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第三十七章 再会

 早紀の未来を、明るく照らすため。  衛と紀明のベクトルは、同じ方を向いている。  そのために、我々ができることは何か。  それらについて二人は話し合い、いくつかの結論を出した。 「では、いろいろとお世話になります。本当に、申し訳ございません」 「いいえ。梅ヶ谷さんは、優秀な方です。いつまでも、隠れて生きるような人ではありません」  早紀と一緒に、日の当たる場所で。  笑顔で暮らすべき父親なのだ。  そう、衛は心から思っていた。  3億の金は、衛から紀明へ貸す、という名目にした。  まずは、借金を完済することが重要だ。  その後、紀明の返済をスムーズにし、且つ社会的信用を取り戻すために、衛が訴訟を起こす。  濡れ衣を着せられ、借金を背負わされた紀明。  自分が彼に金を貸すことになったのは、企業責任である、と訴えるのだ。 「世話になった会社に対して、少し後ろめたいのですが……」 「あぶり出されるのは、本当にあなたを裏切った悪党たちだけですよ。ご心配なく」 「弓月さんに、借金取りの人間が脅しをかけるのでは……」 「ユヅキホールディングスの人間には、さすがに簡単には手出しができないでしょう。ご安心を」  衛は紀明の不安を、一つひとつ消していった。 「本当に……何とお礼を言ったらいいのか……」  カウンターに額を打ち付けて頭を下げる紀明を、衛は慌てて起こした。 「頭を上げてください! これはみんな、早紀くんのため、でしょう!?」 「ありがとうございます……!」  痩せて顔色は悪くなったが、紀明はまだ目が生きていた。  衛は、そのまなざしに安堵した。  彼は、早紀が大好きな父親のままでいてくれたのだ。 (早紀。私からのバレンタインデープレゼントは、お父さんだよ)  そして彼は、きっと喜んでくれる。  衛は、笑顔を作った。  だが、心には冷たい風が吹いていた。  2月14日、バレンタインデー。 「衛さん! はい、チョコあげるよ!」  朝食の席で、無邪気に早紀が衛に赤い箱を渡してきた。  この一週間の経緯を思うと、彼の笑顔を見るのが辛い。  何から伝えれば、いいのか。  ただ、今すぐに言いたいことだけは、衛にも解っていた。 「ありがとう。手作りかな?」 「うん、頑張ったぁ!」  箱を開けると、甘い香りが鼻をくすぐった。  お行儀よく並べられた、一粒チョコたちが、衛を迎えてくれた。 「トリュフもあるんだよ。衛さんは大人だから、リキュールも利かせたからね!」 「それは嬉しいな」  にっこり笑って、一粒口にした。  溶ける甘味が、舌に心地よい。 「これは良い。コーヒーに、合いそうだ」 「そう言ってもらえると、嬉しいな」  ご機嫌の早紀に、衛は心に決めておいた一つ目の言葉を投げた。 「私からのプレゼントは、メビウスで渡すよ」 「ありがとう。楽しみ!」  では、と二人は笑顔のまま朝食を終えると、身支度をしてカフェに向かった。 「早紀、この看板を外に出してくれ」 「えっ? 店休日?」  今年のバレンタインデーは、火曜日だ。  火曜日はメビウスの店休日なのだが、特別に開店しようと、衛は早紀に伝えていた。  それは、バレンタインデー当日の一週間前から、早紀がサービスのクッキーを焼き始めたからだ。 (僕が頑張ってるから、衛さんは火曜日だけど営業するんだ、って思ってたのに)  早紀は、疑問と共に不満も覚えた。 「せっかく、クッキー焼くのが巧くなったのに。お客様にも、評判良いんだよ?」 「今日は、特別なお客様の貸し切りなんだ」  だから、クッキーは焼いてくれ。  そんな衛に、早紀は唇を尖らせた。 「貸し切りなんて、聞いてないよ……」  ぶつぶつ言いながらも、早紀はクッキーを焼いた。  やがてオーブンから香ばしい匂いが漂い、店内は温かな空気に包まれた。  そんな中、その特別な客が現れた。 「おはようございます」 「お待ちしておりましたよ」  その声に、早紀は首を跳ね上げた。 (この声は……)  この、聞き慣れた懐かしい声は! 「お父さん!?」 「今まで、すまなかったな……早紀!」  早紀はカウンターから駆け出すと、父の胸に飛び込んだ。

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