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24#廃墟の熱① ※R

 一度触れてしまうと、もう止められなかった。 「ん……、っ」  微かに漏れた甘い吐息ごと、容赦なくその口内を蹂躙する。噛みつくように唇を吸い上げ、こじ開けた歯列の奥へ熱い舌を深く滑り込ませた。  挑発でも打算でも手段でもない、ただ剥き出しの欲動に突き動かされるままのキス。パーティの喧騒も痕跡もすべて塗り潰すように、貪欲に、何度も角度を変えて深く舌を絡め合わせる。  その荒々しい熱に応えるように、フランも自らラスの首に腕を回し、舌を這わせ、挑発的にラスの口内を掻き回してくる。  静まりかえった廃墟に、卑猥な水音と荒い息遣いだけが響く。激しく互いの熱を貪り合いながら、ラスは壁に押し付けたフランの身体をもどかしげにまさぐった。互いに急かすように衣服に手を掛け、邪魔な上着を強引に剥ぎ取る。  だが、フランのジャケットを床に滑り落とした瞬間、ラスの動きがぴたりと止まった。 「……あんた、なんつー……」  薄暗い非常灯の下で露わになったのは、上品な上着からは想像もつかないほど淫靡な装いだった。薄くなめらかな素材の黒のドレスシャツは、胸元や腰のラインをいやらしく強調するように身体を覆い、その下の素肌が生々しく透けている。  それは明らかに、スターリングのために――あの男がフランを抱く時のために用意された、悪趣味な贈り物としての衣装だった。  絶句するラスの反応を楽しんでいるのか、フランは艶めいた吐息とともにくすりと笑う。 「……ふふ、今夜の僕は〝商品〟だからね。これはラッピング」  そう言って、フランは自らスラックスのベルトに手をかける。布が落ちて露わになった下着は、さらに際どいカッティングの施された扇情的なものだった。  傲慢な権力者の歪んだ欲望を満たすためだけに用意された――上品なスーツの内側にこんなものを平然と身に纏い、あの摩天楼の上で悠然と微笑んでいたのか、この男は。  言いようのない苛立ちと呆れと、同時にそれを今からこの手で剥ぎ取ろうとしている事実への興奮が、どろどろとないまぜになってラスの下腹部に重い熱を集めていく。  ラスの視線に満足げに微笑んだフランは足元に落としたスラックスを蹴り捨てると、するりとその腕から抜け出した。ガラスの散乱する受付カウンターの前へ歩み寄り、そこでふわりと振り返る。  そこにいたのは紛れもなく――いまだトレード・ハブに噂されるほどに、かつて男たちを虜にした娼夫(エルファン)。  荒らされたカウンターに軽く腰を預け、エロティックに作り上げられた姿をこれ見よがしに晒しながら、エルファンだった男は艶やかに唇を吊り上げる。 「大事な商品を横取りした気分はどう?」  自分に向けられた醜悪な欲望や屈辱的な扱いを歯牙にもかけず、どこまでも自由で不遜な態度で、フランは美しく微笑んでいた。  それを目の当たりにして、ラスの中で、張り詰めていた最後の糸がぷつりと切れる音がした。こんな状況で、自分だけが常識に囚われているのが心底馬鹿らしくなってくる。しがらみも苛立ちもどうでもいい――むしろこの最高にイカれた状況を、箍を外して骨の髄まで楽しんでやろうという気さえ起きてくる。  ラスは自身の窮屈なシャツのボタンを引きちぎる勢いで外しながら、ゆっくりとフランへと歩み寄った。 「ああ、悪かねえな。……けど」  フランの目の前に立ったラスの視線は、透けるシャツでも艶めいた唇でもなく、ただ一箇所――フランの首元にきつく巻き付いている、コバルトブルーの石があしらわれたベルベットのチョーカーに注がれていた。  パーティ会場で目にした時からずっと、あの傲慢な男の所有物であることを誇示するように揺れ続けているその首輪が、どうにも気に食わない。  ラスは無造作に手を伸ばすと、チョーカーの縁に指をかけ――躊躇なく力任せに引き千切った。 「……似合わねえな。あんたに首輪なんざ」  ブチッ、と音を立ててちぎれたベルベットを床へ投げ捨てる。  そして、かすかに赤い痕が残った首筋を親指でなぞりながら、そこへ噛みつくように口づけた。 「ん……っ、ぅ」  フランはわずかに甘く吐息を漏らし、そのままラスの首に両腕を回して、誘い込むように耳元で囁く。 ​「じゃあ……首輪よりいいものを、ちょうだい」 「……好きなだけくれてやるよ」  ラスは低く唸ると、無防備になった首筋から鎖骨へと、赤い痕を点々と残すように幾度も吸いついた。  そのまま視線を下げ、極薄のドレスシャツ越しに生々しく透けて見える胸の突起へと手を伸ばす。 「あ……っ、ん、」  指の腹で布ごと挟み込み、軽く捻り上げるように刺激すると、フランの口から甘い喘ぎがこぼれ落ちた。  薄くなめらかな布越しの愛撫はかえって甘い刺激となってより敏感に感じるのか、擦れるたびにぴくりと先端が反応して硬く勃ち上がっていくのがはっきりと伝わってくる。  ラスはたまらずそこへ顔を寄せ、シャツの上から直接、熱く濡れた唇を落とした。 「あ、っ、あ……ぁ」  布ごと喰むように吸い上げ、舌先で執拗に転がす。唾液で濡れそぼった黒いシルクが、薄紅色の突起にいやらしく張り付き、その淫靡な輪郭をよりいっそう鮮明に浮き彫りにした。  唇で胸を嬲りながら、ラスは空いた手でなめらかな太腿を撫で上げ、際どいレースの下着でわずかに覆われただけの脚の間へと滑り降りる。  すべすべとした布地の下で、すでに熱を持って勃ち上がっているそこを手のひらで包み込むと、ラスは布の上からその形を確かめるようにゆっくりと根元から扱き上げた。 「あっ、……はあ、ん……っ」  敏感な部分に擦れるたび、フランの腰がびくびくと震え、ねだるようにカウンターから僅かに腰を浮かせる。  指先で先端の鈴口を布越しに強めになぞると、そこから溢れ出した蜜が、薄い下着の生地をじっとりと濡らし始めていた。触れるたびに布がぬちゃりといやらしく吸い付き、指を這わせる動きに合わせて淫らな水音を立てる。 「……こんなエロい下着ごと、ぐちゃぐちゃに濡らして……どうして欲しい、なあドクター」 「は……ぁ、……っ、いい……、もっと……触って、」  与えられる快楽に対して、フランはどこまでも素直だった。淫らに濡れた場所を恥じらうどころかさらにねだるように擦り寄せられて、ラスはたまらず自身のスラックスのベルトと金具を外すと、ジッパーを乱暴に引き下ろした。下着ごとずり下げて解放した猛る熱を、フランのぐっしょりと濡れた布の上から直接、ぴたりと強く押し当てる。 「っ――あ、」  フランの腰を両手でしっかりと掴み、カウンターに押し付けたまま、せり上がった熱を押し付けるようにゆっくりと腰を揺すった。  薄い布一枚を隔てて、ぬるぬるとお互いの欲のかたちが擦れ合う。ラスの熱く硬い質量を求めるように、フランは自ら腰を寄せて片脚を絡め、ラスの身体を引き寄せた。  布越しの刺激は、欲しい熱まであと一歩届かない。そのもどかしさがさらに飢餓感を煽り、どちらからともなく貪るように再び深く唇を重ねる。 ​「ん……、ふ、っ、んん……」 ​ 互いの唾液が口端から溢れ、顎を伝って滴り落ちる。  下半身から突き上げる鈍い快感は布に阻まれて生殺しのようだったが、その分、直接触れ合える口内を蹂躙することに互いに夢中になっていた。何度も角度を変え、裏側まで舐め上げるように舌を絡ませ合う。  フランはラスの首に回していた腕をその背中へと回し、引き寄せるようにしてラスのシャツを力任せに掴んだ。上質な生地が、フランの指の間でみしりと音を立てて軋む。 ​「……は、っ、……あんたにしちゃ、余裕ねえな」 ​ 一度唇を離し、鼻先を触れ合わせたままラスが低く囁く。  いつもなら涼しい顔でこちらの反応を愉しんでいるはずの男が、今は余裕なく熱い息を吐き、縋るようにシャツを掴んでいる。その露わな欲情が今、紛れもなく己に向けられている事実に、ラスの独占欲がさらに疼いた。  瞳を潤ませ吐息を乱しながら、フランは濡れた唇で笑う。 「それは、……おたがいさま、……でしょ?」 「――ほんとに、口が減らねえな」  どこまでも挑発的な唇を強引なキスで封じ込めると、ラスはその腰を掴んでいた手で薄いシャツの裾を捲り上げた。  背中の薄い皮膚越しに背骨を這い上がりながら、もう片方の手で濡れそぼった下着の縁をなぞり、さらに奥、狭い谷間の入り口へと指先を這わせる。  だが、そこに触れた瞬間、ラスはふたたびぴたりと手を止めた。  

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