6 / 8

血の味

 気がつくと厩の中は完全な闇と呼べるまで暗くなっていた。    唇で触れるどころか舌で天を指す幹を上下に舐め回された。唾液をまぶし肉茎にキスをしながらずずっと音を立て、口奉仕を受けている。    おそらく獣の舌と大差のない、熱くざらりとした感覚が根元から頂点までを行き来する。先程彼が流した血液は唇や顎では乾いているのだが、口の中では唾液と混じって鉄の匂いを漂わせているのかもしれない。      気の狂いそうな快感にここがどこであるかすら一瞬分からなくなる。    ジョアンは同時に自らをも弄り始め、身を震わせながらアルナウトに奉仕する。彼の息遣いと卑猥な水音が、馬たちの呼吸に混じって微かに聞こえた。      このままではもっともっとと、懇願しそうなくらい快楽が下腹部に溜まり、かつて炭焼き小屋のシダの上で交わった時のように簡単に吐精してしまいそうだ。    ジョアンはそれを見越したのか、アルナウトの先端を全て口に含み暖かい粘膜で包むようにすぼめた唇で圧をかける。     「……ふうっ」    たまらずアルナウトの喉からは情けない声が漏れた。    自らも藁の上に身を預けると、既に汗ばんだ腿に藁くずが付いた。  ようやくわかる程度の明るさの視界には、子供じみたジョアンの昂りを彼自身が擦り、慰めているところが見えた。      同時に彼のものを一心不乱にしゃぶりあげるジョアンの鼻息が、アルナウトの下生えをくすぐり、気がついた時には彼の咥内どころか喉までアルナウトのものが入っている。    ジョアンはやや苦しそうな息をしながらそれでもなお、アルナウトを奥まで迎え入れていた。     「は、あ」      肉を震わせながら爆ぜた白濁がジョアンの喉奥へと流れ落ちて行った。    萎えかかったものを彼の口から引き抜くと、アルナウトの精がジョアンの顎を流れていった。      彼がこくこくと、喉を動かしてそれを飲み込んでいるのがわかった。唇に付着した淫液が弱い光を反射する。      その時小さな水音と釣瓶を引き上げ、滑車が回る音が聞こえた。  誰かが中庭にある井戸で水を汲んでいるのだ。  砂の擦れる靴音がこちらへ向かってくるのがわかった。    アルナウトが息を潜めると、誰かが馬小屋に入ってくる気配がする。    その誰かは木桶に汲んだ井戸水を馬の飲む水入れに注ぐ音がした。  一度外に出て手燭の灯りを持ってくだんの人物がふたたび入ってくる。    どうやら彼は馬の世話係で、ときおり馬の体にブラシを掛けながら話し掛ける。    「蹄鉄が緩んでるな、これは持ち主に確認して治すか聞いた方が良いだろう」    誰か――未知の男の声と、馬がもそもそと飼葉を口にする音がする。      早く立ち去ってくれ。  アルナウトは祈るようにその場で身を硬くする。      その時思わず叫び声を上げそうになり、必死で両の手で口を塞いだ。      ジョアンの舌がアルナウトの袋と後孔の間を舐めた。    舌が往復する度に腹の中がぞわぞわと震えなにかが込み上げてくる。  やめるように言おうにも馬小屋の中で自分が何をされているのかが、ジョアンと何をしているのかがこの見知らぬ男に露見してしまう。    舌が一度止まりアルナウトは、心臓が体の外へ出ているのではないかと思うほど、脈が速く打つのがわかった。     「ん? なんか気になるか?」    男が馬に話しかける。  僅かな馬の変化を感じ取った男は、小屋の異変を嗅ぎつけたのかもしれない。   「どうせ害獣のたぐいだろうな」      再び男は興味を失ったのか馬の世話を再開する。    早く、一刻も早くここから立ち去ってくれ。  アルナウトの額から汗が流れ落ちた。      先程と違う場所に湿り気と温度を感じた。     !?    信じられない。  ジョアンの舌がアルナウトの秘された蕾を吸うように舐め回すのがわかった。一度果てたはずの茎が力を取り戻してきている。      そして微かな、ちゅ……という音がすると、その忌々しい舌がアルナウトの中へと入り込んできた。      どのような最底辺の娼婦であれ、金を積まれてもしないような行為ではないか。アルナウトは快感と羞恥に板挟みになる。      やめて欲しいのかやめないで欲しいのか。      その舌がアルナウトの一点を執拗に刺激する。先ほど外側から舐められたのとどうやら筋肉や皮を通して同じ場所らしい。    先程まで舐めていたその外側をジョアンが再び今度は指でなぞり始める。    内と外を同時に攻められる。      まったく知らない波が来た。平素罪深いと感じながらも自分の手で処理することや、先日ジョアンと交わったこととも明らかに違った。    アルナウトは精を溢さずに達していた。      分からない。これはなんだ?      しかしジョアンの与える刺激はそれで止まることなく、再びその快感が腹に溜まり続ける。  焦らすように一度抜いた舌で窄まりを舐められて、アルナウトのそこが意思とは無関係に震え、さらに求めてしまうのがわかった。    ここが馬小屋でも、他人がいる場所でもなければ、今すぐに情けないよがり声を上げていただろう。      幾度目の法悦に目を剥いたのか分からなくなっていた。声も出せぬままずっと極め続ける。      ジョアンの声で我に返った。   「あの男、もう出て行ったぞ」     …… ………… ………………     井戸を挟んだ旅籠の居酒屋で、アルナウトは頼んだワインを前に虚ろな目をしている。    店内はとうに夕飯どきを過ぎてはいたが、それ故に呑んで粘る客たちやあまり上手くない歌をうたっては、おひねりを彼らから貰おうとリュートをかき鳴らす男の下品な歌声で賑わっていた。       ――今夜、馬小屋で死んだのは私なのかそれとも他の誰かなのか。    何故私は未だにこの男と一緒にいるのだろうか。      私を殺した彼の唇、乾いた血が滲んだ唇は何もなかったかのように、左手で(﹅﹅﹅)豆や腸詰を口に運んではワインで飲み込んでいた。    私はその様を食い入るように見ることをやめられなかった。

ともだちにシェアしよう!