18 / 21
第18話
挨拶をしにいくとは言ったが、1日で合計20人挨拶するというわけではないらしい。
宮廷で仕事があるものもいるので、今外後宮の中にいるものにのみ挨拶に行く。
肖然 が今ここにいる寵臣たちの名前が書いてある巻物を見ながら案内してくれた。
挨拶に行く間はさすがに帝はついてこないらしく、仕事に戻ると言って離れていった。
来なくていいと思っていたのでありがたい。
まず先にやってきたのは、同じ上級寵臣の一人のもとだった。
「名前は陳沐陽 さま。この方は、現在外後宮を束ねる立場にいる方です。後宮で言うところの皇后にあたります」
「……沐陽 さまって……」
「はい。志明 さまが錯乱されていたときに帝と共に居た方です」
とても見た目が美しい中性的な文官だ。
執務室にいるのでよく見かけるし、あの一件以来、顔を合わせると挨拶をする関係性ではあった。
だが、物静かでおとなしく、話が弾まないのでいつも挨拶だけ。
しかし、まさか彼が外後宮で一番に寵愛を受ける寵臣だなんて思いもしない。
「……俺、よく生きてここにいますね」
「沐陽 さまもですが、主上もお優しいからですよ」
そう言った肖然 と共に建物の中に入っていく。
案内された応接間に入り、肖然 と共に彼を待った。
沐陽 は、美しい花の刺繍が施された紺の上着を羽織り、いつも来ていた文官としての服とは全く違うもので出てきた。
(上級寵臣としての威厳ってやつだな)
静かで、大人しい。
そして口下手だというのに、俺に真正面から宣戦布告をしてきた。
その上着がどのぐらいの価値があるのか、見て分からないものは居ないはずだ。
俺は席を立ち、拱手をして頭を下げた。
「改めまして、謝志明 と申します」
「陳沐陽 です。よろしく」
沐陽 が席につくと、俺を見上げたまま口元に笑みを浮かべる。
「帝はあなたのところにお通いすることはないでしょう」
立ったままの俺に対して、沐陽 はそう言い切った。
俺は「それもそうでしょうね」と軽く返す。
「俺はそもそもあなたへの寵愛を奪い来たわけじゃありません。俺はただ、ここで平和に過ごせたらいいなと思っているだけですから」
そう言うと、沐陽 は眉間を寄せた。
俺はそんなことを気にすることもなく、「他の方への挨拶があるので」と帰ることを告げた。
沐陽 の住まう宮殿を出ると、肖然 が「はぁ」とため息をつく。
「なんか俺、やらかしましたか?」
「やらかしてますよ」
「なにを?」
「寵愛を奪い来たわけじゃないとおっしゃいましたが、帝は今、あなたへの気持ちが大きくなっています。沐陽 さまからすれば、奪いきたも同然なのですよ」
「そうは言われても……」
じゃあ、どうすればよかったんだ?
俺はそんなことを思いながら、他の側室たちへ挨拶へ向かった。
ともだちにシェアしよう!

