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第41話 泣いてたって始まらない!

「ぅん?」  衛はベッドで目を覚まして、腕で隣を探った。  早紀が、いない。  泣き疲れて眠ってしまった彼を寝室へ運んで、その後に自分も休んだのだ。  その、隣に。 「お父さんのところへ、帰ったのかな」  昨日は、我ながらひどいことを言ってしまった。  もう、愛想をつかされてもしかたがない、とさえ思っていた。 「おはよう、衛さん!」 「早紀」  だが、寝室へ入って来たのは、エプロン姿の早紀だった。 「早く起きないと、メビウスのオープンに間に合わないよ?」 「あ、あぁ。そうだな」  身支度を済ませてキッチンへ行くと、すでに朝食の準備が整っている。  衛は、コーヒーを淹れる早紀を、そっとうかがった。  笑顔で、鼻歌まで歌っている。 「早紀。昨日は、ごめん」 「もう、大丈夫。泣いたら、スッキリしちゃった」 「強くなったなぁ、早紀」 「泣いてても、仕方がないもんね」  僕は、前を向くよ。  そして、行動する。 「僕は、自分の力で未来を切り開くんだ」  頼もしい、早紀の言葉だった。  メビウスへ行くと、そこには秀一の姿があった。 「おはようございます!」 「宮木くん、今朝は早いな」 「今日は、講義が無いので」  早紀の表情が、少し固くなった。 (秀一さんと、顔を合わせづらいな……)  昨日、告白された。  しかも、その場で断ったのだ。 (せめて、一日くらい後に返事をすれば良かった)  だが、その秀一の影から、もう一人が顔をのぞかせたのだ。 「おはようございます……」 「宮木くん、その方は?」 「紹介しますね。俺、彼と付き合ってるんです!」 「山川 桂です。いつも秀一がお世話になってます」 「えぇっ!?」 「う、嘘!」  桂とは別れた、とクリスマスに聞かされていた衛と早紀は、驚いた。  忙しいモーニングの時間帯をこなした後、桂は窓際の席で早紀と話し込んだ。 「秀一が困らせちゃって、ごめんね。全部、僕のせいだから。彼を悪く思わないで」 「悪く思ったり、しません。秀一さん、すごく良い人です」 「僕、彼が早紀くんのことを気にし始めたから、意地になっちゃって……」  それで、彼の愛情を試すような真似を。  クリスマスに、別れ話をするような真似をした、と打ち明けた。 「ホントは、好きで好きでたまらないのに。馬鹿だね、僕って」  そんな桂の耳には、イヤーカフがきらめいている。  だがそれは、秀一が早紀に贈ったものとは違っていた。  ホワイトゴールドではなく、イエローゴールドで出来たイヤーカフだった。  早紀は、衛と話している秀一を見た。  彼の耳にも、ペアのイヤーカフが輝いている。  早紀の行動に気付いた桂は、微笑んだ。 「早紀くんにプレゼントした、イヤーカフ。僕は、そのままでいい、って言ったんだけど」  秀一が、どうしてもと言って、交換したのだ。 「二人でショップに行って、返品して。代わりに、これを選んだんだよ」 「すごく、似合ってます。素敵です!」 「ありがとう。秀一に聞いた通り、良い子だね。早紀くんは」  早紀には、秀一と桂がまぶしく見えた。  きっと二人は、これからも一緒に歩んでいくのだろう。  時にはケンカして、そして仲直りして。 (うらやましいな……) 「早紀くん」 「え? あ、はい!」 「早紀くんも、弓月さんと幸せにならなきゃダメだよ?」 「う、うん……」 「秀一を振って、選んだ人なんだから。しっかり手を繋いで、離しちゃダメだよ?」 「解ったよ。ありがとう!」  早紀は、顔を上げた。  衛さんと、離れたくない。 (そのためには、桂さんみたいに頭を使って、行動しなきゃ!)  もう、泣くのは止めだ。  早紀の決意は、しっかり固まった。  早紀は、毎日元気に働いた。  マンションでは家事をこなし、メビウスではしっかり勤めた。  時折父に会いに行き、そして衛を愛した。  残り二週間を、精いっぱい生きていた。  そして。 「僕、やっぱり衛さんとは離れられないよ……」 「どうしたんだ? 何だか弱気だな」  ベッドの中で抱き合いながら、早紀は首を横に振った。 「弱気じゃないよ。強気なんだよ」  素肌の内股を衛に擦り付け、キスを一つ。 「衛さんと、ずっと一緒にいられるように、って。いつも考えてたんだ」 「早紀」  胸にサラサラの髪を撫でつけ、キスを二つ。 「でもそれには、衛さんの協力が必要なんだけど、な」  何だって、と衛は早紀の顔を見た。 「この先も、私といられる方法を思いついたのか?」 「うん!」 「早く教えてくれ。聞くから」  その前に、と頬に手のひらを添わせ、キスを三つ。 「キスしてよ。唇に」  迷うことなく、衛は早紀に口づけた。  甘いひとときが、今夜も広がり始めた。

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