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pure 05. 前夜
俺たちはシスターの教会に泊まることになった。どの教会に宿泊してもいいらしいから、それならと、おとねがツキも呼んでにぎやかになった。
「お、おじゃまします!」
ツキはなぜか緊張していた。さっそく小さい子たちがツキとおとねで遊びだしたのを横目に、俺はシスターと夕食の支度をする。
「けいくんとまた台所に立てるなんてねぇ」
シスターはずっとこの調子だ。けれど俺も、二度とこんな日は来ないと思っていたから嬉しかった。
「けいくん! たいへんです!」
突然、おとねは教会の扉を勢いよく開けてやってきた。額には汗が滲んで焦った様子だ、俺とシスターが駆け寄ったら、おとねは薬草畑の方を指して、
「畑泥棒です!!」
と叫んだ。
俺たちが孤児院に居たころも何度かあった畑泥棒。俺はシスターと頷きあって、畑に向かった。
「いてっ、やめろよ! 石投げんなって!」
けれどそこに居たのは、孤児院の子たちに石を投げられている、十三歳か十四歳くらいの少年だった。孤児院のみんなと比べものにならないくらい良い服を着て、きらきらとした金色の髪をしていた。なんだか既視感がある。
とりあえず石を投げるのをやめさせて、少年に近づく。すると、少年は鼻を動物みたいに動かして、きらきらとした金色の瞳で俺を見てきた。
「おまえだな! 世那にぃの番!」
「…………は? 番じゃねぇけど」
咄嗟に言い返してしまったけれど、世那にぃということは、
「……世那の弟?」
俺が尋ねたら、少年は嬉しそうに何度も頷いて、飛び跳ねそうな勢いだった。
「世那にぃから手紙がきたんだ!」
「……手紙?」
「そう! おまえのこと守れって言われた!」
「守る? ……なにから?」
「さあ?」
幸 と名乗った少年は、俺に残る世那の匂いを頼りに、俺を探し出したらしい。俺は自分の服を嗅いでみる。やはり匂いはしないけれど、普通のVeilなら分かるものなのだろうか。
「わたし、わかんないよ」
そう思っていたらおとねがささやく。どうやら幸だけがものすごい嗅覚をもっているみたいだ。へんなやつ。
「とにかく、けい! おまえを守ってやる!」
「……かってにしろ」
「腹減った!」
よく分からないが、なぜか一人分の夕食が増えた。シスターが「にぎやかねぇ」とうれしそうだから、まあいいかと思う。
◇
その日の夜、俺たちは第二都市に帰れなくなった。詳しいことは分からないが、とにかく帰れないと伝えられた。
どうやら、第二都市でなにかがあったようだ。
世那は無事だろうか。そんなことを考えていたら、
「世那にぃは第一都市にいるはず!」
と幸がおしえてくれた。手紙にそう書かれていたらしい。
とりあえず安心して、孤児院の子たちを寝かしつけて、おとねも幸も眠ったのを見て、俺は外で夜風にあたった。どうにも胸騒ぎがする。
「けいくん、眠れない?」
シスターは静かに扉をしめてやってきた。そして薄いショールを肩にかけ直して、そっと夜空を見上げる。
しかしシスターの瞳は星空など映していなくて、どこか諦めたような微笑みを貼り付けているだけだった。
第二都市に帰れないと報告があったときから、シスターはこの、感情を削いだような表情を、何度も浮かべていた。シスターは、きっと、
「……何か知ってるだろ」
そう聞いたら、シスターは静かに目をつむって、わずかに微笑んだ。
「ずっと、ここで生きていますからね。知ってしまったこと、言えないことのひとつやふたつ、ありますよ」
シスターはいつもの綺麗な声で言う。そして悲しみを隠そうともしないで、祈るように空を見上げた。
「けいくん。Glassのこと、まだ嫌いですか?」
俺は少し悩む。世那と出会って、たくさんのことを知った。やさしくなれることも、愛されることも。
きっとGlassとかVeilとか、そんなものは関係なかった。
「……嫌いな奴は嫌い。でも、多分、Glassだからじゃない」
もっと単純なことだった。
俺が生きているみたいに、彼らも生きていて。分かり合えることも、傷つけられることもある。それはGlassだからVeilだからではなくて、人と人だから。
色々な人がいる。嫌な奴もいて、大切な人もいる。
Glassだから嫌いだとか、そういうのはやめた。
シスターは「あなたらしい」と微笑んでから、
「それなら、よかった」
と、心の底から安心したように、まるで言い聞かせるように、言った。そして、大切なことをおしえてくれるときみたいに、シスターは目を伏せた。
「けれど、ここにはね、Glassを恨んで生きて、そして死んでいく人がいる。その恨みは、命が尽きても消えずに残って、いつのまにか正しくなってしまう。希望みたいに」
俺はシスターの声に耳を傾ける。ずっと昔もこうして、シスターが語るのを聞いていた気がする。
眠れない夜は、いつだって。
「けいくんは、どうか人を恨まないで」
シスターと目が合う。シスターは祈るように、訴えるように、しかし冷めきった熱をこめて、そう言った。
俺は頷くこともしないで、シスターは何を知って、何を諦めてしまったのか、そんなことを瞳の奥に探した。
シスターがふいに微笑む。そして、
「私は、けいくんの味方よ」
と、涙をこらえるように言った。
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