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良心の撹乱者
アルナウトが部屋を覗き込むと、そこでは目を背けたくなるような行為が繰り広げられていた。
闇の中でもなお白く光り洞窟の中でしか生きることのできない、殻の割れた蝸牛のように蠢く細い体が汗ばみ震えている。
見るべきではない。
そうわかっているが見ることをやめられない。
少しだけ開いた扉の隙間からは蝋燭と暖炉の火に照らされた、あまり広くない邸の主人の寝室の中でジョアンと皮革商のギロー・ペリシエが体を重ねている。
ジョアンは相手の男の痩身に合わぬ大きさのグロテスクな昂りを口に含むと頬張るようにしてしゃぶり上げながら、右手で睾丸を転がしている。
暖炉の薪が燃える微かな音の他には物音ひとつしない寝室には、二人分の荒い息遣いとじゅる、ぐぽといった陰圧と唾液によって生じるみだらなまぐわいの証が響く。
ぱん、ぱんっ、ぱんっ
と、肉を打つ音がする。
ジョアンの頭を掴むようにして、ギローは腰を打ち付けるとと、ジョアンの息が、
はあ、は……と漏れた。
しだいにギローの方の呼吸も激しくなり、それに合わせて腰が前後へ激しく揺れジョアンがついに耐えかねるように、空気を求めて口を開ける。
そのとき子種が放たれたのかジョアンの喉からは、ぶつっと短い声が漏れた。男は長く吐精をしているようでジョアンの後頭部を抑えたまま、背が震えている。
ようやくジョアンは男の腰から顔を離すと、片方の鼻孔から白濁がどろりと流れ落ちた。
ぬめった舌先からギローの陰茎に橋がかかったように、唾液か精か判別のつかないものが糸を引いている。
男はやや萎えた茎を自ら扱くと、ジョアンの顔へと内部に残っていた種を掛けた。彼の美しい顔には室内の微かな光を反射する淫液がこびりついて、重力で落ちかかっている。
ジョアンは最後に自らの舌を出すとそこに乗った精液を男に見せてから、飲み込んだ。
彼らを窃視している罪悪感や自らのしていることに対する疑問、律法に拠れば裁きのために誰かを呼び告発すべきなのに、そのような『かくあるべき』だったはずの自分の姿が霧消することへの怯えの方がはるかに勝っていた。
見ることによってこの行為を世界に刻み、確定しているのは私ではないか。
アルナウトのその心持ちを知ってか知らずか、いやその間の二人には存在さえ認識されずに、彼らは汗を流しながら絡み合っている。
アルナウトには触れれば爆ぜそうに張りつめた己の欲を宥めようにも、何のすべも残されてはない。
「次に何をするかわかってるな?」
だいぶ息の切れた状態で男が話しかけると、嬉しそうに笑みを浮かべたジョアンは男にしゃぶりついて、萎えかけたそれを舐め上げ続ける。ギローの幹に付着した精を掃除するかのように、赤い舌が動き続けた。
「は、おいし……い」
ジョアンはあけすけな言葉とともに尿道に残っていた精液を残らず啜りあげると、
自らの唇をぺろりと拭う。
盛りのついた犬のようにギローに媚びた表情を向けると、紅潮した頬に緩んだ口元と欲まみれの視線が、皮革商の男根を欲しいとさらに望んでいるのだ。
ギローの骨ばった手がジョアンの黒い髪を掴むと顎を上げさせ、顔を近づける。鼻と鼻が触れそうだ。
「早く、強請れこの薄汚い穴が」
ジョアンは膝の裏に手を入れ脚を大きく広げて弱点を晒した。
「はやく、ほし。太いの挿れてっ、挿れてください。挿れて掻き回して中っ……」
子どもじみた男性器が一揃い冷たい空気に晒される。
耐えられぬと息を切らし、みだらに誘いながら左手の中指を窄まりに押し込むと、ぐぐ……とそれを飲み込んでゆく。
「見て? 早くそれをくれないから、俺が自分やってるんだよ。奥へ、ほら見て。お腹の中気持ちい……きもちぃ」
指の本数を増やすと掻き回す。にちゃにちゃと湿った音がする。
既に涙と精液の混じった鼻水でどろどろになった顔は蕩けて、貧相な陰茎と生き物のように収縮する窄まりと同じように、だらしなくよだれを垂らしている。
指が中の敏感な部分に触れたのか、ジョアンはびくんと体を震わせた。天を向いた彼の茎がしなる。
「ひあっ、おちんちん触って、おちんちん、あ。おねが……」
ギローはしかしジョアンの陰茎には触れぬまま彼の桃色の乳首を吸い上げ、舐めては抓りながらこう言う、
「……ヨハナン 、ああこの偽預言者め。お前らの神の恩寵によればこの行為も全てお前の従弟の更なるまがい物によって贖われてるぞ、違うか?」
がりっと音の聞こえそうなほど、ジョアンの胸の突起が齧られる。
「ひぎぃッ、あ……ッ」
痛みと快感に仰け反ったジョアンの白い喉が蝋燭の弱い光に照らされると、暗い部屋の中であわく発光している。
三本に増やした自らの指を飲ませた蕾が、粘着質な音を立てながら別の生き物のようにそれを受け入れては吐き出していた。未発達な陰嚢がその度に揺れる。
ギローはジョアンが自らを慰める指を引き抜くと彼をシーツに四つ這いにさせた。
期待からジョアンが震えているのが分かった。持ち上げた尻が微かに揺れる。
彼のふとももへ直腸から溢れた体液と、粘った先走りが流れてみだらに光る筋を描いていた。
「お前がイかせたせいでまだ勃たない、異邦人にはぴったりの玩具だ。没薬が入っていた。さっさと咥え込め、この肉穴が」
皮革商はそう言うと緑色のガラスの小瓶をジョアンの中へと突き入れた。
青臭い精液のにおいだけではない。
ジョアンの歓喜にすらならぬ歓喜の声と、皮革商の嗜虐趣味の嘲笑で部屋の中は吐き気のするような瘴気が籠っていた。
ギロー・ペリシエの割礼を受けた痕跡が残る陽物が緩く力を取り戻しつつある。
立ち去ろうとして我に返ると、アルナウトの下着はぐっしょりと精で濡れていた。
◆◆◆
まだ朝は早かった。
魚を啄もうと、もやが覆う川面を鷺が探っている。
人間たちの営みの終わりの終わり、その汚濁をも感じさせないかのように。
工場の裏手、河原の細かい砂に枝を使って、文字らしきものを書いていた少年へアルナウトは声をかける。
「ベルナト君、父上はどこに?」
「お父さんなら事務所に居るよ」
"כל הנחלים הלכים אל הים"
(すべての川は海へ流れゆく/伝道者の書1章7節部分)
少年は地面に書いていた文字を靴で消した。
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