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まるで休日
制服屋からほど近い『ベルモット』とかいう名前の服屋。学生みたいなやつがたくさんいて、どうやら人気な店らしい。
「来てみたかったんだよね」
世那がそう言う。きっとこいつは、こんな商店街なんかで服を買わないだろうな。第一都市の貴族は、自分の屋敷に仕立て屋を呼んで、オーダーメイドで作らせるのだから。
「けい、これ似合いそう」
「……」
「あ、こっちも」
「……」
「これもいいかも」
「……そんなにいらねぇ」
そう言ったら、世那は手に取った服からふたつだけ残して、「着てみて」と言った。これから夏が来るというのに、世那が選んだ服はさらりとした生地の、しっかりと腕の隠れる、長い袖の服だった。
「……おまえさ」
「なに?」
「…………なんでもねぇよ」
世那から服を受け取って試着室へ行く。
紺に近いグレーのような落ち着いた色合いの長袖と、似たような色味をしたゆとりのあるボトムス。なかなか着心地がいいし楽だ。
「いいかんじ」
試着室からでたら世那はそう言って、黒いベルトを腰のまわりに器用に通してきた。ひとつひとつ丁寧に通すから無駄に長くて、ちらちらこちらを見てくるやつらにイライラした。
「かんぺき。どう?」
「……いいんじゃねぇの」
「よかった」
本当に着心地の良い服だった。長袖の服は肌に張り付くから微妙かと思ったけど、生地がいいのか涼しくて気にならないし、かなりゆったりしたシルエットのパンツだから疲れない。
おとねの選んだ服も良かったけど、こいつの選んだ服は、なんだか過ごしやすいと思った。
店員が勧めてくるから服は着たままにして、着てきた服が綺麗に畳まれた。おとねは俺が何を着ても喜ぶから、まあいいかと思う。
「……おい、金払わせろ」
「なんで? プレゼントしたいのに」
「…………すきにしろ」
こいつに借りを作った感じで気に食わないが、こいつが意外と頑固だと言うことを嫌というほど知っている。基本的に融通の効くやつだけど、たまに絶対にこうするみたいなときがある。気がする。
船着場でおとねをまつけれど、一向に現れる気配がない。
「お店、見に行こうよ」
「なんでおまえと……、まあいいか」
「いいんだ。やった」
ここにいてもひまだし、ペパー通りをなぜか世那とまわることになった。やはり、こいつはどこにいても目立つ。色々なところから視線を感じて鬱陶しかった。
「みたいとこある?」
「……ねぇよ」
「俺のほしいもの、見に行っていい?」
「……かってにしろ」
けれど、世那は周囲の視線なんて気にならないのか、慣れているのか。俺のことばかり見てくるし機嫌がいい。いい迷惑だ。
世那が選んだ店は菓子屋だった。甘い匂いがいたるところに漂っている。おとねが好きそうな店だ。
「どっちがいいとおもう」
世那は焼菓子をふたつ見せてきた。クッキーみたいなやつと変な形のカップにはいったケーキだ。どっち、とか言われても分からない。
「……誰かにあげんの?」
「うん。優芽」
「……おまえのほうが詳しいんじゃねぇの、好みとか」
「うーん。どうかな」
世那はもうひとつ違う味のクッキーを手に取って、違う形のカップケーキも手に取った。
「優芽、きらいなものがなくて」
「……へんなやつ」
「そうなんだよね。変わった人なんだ」
「……」
お前も変わった奴だけどな。と思って息をつく。Glassはおかしな奴しかいないけど、こいつとか、あの優芽ってやつとか、違う意味で変だ。
そのせいか。たまに、こいつがGlassだってことを忘れてしまう。
「……両方」
「ん?」
「両方、渡せばいいんじゃねぇの」
世那は少し笑って「そうする」と言って、お菓子の包みを何個も手に取った。両方とは言ったけど、全種類買いそうな勢いだ。
「たべきれないかな」
こいつもバカではなかったみたいだ。両手に持ちきれなくなったらやめた。
俺も、おとねに何か買っていこうと思ったのだが、おとねの好みって知らない。おとねも嫌いな食べ物とかないし、だからといって好きな食べ物もない。何を食べても世界一美味しいとか言うだけだ。
「……おい」
「なに?」
「…………おとねに、選ぶならどれ」
「おとねちゃんに買うんだ。いいね」
世那はなんでか嬉しそうに笑って、「うーん」と真剣に悩みはじめた。
「おとねちゃん、すきなものとか分からないけど」
そう言って世那が選んだのは、花の形をしたカラフルなクッキーだった。
「これかな。なんとなく」
「……たしかに」
おとねはこういうの好きだと思う。世那は意外と人のことを見ているのだなと思いながら、会計をして外に出る。
「はい。これ、けいにあげる」
世那が袋に詰められた菓子の山から、ひとつを渡してきた。変な形のカップケーキみたいなものに、青い花がきらきらとのっているやつだ。
渡されたから受け取ったけど、なんとなくもったいないと思った。どうせ味がしないから。
俺は、カップケーキを世那につきかえした。
「……あした」
「あした?」
「…………食わせろよ、これ」
「え。そ、うん。わかった」
世那は変な顔をしてから嬉しそうに笑った。俺だって不本意ではあるが、こいつから食べないと味がしないのだから。こいつが食わせてくれたら、味がするのだから、しかたがないのだ。
こんなに綺麗な菓子を選んだ、世那が悪い。
しばらくしたらおとねは戻ってきた。なぜだか本とか花とか色々なものを抱えていて、一緒にいる優芽も大荷物だった。
「けいくん! かっこいい! にあってる!」
やっぱりそう言って、俺のまわりをくるくるとまわる。危ないからとりあえず荷物を受け取る。それを世那が取り上げた。
「……」
「俺の方がちからもち、多分」
「……うるせぇな」
おとねがカタカタと笑っている。おとねは表情に出ないだけでよく笑う。とくに面白いとカタカタする。そのとなりで優芽がでかい声で笑っていてうるさかったが、いつもの休日より充実している、ような気がした。
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