27 / 46

第二十七章 不穏なイヴ

 12月24日、クリスマス・イヴ。  早紀は、意外な人物からプレゼントをもらっていた。 「メリークリスマス、早紀くん」 「え!? あ、ありがとう!」  まさか、秀一さんからプレゼントもらうなんて!  驚きを隠せない早紀のリアクションに、秀一は慌てた。 「いや、その。あまり深く考えないでね。職場で、お世話になってるからだよ」 「お世話になってるのは、僕の方なのに……」 「こないだも、コーヒーこぼした時に、フォローしてもらったしさ」 「お互い様だよぅ」  いいから開けてみて、と勧められ、早紀はリボンを解いた。  包みを開くと、きれいな色の靴下が二足現れた。 「わぁ、嬉しい!」  手に取ると、肌触りがとてもいい。  ワゴンセールの安物ではない、確かな品だった。 「秀一さん。これって、今人気のブランドだよね?」  小さく刺繍してある上品なロゴを、早紀は見逃さなかった。 「高かったんじゃない? ごめんね……」 「いや、ホント、気にしないで!」  早紀くんに似合うと思ったら、つい買っちゃってた。  こう言う秀一が、早紀には自分より大人に思えた。 「じゃ、じゃあ。僕も!」  そこで早紀は、急いでバッグからサンタブーツを取り出した。  中にお菓子がいっぱい詰まった、可愛らしいブーツだ。 (本当は、休憩時間に食べよう、とか思ってたんだけど)  それでも、秀一は目を輝かせて喜んでくれた。 「ありがとう。懐かしいなぁ」 「な、何か、子どもっぽいよね。ごめん!」  いや、とっても嬉しい。  そう、秀一は言ってくれた。  その日は恋人の桂とディナーの約束がある秀一は、早めにメビウスを出て行った。 「ね、衛さん。僕、秀一さんからプレゼントもらっちゃった!」 「それは良かったな。何だった?」 「靴下。ブランド品だよ、嬉しかった!」  靴下か、と衛は心の中で安堵した。  友達の域を越えない、無難なプレゼントだ。  二人の仲を疑うわけではなかったが、ホッとした衛だ。 「早紀は? 宮木くんに、何かプレゼントしたのか?」 「僕、準備してなくって。だから、サンタブーツなんかあげちゃった」  それも、結局は休憩時間に二人で食べたのだ。 「僕はいらない、っていったのに。秀一さんが、一緒に食べよう、って」 「宮木くんは、早紀のお兄さんだもんな」  自然と口をついて出た言葉に、衛は自分で自分を嫌悪した。 (お兄さん、だなんて。私は、早紀を宮木くんに取られると思っているのか?)  まるで、先回りして早紀に言い聞かせるような真似をしてしまった。  思いもよらずに、嫉妬心がこぼれ出ていた。  クリスマス・イヴのメビウスに、客は少なかった。  夕方の6時を回る頃には、店内はゼロ。  誰も入って来なくなった。  きっと、家族や恋人、友人たちと過ごすのだろう。 「衛さん、今日はもう閉めちゃおうよ」 「そういうわけには、いかないよ。それより……」  カウンターの客席に掛けて、足をぶらぶらさせている早紀の前に、衛が運んできたものは。 「メリークリスマス、早紀」 「えっ、何? うわぁ!」  衛が早紀に贈ったのは、可愛らしくデコレーションされた小さなケーキだったのだ。  3号サイズのチョコレートケーキに、4種類のベリーがセンス良く飾られている。  プレートには『Merry Christmas SAKI』と、ちゃんと書いてあった。 「夕食までに、まだ時間があるから。これでも食べて、しのいでくれ」 「これ……衛さんが作ったの!?」 「まぁ、そんなところだ」  嬉しい、すごい、と早紀は大喜びだ。 「衛さん、バリスタやめてパティシエになればいいよ!」 「無茶言うなよ」  ケーキを食べ終わるまで、やはり客は誰も来なかった。  メビウスの温かな空間で、衛と早紀はクリスマス気分に浸ることができた。 「さて、閉店っと」  午後8時になり、早紀は営業中の看板を片付けに、外へ出た。  そこへ、人影が動いている。 「申し訳ございません。本日は閉店でございま……秀一さん!?」 「や、やぁ」  そこには、今頃は桂と一緒に過ごしているはずの、秀一が立っているのだ。  早紀の様子を店内から見ていた衛も、表に出てきた。 「どうした?」 「衛さん、秀一さんが……」  暗くて解りづらいが、秀一の表情は固い。  衛は、これは何かあったな、と彼を店内に入れた。  カウンターに掛けさせ、一度は切ったエアコンを入れる。  そして、黙ってコーヒーを淹れ始めた。  秀一も、一言も話そうとしない。  早紀は胸騒ぎを感じていた。 (秀一さん、何があったのかな)  しかし、やはり彼も、何も言うことができなかった。

ともだちにシェアしよう!