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キツネと小鳥

 わたしが暮らしていた第三都市は、Veilの学校がありました。文字とか数字とか、身を守る方法とか、色々なことを学びます。  それはフィルストーン学園も同じでした。基本的には文字とか数字とか、第一都市のこととかを学びます。ただ一年生のときは、第二都市やGlassに慣れるための授業をするみたいです。  そして本日、なんと二年生と合同で、第二都市観光ツアーというものが開催されました。観光ツアーとは生徒が名付けた愛称ですが。  わたし、どうしたらいいのかなと思っています。  第二都市には川がいくつも流れていて、そこを舟で移動するのが普通らしいのですが、わたし、困っています。  わたしのとなりにけいくん、けいくんのとなりにクラスメイトの女の子、そしてわたしたちの前に、世那先輩と優芽先輩がいます。もちろん世那先輩がけいくんを案内したくて、こうなったんですけどね。  ほらクラスメイトの女の子、名前を忘れてしまったのですが、すごくおびえていますよ。こわいですよね。強いGlassが二人いるというだけで、ちょっとこわいですよ。  あ、舟がとまりました。 「音音ちゃん、揺れるから気をつけてね」  優芽先輩さすがです。さらりと手を差し出してくれました。本当にぐらぐらするので、ありがたく手を取らせていただきました。 「あ、ありがとう、ございます」 「いいえ」  なんていい笑顔。これはモテますね。クラスメイトの女の子にも手を差し出しています。彼女、あわてています。というか名前を聞かなくては。クラスメイトのことも覚えられないなんて、わたしのだめなところです。 「笠木ちゃん、手小さいね〜」 「へ!? いえ、そんな、いえ……」  あ、笠木ちゃんです。さすが優芽先輩。みんなの名前をきちんと覚えています。さすがだ。 「けい、あぶないから」  聞き耳を立ててしまいますよね。けれど、世那先輩そう言いながらも、手を差し出すのをためらいました。どうしてなのでしょうか。  もしかして、けいくんがGlassの、というよりも人に触れることが苦手だということ、世那先輩は気づいているのでしょうか。  わたしもけいくんに触らないようにしています。シスターもそうでした。けいくんも気をつけています。  しかし、わたしすこし驚きました。優芽先輩も「あらま」と呟いています。  けいくん、世那先輩の袖のところを、ちょこっとつまんで舟をおりてきました。世那先輩、固まっていますよ。  みんなの時間がぴたりと止まりそうになりましたが、優芽先輩が明るく「じゃあ行こうか〜!」と言ったので、みんな歩き出しました。優芽先輩、さすがです。    わたし、まだすこしドキドキしています。けいくんも変わろうとしているのかな、なんて思いますけど、どうなんでしょうか。世那先輩にすこしだけ、ほんのすこしだけ、心を許してみようと思ったのでしょうか。  いけない。ついガッツポーズをしてしまいました。笠木ちゃんと目が合います。あれ笠木ちゃんもガッツポーズをしていますね。いや、照れますね。  世那先輩と優芽先輩は、わたしたちを展望台に連れてきてくれました。星がきれいと説明書きがありました。昼間なので星は見えませんが、第二都市を一望できます。 「……すげぇな」  けいくんが呟きます。世那先輩、うれしそうにしています。なんかふわふわしていますね。かわいらしいです。 「けい、高いところすき?」 「……しらねぇ」 「ここは?」 「……わるくない」 「そっか」  けいくん、冷たいけれど普通に返事をしていますよ。会話をしていますよ。いいですね。あれ笠木ちゃん、ガッツポーズはやめなさいよ。わたしだって我慢しているのに。 「ふふっ。ちゃんと景色みてくださいね〜」  優芽先輩がやさしくわたしたちを注意しました。恥ずかしいですね。    第二都市ってきれいなところですね。ちゃんと見たら、ほんとうに美しいです。全ての川が都市の外側に流れていきます。そして滝になって海に流れていくのです。  ちなみに第二都市は海の上にありますよ。浮かんでいます。人工の都市なので。第三都市もそうでした。でも、第三都市よりも川が多くて、すごくきれい。 「きれいですね」  わたしがつぶやいたら、優芽先輩が「きれいだよね」と言いました。川のそばにお店が並んでいて、お店の屋根は色々な形や色をしていて、それがひとつのカラフルな飾りになって川を彩ります。