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第三十章 新しい恋……?

 朝食を秀一に勧めながら、早紀は彼を元気づけようと話しかけた。 「ウサギさんリンゴの他にもね、できるようになったこと、いっぱいあるんだ」 「例えば?」 「浅漬けとか!」 「へぇ。意外と古風なんだね」  秀一が微笑むと、早紀も嬉しくなる。 (秀一さん、元気が出てきたみたいだ!) 「上手になったことも、あるよ。洗濯物の畳み方とか、お掃除の仕方とか」 「早紀くん、頑張ってるんだなぁ」 「あとね、フェ……」 「ふ?」 「いや、あの。何でもないから!」 (フェラが巧くなった、なんて、さすがに言えない!)  それでも、秀一を何とか元気づけようと振舞う早紀の真心は、彼にも伝わった。 「早紀くん、ありがとう。俺、もう大丈夫だから」 「嘘。大丈夫じゃないよ」 「心の傷に、かさぶたができた感じがするんだ」  マスターと、早紀くんのおかげだよ。  秀一は、素直にそう言った。 「でも、今からどうするの? アパートに帰れば、独りだよ?」 「大掃除でもしようかな。年末年始は、実家に帰省するし」 「いいなぁ」  ぽつりと漏らした早紀の言葉が、秀一を動揺させた。 「あ、ごめん。何か、傷つけた?」 「え!? う、ううん。別に、何でもない!」  このマンションが、僕の家だからね。  強がってみせる早紀だが、実際のところどうだろう。  秀一は、心配になった。 「ね、早紀くん。家族とは、連絡取れないの?」 「うん……」 「マスターは? 弓月さんなら、連絡先知ってるんじゃないの?」  それには、首を横に振る早紀だ。 「衛さん、知らないって言ってた」 「そうか」  本当だろうか。 (まさか弓月さんは、早紀くんを手放したくないから、嘘を……?) 「でもね、お父さんから連絡が来たら教えてあげる、って言ってくれたよ」 「そう、だよね……」  いけない、と秀一は自分を叱った。  雇い主を、恩人を、疑うなんて! 「早く、お父さんと一緒に暮らせるようになるといいね」 「うん。さぁ、食べようよ!」  早紀の明るい声に、秀一の心はどんどん晴れていった。  「秀一さん、コーヒーのお代わりする?」 「うん、もう一杯いただこうかな」 「マジで!? もう、三杯目だよ!?」 「いや、だって。早紀くんの淹れたコーヒー、すごく美味しいから!」  もっと、ここに居たい。  少しでも長く、この温かな空間に居たい。  そんな願いが、秀一の心を捕えて離さなかった。  明るい、早紀くん。  優しい、早紀くん。  そんな早紀と、別れた桂とを、比べるようになっていた。 (同じオメガ性なのに、性格がまるっきり違うよな)  口数が少なくミステリアスな桂が、暗キャなイメージに書き換えられてきた。  甘え上手で守ってあげたくなる桂が、弱虫なイメージに書き換えられて来た。 「早紀くんは辛くっても、自分を見失わずに生きているよね」 「な、何かな? 突然!」 「別れた相手と、性格が真逆なんだ」  それには人差し指を立てて、横に振る早紀だ。 「ダメだよ、元・恋人のことなんか、思い出しちゃ」  前に、進まなきゃ。  そう、早紀は言う。 「新しい恋、見つけたらどうかな。大学に、気になる人はいないの?」 「大学には、特にいないなぁ……」  そこまで答えて、秀一は息を飲んだ。  大学には、いない。  だが目の前に、いる。  秀一は、すっかり早紀が、気になる人になっていた。

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