27 / 29
第27話 誘拐
「若っ、来ましたっ!」
「そうか、間違いないか?」
「間違いありません、やっぱり木村が助手席ですね」
「よしっ! 手はず通りに行くぞっ!」
木村の乗った車が止まって、木村が降りると同時に、車の前後をこちらの車で前後を挟み込む。同時に木村を確保、後部座席に乗っているはずの玲を救出するという手はず。
全てを同時に進める、早業が勝負を決める。
木村の乗った車が公園の入り口手前で止まる。皆の緊張が高まる。
木村が降りた! あっという間も無く、車の前後を挟みこんで二台の車が止まる。呆然とした木村を保住が確保すると、祥吾が後部座席のドアを開け、玲を抱き寄せ救出した。
全くの早業で、ことは決した。
「父さんっ!」
「ああ、もう大丈夫だ。どっか痛いところはないか?」
「うん、ないけど、木村は僕が起き上がると怒るんだ。大人しく寝てろって。そうじゃないと縛って海に捨てるって、だから大人しくしてた」
「全くっ、こいつは子供にろくでもないな」
既に保住たちに殴られ転がっている木村を、祥吾はしたたかに蹴り上げる。もっと制裁をと思うが後は配下に任せる。
そして本宅で心配している結人へと電話を掛ける。
「結人、玲を救出した。見たところ怪我も無く無事だ」
『あーっ良かった! 玲! 玲は元気でいるのっ?』
「ああ、元気だ。今替わるな。玲、結人だ。声を聞かせてやれ」
「もしもし兄さん! 僕元気だよ!」
『ああ、玲! 良かった! 兄さん心配したよ。痛いところとかはないか?』
「うん、ないよ!」
『そうか、良かった。みんな心配しているから直ぐに帰っておいで』
「うん、わかった。僕、お腹すいてるから、じゃあね」
「俺だ、今から連れて帰る。じゃあな」
本宅では結人が話すのを皆が、固唾を呑んで見守っていた。
「玲、無事に救出された。怪我もないみたい」
皆が安堵の声を上げる。良かった、良かったと……。
「相川、玲がお腹空いてるって、帰ったら食べられるように夕飯準備してくれるか」
「はい、だいたいの下準備はすんでたんで、直ぐに用意します。こんな時間だ、皆様方の分も急ぎます」
「僕のは後でいいから、玲と親父さんのを先に頼む」
「あの子、直ぐに空腹を訴えるなんて、心の傷はなさそうね」
「そうだといいけど……しばらくは僕も気遣ってやらねば」
「ありがとう、よろしくね」
燁子は実母として自然に発した。この人に任せておけば大丈夫だと本能で感じた。夕飯のことも、玲と親父さんのを先にという気遣いが出来る。若いのに出来た人だと思う。我が子を託すのに相応しいと思うのだった。
若い衆が祥吾たちの帰宅を告げる。結人は車寄せまで出て迎える。
車が止まると、玲が走り降りてきた。
「兄さんっ!」
「玲っ!」
抱きつく玲を、結人もしっかり抱きしめる。
「ああ、良かった! 兄さん心配したよっ」
「うん、ごめんね」
「玲が悪いんじゃないから、謝らなくていいけど、心配したよ。怪我はないのか? 痛いところとかないか?」
「うん、大丈夫だよ」
本人はそう言っているが、本当にそうなのか? 疑念はある。風呂へ一緒に入って見てやらねばいけない。
「そうか、じゃあ風呂入ろうか。汗もかいて気持ち悪いだろ? さっぱりしてから夕飯にしよう。お腹、我慢できるか?」
「うん、大丈夫!」
結人から風呂を誘われて、否の選択肢は、玲にはない。そこは祥吾と同じ。
いつもなら、二人が一緒に風呂へ入るのを、何かと邪魔する祥吾も、今日は何も言わない。祥吾にとっては、玲を救出して、終わりではない。
後始末と、今後の対策。二度と再びこんなことが起こってはいけない。鬼神一家の跡目としての自分の責任。
交際期間中に結人が狙われた事件。今回は、それよりも衝撃が大きい。身内の犯行だったから。
早速、若頭の久城をはじめとした幹部たちと、話し合いの場が設けられる。
最初に木村への制裁と処遇。満場一致で決まる。皆、抱いている怒りは同じだ。
その後は今後の対策。これも異論なく決まる。
今晩は遅いので、決定事項を下の者達へ通達するのは明日になる。
祥吾は幾分ほっとしながら、離れへと帰る。結人との愛の巣であり、自分の生活の場。
静かだ。二人共眠っているのだろう。無理はない。もう日が変わっている。
おそらく結人は玲と一緒に、横になって、そのまま眠ったのだろう。
結人も今日は相当くたびれたんだろと思う。
案の定、自分たちの寝室で二人は眠っている。玲が、がしっと結人に抱きついた姿勢で。
祥吾は苦笑する。
この二人は血のつながりは全くない。なのに、玲は結人に懐き、結人も絆されたのだろう。
今日の結人は、実の親兄弟のような心配ぶりだった。「ありがたいよな、感謝するぞ。玲、お前も感謝しろよ」一人呟き、結人の頭を撫でると、結人がみじろぐ。
おっと、起こしちゃいかんなと思い、そっと自分も横になるのだった。
ともだちにシェアしよう!

