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第45話 許しもしないし反対もしない

「早紀との結婚を、お許しください」  衛は、父に思いをぶつけていた。 「私はもう、彼がいなくては生きられません。早紀は、メビウスより大切な存在なのです」  本来なら早紀のアイデア通り、まずは彼を使用人として弓月家へ入れるはずだった。  その後、様子をうかがいながら、父に結婚の許しを願うつもりだったのだ。  しかし、久しぶりに会った父は、かつてないほど物分かりのいい人間に見えていた。  つい、衛は気が急いてしまったのだ。  沈黙を破って、父が口を開きかけたその時、厳しい声が上がった。 「マスター。それって、早紀くんの同意を得てませんよね!?」 「しゅ、秀一さん!?」 「宮木くん?」  今まで周囲の様子を見守っていた秀一が、腕組みをして衛を睨んでいた。 「フライングして、何を言い出すんですか。早紀くん、困ってるじゃないですか」 「あっ……」  秀一に指摘され、衛は口元に手をやった。 「勝手に自分の思いだけで動くと、どうなるか。俺の失敗を見てれば、解るはずでしょう?」  確かに早紀とは強く愛し合ってはいるが、プロポーズはまだなのだ。 (こんなに大切なことを、つい勢いで! 失敗してしまった……ッ!)  珍しく、猛省する衛だ。  早紀は、そんな彼のフォローに入った。 「で、でも。僕、嬉しかったよ? 衛さん、僕との将来まで考えてくれてたんだなぁ、って」 「早紀くんは優しいから、結果オーライなんだよ。それこそ、マスターのお父さんに反対されたら、どうすんの?」  お互い、どんなに好き合っていても、言葉にしないと伝わらないことがある。  秀一は、桂との経験を糧に、成長していた。 「しかも、言葉にしても伝わらない時だって、あるんですからね?」 「確かに、宮木くんの言う通りだよ。早紀、驚かせてすまない」  衛は、素直に早紀へ頭を下げた。    今度は、衛の父が成り行きを見守る立場になっていた。  しかしながら、自分が指摘したかったことは、目の前の青年が全て言ってくれたのだ。 「若いのに、感心だな。君、年齢はいくつだ?」 「えっ? あ、はい。21歳の大学3年生です」 「就職先は、もう決まったのかね? ユヅキの会社を、紹介してやってもいいが?」 「ありがとうございます。でも、もう内定もらってるので」 「それは惜しかったな。何という企業だね」 「それが、トドロキ商事なんです」  早紀は、驚いた。  その馴染み深い社名は、彼の父・紀明が長年勤めていた企業なのだ。 「すごい偶然!」  衛の父も、しきりにうなずいている。 「これが、縁というものだろうな」  トドロキ商事の株は、ユヅキホールディングスも所有しているし、もっと言えば共同開発もしているパートナー企業だ。  衛の父は、カフェ・メビウスの事業展開は幸先が良く明るい、と見た。  では、と衛は早紀の元へと歩んだ。 「早紀、聞いての通りだよ。私と、結婚して欲しい」 「衛さん……」  はい、と早紀が応えようとした矢先に、大声が響いた。 「ダメだ! 衛、お前はいきなり何てことを言うんだ!」 「お父様!」 「弓月家の人間として、恥ずかしくないのか!?」  衛は、唇を痛いほど噛んだ。 (やはり、お父様は相変わらず横暴だ!) 「お父様! 私と早紀は、互いに愛し合って……」 「プロポーズするのに、ダイヤモンドの指輪を用意しないやつがあるか!」 「えっ? お父様?」 「大安吉日を選んで、風水で吉方を調べて。ハイクラスのディナーに、バラの花束も必要だ!」  衛の瞳は、みるみるうちに輝いた。 「では……私たちの結婚を、許してくださるのですか?」 「許しもしないし、反対もせん。大体、お前と会うのは久々で、早紀くんのことはまだ何も知らんからな」  衛の父は、照れくさそうに視線を逸らした。  それでも、早紀を見る彼のまなざしは柔らかかった。 「じゃあ、僕。お許しが出るように、頑張って衛さんにふさわしい人間になるよ」 「早紀くん。君はすでに、私にはもったいないくらいの人なんだよ?」  急に二人の世界を織りなす早紀と衛に、秀一はやれやれと腕組みを解いた。 「まったく、甘々なんだから」  そんな彼に、衛の父も呆れたような口調だ。 「宮木くん。あの二人は、いつもあんな感じなのかね?」 「そうですねぇ。最初は隠してましたが、最近では駄々洩れですね」 「では、なおのことケジメは付けないとな」  ちゃんとしたプロポーズと、両家への挨拶。  弓月家の祝賀としての、婚約発表や記者会見。 「私も、忙しくなりそうだ!」 「ちょ、待ってください? 記者会見までするんですか?」 「するだろう、普通」 「普通は、しませんよ!」  二月吉日、メビウスには明るい早春の光がさしていた。

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