人一緒に寝たことを知った東吾が「ほーっ、仲いいじゃないか、親子川の字で寝るとは」とにこやかに言う。
東吾にとっても三人が仲良いことは、安堵をもたらすのだ。
「川の字になってねーよっ。玲のやつ、結人にぴったり引っ付いて寝やがって、三本川じゃなくて、二本川だぜ」
「ははっ、そうか、相変わらず玲は結人に懐いてるな」
さもおかしそうに言う東吾に、祥吾は苦虫を嚙み潰したような表情になる。結局昨夜は、玲に完敗したような気分だ。
だいたいがあいつ、結人に懐き過ぎだ。この俺に真っ正面から立ち向かってくる。
あいつもちっこいが鬼神の男だと感じる。頼もしいっちゃ、頼もしいが困ったもんだ。結人は俺のもんだぞ。
結人を怒らすわけにはいかないから仕方ないが、この先を思うと全く持って前途多難じゃねーかと独りごちるのだった。
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