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第二十一章 外でお食事!?
ダメだ。
秀一は、自分で自分が怖かった。
(俺には、桂がいるんだ。早紀くんには、弓月さんがいるんだ。ダメだ!)
休憩室に一人でいると、つい早紀のことをいろいろと考えてしまう。
働いていた方が気がまぎれると、秀一はメビウスの店内へと出て行った。
「あれ? 宮木くん、休憩はあと5分あるんじゃないか?」
「ちょっと、体を動かしたくなって。それで」
「休むのも、仕事のうちなんだよ」
「いらっしゃいませ!」
困った顔の衛には悪いが、秀一はさっさと営業スマイルになった。
正直、彼をまともに見られないのだ。
(弓月さんは、早紀くんと……もしかして、昨夜も……)
セクシャルな妄想が、とめどなく湧いて出る。
そんな秀一は、つい手を滑らせてコーヒーカップを倒してしまった。
がちゃん、と派手な音がしたので、衛と早紀はもちろん、店内の客までもが驚いた。
「あっ! すみません!」
「いや、大丈夫。君は、火傷したりしなかったか?」
「すみません……すみません!」
いつもの秀一らしい判断力が、すっかり失われている。
彼がもたもたしていると、脇から別の声がした。
「申し訳ございません」
すぐに、コーヒーで濡れたテーブルが、不織布のクロスで拭きとられる。
見ると、それは早紀だ。
「お客様のお洋服は、汚れていませんか?」
お詫びをしながらテーブルを始末し、その上で客の服まで心配している。
「コーヒーは、淹れなおします。大変失礼いたしました」
「あぁ、いいよ。別に急がないから」
幸い客は温厚な人間だったので、事は荒立たずに済んだ。
それでも、秀一にとっては初めての大きな失態だ。
衛は彼を叱らなかったが、逆に心配をした。
「宮木くん。やっぱり、もう少し休憩しようか。それとも、まだ早いけど、調子が悪いなら今日は終わる?」
「す、すみません。お言葉に甘えます」
衛の勧めもあり、秀一はその日、早退した。
「秀一さん、大丈夫かなぁ。風邪でもひいたのかな?」
「顔色は、悪くは無かったけどね」
いや、青いと言うより赤かった。
「熱があったんじゃない?」
「体温計で、測らせるべきだったかな」
まさか自分たちが、秀一の不調を招いた原因とは知らない、早紀と衛だ。
「明日は店休日だし、ゆっくり休めればいいが」
「そうだね」
クリスマス・イヴまであと5日。
明日、早紀は衛へのプレゼントを探しに街へ出るつもりだった。
「ねぇ、衛さん。明日、空いてる?」
「仕事中だぞ。私語は、つつしんで」
「お客様、2人しかいないじゃん」
ねねね、と早紀はもう一歩、衛に近づいた。
「よかったら、一緒に出掛けてくれないかな。買いたいものが、あるんだけど」
「いいぞ。車を出してやるよ」
「やった!」
それなら、と今度は衛が早紀に持ち掛けた。
「早紀は、今日の夜は空いてるかな?」
「変なの。空いてるに決まってるじゃん」
だったら、と衛は囁いた。
「今夜は、外で食事をしよう」
『今夜は、外で食事をしよう』
衛の言葉に、早紀は痺れた。
赤くなり、熱くなった。
ただの夕食ではない何かを、衛の口調から感じ取っていた。
(どこか、素敵なところに連れて行ってくれる予感!)
その後は、まるで早退した秀一のように、ふわふわと過ごした。
一流ホテルで、ディナーかな?
プレゼントに、婚約指輪とか出されたらどうしよう!
妄想は、とどまるところを知らない。
「早紀、コーヒー淹れたよ。運んで」
「あ、はい!」
そこで早紀は、秀一のリプレイのように、カウンターでコーヒーをこぼしてしまった。
「しまったぁ!」
「早紀、大丈夫か?」
今回はお客様のテーブルではなかったので、まだマシだ。
幸い火傷は負わずに済んだが、衛は困惑していた。
(一体今日は、どういう日なんだ?)
「ごめんなさい。僕、ちょっと考えごとしてたから」
早紀は素直に謝ったが、衛の方に心配は残る。
「熱は無いか? 体温計で、測ってみなさい」
「だ、大丈夫だって!」
万が一、本当に熱でもあれば、夕食に行けなくなる。
早紀は必死で逃げていた。
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