25 / 46

第二十五章 クリスマスデート

「衛さぁん。僕、体がだるいよ~」 「昨夜は、熱かったからな」 「衛さんが、僕のこといっぱい苛めた!」 「早紀だって、私からさんざん搾り取ったじゃないか」  そんな不毛な会話で始まった、朝。  動けない早紀のために、衛はルームサービスで朝食を用意した。  シャワーを浴びると少しさっぱりしたのか、早紀はよく食べ、よく喋った。 「ね、衛さん。僕、昨夜みたいなエッチ、初めて!」 「爽やかな顔で、熟れたことを言うなぁ……」  それでも、はぁ、とまだ熱い溜息をつく早紀だ。  昨夜の熱いひとときを思い出すと、また体の芯が疼いてくるのだ。 「拘束されて、イかされっぱなし。挙句に抜かずの2発、3発」 「拘束? 人聞きの悪いことを言うなよ。手を握ってただけじゃないか」  それでも早紀は、悪びれずに笑顔だ。 「中出しされながら、愛してるよ、って言われたのも初めて!」 「朝日を浴びながら、露骨な表現をするのはやめてくれ!」  ほとんど悲鳴の衛に、早紀はゴメンねと舌を出した。 「嬉しかったんだ。心から愛されてる、って感じたよ。ホントだよ」 「スキンを着けてなかった。こっちこそ、ごめん」 「そっか。赤ちゃんできたら責任取る、って前に言ったよね?」 「もちろんだ。その約束は、今も同じだ」 「……ありがとう」  そして早紀は、衛に囁いた。 「僕も、愛してる。衛さんのこと、愛してる」  それは、今までで一番大人びた早紀の表情だった。  彼は衛の元で、少しずつ大人になっていた。  ホテルのチェックアウトを済ませ、二人は街のショッピングモールに繰り出した。 「今日は、僕が衛さんにプレゼントを用意するって、決めてたんだ」 「気を遣わなくても、いいのに」 「前から予定してたんだよ? 衛さん、欲しいものを選んで!」 「そうだなぁ」  大人の衛が本気で欲しいものを言っても、今はカフェ勤めの早紀には到底買えない。 (これは意外に、難しい問題だぞ) 「あ、できれば10,000円以内でね」 「それは嬉しい提案だ」  予算内で買える品を衛は探し始めたが、早紀の方から声が上がった。 「これ、どうかな!?」 「私が選ぶんじゃなかったのか?」  ショップに飾られたその品は、パワーストーンのブレスレットだった。 「シトリン、タイガーアイ、透明本水晶のブレスレット。金運、仕事運アップ! だって」  値段も9,658円と、予算内だ。  なにより、早紀が乗り気だった。 「衛さんにブレスレットもらったから、お揃いにしたい」 「お守りに、ちょうどいいかもしれないな」  スピリチュアルは信じていない衛だが、せっかくの早紀の提案だ。  彼は、勧めに従うことにした。 「じゃあ、これにしよう。でも、本当にいいのか? 高価だぞ」 「お給料、ちゃんと倹約してるから大丈夫」  すぐに身に着ける品だが、早紀はスタッフに化粧箱に入れて欲しいとお願いした。  赤い包装紙に金のリボンが、いかにもクリスマスプレゼントらしい雰囲気だ。  そんな早紀の心配りが、衛には微笑ましく嬉しかった。 「はい、衛さん。メリークリスマス!」 「ありがとう、早紀」  赤い箱の金のリボンは、解くのが何だかもったいない。 「せっかくだから、24日に開けようかな」 「衛さんも、考え方がクリスマスっぽくなってきたね!」  微笑み合う二人に、周囲のスタッフも笑顔になっていた。  ランチは、どうしようか。  そんな衛の呼びかけに、早紀は思ったことをそのまま口にしていた。 「僕、お好み焼きが食べたいな」 「クリスマスデートに、お好み焼きか?」  少し、クリスマスっぽくない。  特別なデートらしくない。  衛の声には、そんな響きが含まれている。  早紀は、頬を染めた。 「う、嬉しいな。衛さん、そう思っててくれたんだ。クリスマスデートだ、って」 「まあ、それは。それなりに」  そこで、二人の手がこつんと当たった。  冷たい、お互いの手。  衛は、早紀の凍えた手をそっと握った。 「衛さん」 「繋げば、温かくなる」 「じゃあ、僕の熱を衛さんにあげるよ」 「それは、こちらのセリフだぞ」  二人で手を繋いで、歩いた。  なぜだろう、胸が高鳴る。 (手を繋ぐ、なんて。今まで、誰とでもやってきたのに) (柄にもなく、照れるな。相手が、早紀だからかな)  ああ、このまま二人で。  二人でなら、どこまででも行ける。 「少し、歩こうか」 「僕も、そう思ってたところ」  お好み焼きの店は通り過ぎ、公園まで歩いた。  風は冷たかったが、二人の頬と手は、ぽかぽかと温かかった。

ともだちにシェアしよう!