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なんかいいね
わたしたち孤児が学園に入学すると、なんとお金をもらうことができます。そのお金をつかって生活を送るのですが、本日は月に一度のお小遣いの日です。
「おとね、最初は文具屋?」
「うん!」
わたしとけいくんは、お金をいただいたら必要なものを買いに行きます。舟を乗り継いで、まずは学生御用達の商店街、ペパー通りに行きます。学園生活に必要なもの、筆記用具とか教科書とか衣類とか、ここに来ればなんでもそろいます。
お店はたくさんありますが、わたしたちはおじいさんの営む小さな文具屋がお気に入りです。安いですし、ころころとしたかわいらしい文房具が売っています。
「あ、小鳥」
つい小鳥の飾りがついたペンを手に取ってしまいました。
「鳥とか好きだっけ?」
けいくんが聞いてきます。わたし、ついあわててしまいました。首をぶんぶん横に振ります。けいくんが、でも似てるかもとか言います。
「そうかなぁ」
なんだか気に入ってしまって、そろそろインクも減っていましたし、小鳥のペンを買ってしまいました。これ、優芽先輩に見つかったら恥ずかしいですね。
次は制服を買いに行きます。入学したときに冬服は買ったのですが、今度は夏服を買います。けいくん、めんどうだと言いながら、きちんと買いに来たのでえらい。といっても、採寸などは済んでいるのでお金を払って受け取るだけですが。
「あれ、けいだ」
「……なんでいんだよ」
わたし、おもわず買ったばかりのペンをカバンにつっこみました。なんと制服屋に世那先輩がいて、ということは優芽先輩もいるということですよね。と思ったら、本当にいました。奥の方で靴を見比べています。
世那先輩がふわふわと花とかが飛んでいそうな笑顔で近づいてきます。
「優芽の靴を見にきたんだ」
「……あっそ」
どうやら、優芽先輩が運動系のサークルに所属されるらしくて、それには指定の靴が必要だということで、せっかくならと商店街に来たらしいです。世那先輩が説明してくださったのですがけいくんは全部無視でした。
「世那〜ってあれ、音音ちゃんと慧くん!」
「あ、こんにちは」
優芽先輩、世那先輩もですけど、あたりまえに私服で、私服でもまぶしいですね。あ、わたしたちも私服です。私服のけいくんはかっこいいですよ。なんといっても、わたしが悩みまくって選んだものですからね。
世那先輩、さっそくけいくんのお洋服を褒めています。
「おとねと買いに行ったんだからあたりまえだろ」
けいくん! それ言わなくて大丈夫なやつです! でもうれしいです。そんなふうに言ってくれるから、わたし、今度も悩みまくりますよ。
「俺も買いたい。けいの服」
「……は?」
世那先輩が言います。たしかに。それはいいかもしれません。だって世那先輩の着ているもの、ものすごくオシャレです。お値段とか気にしない方がいいのでしょうか。野暮ですか。でもかっこよくて、こんなひとがけいくんのコーディネートをしたら、……見てみたい!
優芽先輩がじっとこちらを見ていたので、ぜひ、という念を込めて頷きました。すると優芽先輩、たのしそうにわらって、
「おとねちゃんに靴選んでもらいたいなぁ」
と言いました。なんかちがう!
「けい、服見に行こうよ」
世那先輩が言いました。なるほど。世那先輩と優芽先輩は以心伝心、さすがですね。
「わ、わたし、いいとおもう! けいくん行ってきて!」
カタコトになってしまいました。作戦の内容、わたしだって理解していますよ。ですが、スマートに遂行できなくてごめんなさい優芽先輩。
けいくん、ため息をついてから「舟のとこ、おわったらこい」とわたしに言って、世那先輩と制服屋を出ていきました。やはり、すこしだけ心を許しているのではないかな。世那先輩うれしそうだし、なんだかんだけいくんもうれしそう、ではないですけど、めんどうそうですけど、でもしかたないなって顔をしています。うんうん。いい感じ。
「ははっ!」
わたしが頷いていたら、優芽先輩がすごくわらっています。たのしそうで、よかった。でもなぜ。
「音音ちゃん、そろそろ俺の相手してよ」
変な顔しそうになりました。ちょっと上目遣いなのが、これモテテクニックですね。わたし、これちょっと見習いたいですね。いえ、そういう意味ではなく、愛想よくなりたい、という意味で。
「す、すみません。えっと、靴選びます」
「ふふ。っていっても、これとこれで悩んでるだけなんだよね」
優芽先輩が二足の靴を持ち上げます。黒か赤か、といった感じです。どちらも似合いそうですけどね。
「……黒、ですかね」
「へぇ。黒の方が似合う?」
「それもありますけど、わたしの好きな色なので」
あ、あまりよくなかったですかね。優芽先輩、すこし驚いた顔してから、すごくたのしそうに笑いだしました。
「ははは! おもしろいなぁ。じゃあ黒にしよっ」
優芽先輩、さっさと会計を済ませています。どこがおもしろかったのか分からないのですが、やっぱりたのしそうですし、よしとします。
「んー、音音ちゃん、もうちょっと付き合ってよ」
「へ?」
二人分の夏服を受け取ってお店を出たら優芽先輩はそう言って、洋服屋の方をちらりとみました。うわあ。目立ちますね。けいくんと世那先輩って遠くから見ても、なんというのかな、神々しいですね。絵になります。なんといっても、世那先輩がなにかと背を屈めてけいくんと目を合わせていて、なんというのかな、神々しいですね。
けいくん、ちょこちょこ話しているみたいです。きっと言葉は冷たいんだと思いますけど、世那先輩、よかったですね。
「わたし、教科書買い忘れてしまって」
「じゃあ本屋行こっか」
「はい」
本屋って商店街の奥の方なんです。これはちょっと時間がかかってしまうな。優芽先輩ニヤリとしています。悪い顔ですね。そんな顔もできるんですね。
「あ、音音ちゃん。これ見てよ」
「なんですか?」
優芽先輩、ポケットからキーホルダーですかね、何かを取り出してゆらりとさせました。
「キツネ。つい買っちゃった」
そう言って、優芽先輩は照れくさそうにしました。
優芽先輩の揺らしているものは、オレンジ色のキツネのキーホルダーです。わたし、なんだかうれしくなって、これってうれしいんだなと知りました。
「あの、わたしも……」
カバンのなかから小鳥のペンを取り出します。優芽先輩が「あはは!」と大きな声でわらいました。いいな。わたし、大きな声でわらうってできなくて、いえ心の中ではできていますよ。
「なんかいいね、たのしいね〜」
優芽先輩がにこっとわらいました。わたしも「はい」と言って、うまくわらえた気がしました。
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