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pure 07. 触れる
飛行艇の硬い床の上、けいは火照って脱力した全身を俺に預けて、服が肌にこすれるわずかな刺激に震えながら、貪るように俺の唇を舐め歯列をなぞり舌を絡めてくる。
「けい、ちょっと、まっ……」
俺の声は届いていない。いまはもう、VeilとしてGlassを求める本能だけが、けいの熱を支配していた。
あれはVeilを発情させるもの。Glassの意識を奪うほどの量を、けいは浴びたのだ。
はやく処置しなくてはならないのに、けいは解毒薬を飲んでくれない。小瓶を傾けても吐き出してしまう。
「……わかった、キスしてあげるから」
けいの髪をさらりと撫でたら、けいはわずかに目を伏せた。その隙に、けいから顔を離して、俺は解毒薬を口に含んだ。
そしてけいの頭を引き寄せる。その熱い息が絶え間なく漏れる唇を裂いて、そっと解毒薬を流し込んだ。
けいの喉仏がゆっくりと上下していく。解毒薬は開発したばかりのものだけど、これでとりあえずは大丈夫。
ほっと息を吐きながら、けいのくちもとをぬぐった。
けいは、それだけで甘い声を漏らした。
俺はけいを抱きしめた。
「……なんで、けいばっかり」
第二都市を襲撃したVeilたちは、第二都市のGlassを人質に、第一都市へVeilの自由を訴えた。
けれどそれだけでは脅威にもならず、Veilたちはすぐに拘束された。そして捕虜のひとりが、投げやりに語った。
彼らは薬をつくった。Veilを守る薬だ。教皇はとあるGlassに薬を渡した。Glassを貶める薬に変えるために。
教皇はそれを『必要な犠牲』だと言った。
彼らは教皇が死ぬのをまっていた。
そのGlassは物を与えてくれた。飛行艇が武器が手に入った。けれど大切に育てたVeilが、ひとり、またひとりといなくなった。
これも『必要な犠牲』だと教皇は言った。
彼らは思った。教皇が死んだら自由を叫べる。あのGlassに制裁を加えることができる。
『いまごろ餌に釣られて殺されているはずだ』
捕虜は、達成感に満ちた顔で言った。
餌と必要な犠牲は何が違うのだろう。大義を掲げたせいでかすんだ正義など、きっともう正しくない。
なにもかもが間違っている。
けいの熱い吐息が胸元に広がる。なかなか熱が冷めないようだった。
「……せいな」
しかし意識は戻ってきている。よかった、と安心したのも束の間、けいは俺を潤んだ瞳で見上げた。
「……くるし、さわって、おねがい」
疼く身体をどうにもできなくて、けいは震えていた。
けいが俺の手をとる。そしてどうにかひきよせて、頬に当てた。けいが内腿を擦り合わせて呻くたび、涙が伝った。伏せられた瞼から涙が落ちて俺の指先が湿る。
俺は、その歪むまぶたに口付けた。
「おいで」
けいは俺の手を離して、こてんと体を預けた。目元に首筋に鎖骨に、俺が唇を落とすたび、けいの吐息が熱くなる。
けいの内腿にそっと触れる。声も香りも一段と甘くなる。丈の長い室内着はすっかりはだけていて、白い肌と、切ない熱を孕む膨らみから、俺は目を逸らした。
「……せいな」
「吐き出したら楽になると思うから」
「せいな」
「すこしだけ、さわるね」
けいが、もういちど「せいな」と呼ぶ。俺は、ようやく声の方を向く。けいと目が合った。
潤んでぼんやりとしているけれど、強くて気高い、いつもの輝きが、そこには残っていた。
けいは、ついばむように唇を重ねた。熱に浮かされたものではなくて、いつもの、やさしい温度で。
「……こっちみて」
けいが言う。頭がくらりとした。俺は「うん」と頷いて、もういちど口付けた。今度は深く長く。溶けてしまうくらいの熱のなか、そっと太腿から足の付け根を撫でる。
けいの睫毛が震えてきらめいた。
その輪郭を俺の手で包み込む。けいの吐息に嬌声が混ざって、俺の視界が揺れた気がした。尖端を擦る水音と荒くも甘い息継ぎ、そして俺を求めるような香りが、目から耳から、脳内を蝕んで、苦しかった。
やがて、けいは激しく体を仰け反らして、ぐったりと俺にもたれた。けいの荒かった呼吸が収まっていく。
けいは俺の服をぎゅっとにぎった。そして、
「……きらいに、なったか?」
と不安そうに言った。
「へ?」
「……こんなことさせて」
「いや、こんなことって、」
「……おれのこと、まだ、……すき?」
けいが、また服をぎゅっとにぎった。そのいじらしさに、苦しかったものが薄れていく。
「すきだよ。だいすき」
けいの瞳を覗き込んで、まっすぐに見つめたら、けいは「そっか」と微笑んで、静かに眠った。
しばらくそのまま、けいを抱きしめていた。体の中の重たい空気を逃がすように長く息を吐く。
けれど、いつまでもこうしていられないから、脱いだジャケットでけいを包み、そっと抱き上げた。
飛行艇の客室の扉を開ける。そして、まっていてくれた理久さんと海景さんに、けいの無事を伝えた。
「平気?」
ふいに海景さんが聞いてくる。
「はい。薬も効いてきて、だいぶ落ち着きました」
「ちがうよ。世那が」
「え? ……平気、です」
声が震えた。海景さんがふらりと近づいてきて、俺の頭にぽんと手を置いた。
「苦しいよな。うまく守れないのは」
海景さんが言う。理久さんが視線を背けていた。
俺は、ただ「はい」と答えた。
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