お花畑みたいです。 「お花畑みたい」  笠木ちゃんが言いました。 「わ、わたしもおもった! おもいました、それ」 「本当!? ほら、あそことか」 「おお! お花畑だ!」    笠木ちゃん、お友達になりたいかもしれません。わたしたちがこそこそと盛り上がっているのを、優芽先輩がすごくあたたかい目で見ていました。恥ずかしい。  でも、本当にお友達になりたいです。  わたし、女子会にさそわれたのです。うれしかった。舞い上がってしまうほどでしだが、みんな同じ話をするのです。  世那先輩とけいくんって、真実はいったい、どうなの。  ほうっておいてほしくなりました。なので、そう言ってしまったのです。だから、わたしはきっとお友達ができません。けいくん、わたしにお友達がいたらうれしいって言っていました。だからお友達がほしかったのですが、彼女たちにはきらわれてしまいましたね。 「音音ちゃんと笠木ちゃん、もうすっかり仲良しだね〜」  優芽先輩が言います。優芽先輩って、なんかおちつきます。すてきです。わたし、こういうひとになりたい。 「あの、私のこと、ツキって呼んでください」  笠木ちゃん、優芽先輩に言ったのかと思ったら、わたしに言っていました。笠木ツキちゃん。かわいいお名前ですね。 「おとねちゃん、って、呼んでもいいかな」  ツキちゃん! わたし、心の中で大きな声で呼んでしまいました。そして一息ついて、頷きます。 「ツ、ツキちゃん」 「はい! おとねちゃん」  えへへ、と笑い合いました。優芽先輩、すごくやさしい顔をしています。なんだか子どものやりとりみたいですね。恥ずかしい。けれどうれしいです。  けいくん、お友達ができたよ。そう思って、けいくんの方をちらりとみたら、けいくんもわたしをみていました。そして、ふっとやさしく笑います。かっこいいですね。あら、ツキちゃん。ちいさな悲鳴が漏れていますよ。そうなんですよ。けいくんはVeilから見ても魅力的。  いいえ、VeilとかGlassとか関係なく、すてきなひとなんです、けいくんは。  そろそろお昼の時間になりました。  わたし心配です。けいくんは人のいるところで食事をしません。食堂もつかいませんし、人のいないところを探したり、自室に戻ったり、とにかく工夫しているのです。 「屋台通りいこう」  世那先輩が言いました。優芽先輩が「いいね〜!」と言います。わたしたち、川をゆったりとくだっていって、良い香りのする屋台が並ぶところでおりました。  今度は世那先輩、きちんと手を差し出しましたよ。けいくんはやっぱりちょこっと袖をつまんでおりてきました。  ツキちゃん、顔がすごいことになっていますよ。とてもわかりますけどね。 「けい、食べたいものある?」 「……ない」 「俺が選んでもいい?」 「……かってにしろ」  ああ、どうしましょう。けいくんが食べられなくても世那先輩は怒らないと思います。でも心配はすると思うし、そうしたらけいくんは気にしてしまうんじゃないかな。今日が嫌な思い出になってしまわないかな。せっかくなら、良い思い出になってほしいのですが。 「じゃあ、俺は音音ちゃんとツキちゃんの選ぼうかなぁ〜」  優芽先輩がたのしそうです。ツキちゃんワタワタしています。優芽先輩がわたしたちの腕を引いて、屋台を見繕いはじめました。けいくんと世那先輩が遠ざかっていく。 「大丈夫。ここは世那にまかせてよ」  優芽先輩が耳打ちします。顔が近いなあ。とてもきれいな顔がすぐそばにありました。びっくりしますね。  優芽先輩が言うと、本当に大丈夫な気がしました。 「あ! これ音音ちゃんみたいだ!」 「ええ!」  優芽先輩が小鳥の飴を買ってくれました。とてもかわいらしい小鳥です。ツキちゃんにはリスの飴を買っていました。たしかに、ツキちゃんみたいです。 「あ」  わたし、キツネの飴を見つけてしまいました。ずっと笑っている感じとか、でも隙がない感じとか、なんだか似ていますね。 「優芽先輩はこれです」 「ははっ! 俺ってずいぶんかわいいな!」  キツネの飴を買って渡したら喜んでくれました。三人で飴をかじりながら、何を食べようかと練り歩きます。  わたしとしたことが、楽しくてけいくんのこと、すっかり忘れてしまいました。  

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