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第44話 父と息子の急展開

「僕を、衛さん専属の使用人として、お屋敷に置いていただけませんか!?」 「さ、早紀?」 「家事は得意で、コーヒーも入れられます。あ、お菓子作りもできますから!」 「ちょっと待って、早紀」 「お願いします! 何でもします! どうか、使用人にしてください!」  必死にアピールする早紀と、困惑気味の衛だ。  そんな二人を、衛の父は黙って眺めている。  早紀は、不安だった。 (衛さん、どうしてもっと推さないのかな? 僕が衛さん専属の使用人として弓月家について行く、って二人で話し合ったのに!?)  これは、早紀の考えた作戦だった。  使用人として弓月家に入り、きちんと働く。  そしてゆくゆくは、衛との仲を許してもらう。  こういう筋書きだったはずなのに。 (ちょっと待って、って。どういうことさ!?)  微妙にふくれっ面の、早紀だ。  そこに、衛の父が口を開いた。 「早紀くん、と言ったな。順を追って話すので、使用人にするかどうかは、少し待ちなさい」 「えっ? は、はい」 「お父様。反対はなさらない、ということですか?」 「だから。順を追って話すので、結論は待ちなさい」  さすがは弓月の家長だけあって、威厳たっぷりだ。  早紀は、気圧されそうになったが、ただの怖い人物ではない懐の深さを、彼から感じ取っていた。 (何と言っても、衛さんのお父さんだもんね。きっと優しくて頼れる人だよ)  そして父の話とは、衛とメビウスへの提案だった。 「衛。このカフェを、ユヅキホールディングスの名で経営する気は無いか?」 「何ですって」 「弓月は、外食産業に着手し始めたばかりだ。その一環として、メビウスを拡大してみたい」  衛は、思わずポカンと唇を薄く開いていた。  思いがけない、父からの提案だった。 「それはつまり、メビウスをチェーン店にする、ということでしょうか」  やっと口を開いた衛だったが、今度は彼が不安を覚えていた。  大切に育んで来たメビウスが、質の劣る豆で味気ないコーヒーを提供するカフェになることは、耐えがたい。  しかし、それは違うと父は言う。 「さきほど早紀くんが教えてくれた、経営理念。これは使える、チャンスになると考えたのだ」 『衛さんは、大人の隠れ家をメビウスで表現しているんですよ』 『どんな苦難を抱えていても、一杯のコーヒーを味わっている間だけは、安らぎを感じてもらいたい、って』  素晴らしい、と父は唸った。 「衛が、自分の力で掴み、研ぎ澄まし、築いたビジネスの形だと私は思う」 「では……私はカフェ経営を続けても良いのですか?」  衛の目は輝き、早紀の頬もバラ色に染まった。 「ただ、移転はして欲しいぞ。ここでは、体の不自由な人や高齢者ではたどり着けないからな」  ショッピングモールの動線上に、無料の専用駐車場付きのカフェを建てる。  もちろんバリアフリーで、レストルームは多目的にする。  その他、細々としたことは多いが……。 「それらは、衛が話していた梅ヶ谷氏。彼をブレインに迎えてはどうかな。元・トドロキ商事の支店長なら、外食産業には明るいはずだ」 「お父さんが、衛さんと一緒に、新しいメビウスを作るんですね!?」 「そうだ。そこで、早紀くん。君も、オープニングスタッフになるといい」 「僕も、ずっとメビウスで働けるんだ!」 「使用人として屋敷に籠るより、君には接客業が向いている」  早紀は、夢を見ている心地だった。 「これで……衛さんと離れ離れにならなくて済むんだ!」  衛も、嬉しそうな彼を見て、満足げに笑った。 「お父様。早紀を使用人より接客に使った方がいい、と判断していただき、ありがとうございます」 「うむ。長年の経験が、人を見る目を育てたのでな」 「判断ついでに、もうひとつ。先々私は、彼と一緒になりたいと考えています」  その言葉に、喜びの踊りをヒラヒラ舞っていた早紀は、息を飲んだ。 「ま、衛さん!?」 「私はもう、彼がいなくては生きられません。早紀は、メビウスより大切な存在なのです」 「衛さん、滅多なこと言っちゃダメ!」 「早紀との結婚を、お許しください」 「衛さんのバカ! お父さんが反対したら、終わりだよ! 僕は使用人でもいいから、衛さんの傍に居たかっただけなのに!」 「早紀。あの時は、君の考えを名案と思ったけど。でも、違うんだ。私は君と、肩を並べて一緒に居たい。対等でいたいんだ」  衛の父親も、早紀も、黙ってしまった。  温かだった店内が、一瞬にして氷のような緊張感に包まれた。

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