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pure 09. 痛み

 第一都市が法律を定めなおしたのは、それからすぐのことだった。  ひとつはVeilの売買や所有を禁じるもの。Veilを人として扱うという当然のことだ。  もうひとつは身体の自由を奪う薬の禁止。あの薬は全て処分されたらしい。  それから、GlassとVeilの格差を見直すというもの。これに関しては、きっと長い課題になるのだと思う。  この法律にともなって、犯罪者たちの処分も決められた。薬の製造や流通、娼館の運営に携わった者は重罪として地上へ、襲撃者たちは第一都市の監獄で無期限の拘束、それ以外の者には処分をくださないことになった。  ただ、第三都市の在り方は何も変わらず、いまもVeilの都市として存在している。  俺たち、三家の者たちは、会議や調査に追われる日々を過ごしていた。そしていつのまにか肌寒くなった。  俺は、父や兄の仕事を手伝って昼がすぎるころ、病院を訪ねることが日課になっていた。   「さっきまで起きてたんだけどねぇ」  涼しい風でカーテンが揺れる病室を覗いて、紗良にぃは言った。俺は、あどけない顔をして眠るけいの髪に、そっと触れた。  けいは、おそらく薬の副作用で眠る時間が長くなった。突然眠りに落ちてしまうことも、熱を出すこともあるから、もうずっとここで過ごしている。 「いつかの逆になったわね」  紗良にぃが言う。俺が眠っていたあいだ、けいもこんな気持ちだったのだろうか。もどかしくて寂しい。  薬の効果が完全に抜けるまで、あと数週間か数ヶ月かかると、紗良にぃが教えてくれた。  けいと会話ができる時間は貴重で、それは喉元に詰まる悲しみになった。 「世那、散歩しよ」  からりと晴れた日、目を覚ましたけいは言った。窓から病院の庭が見えて、いつか行ってみたかったらしい。  病院の庭は三ツ木家の庭ほど広くないけれど、遊歩道が煉瓦で整えられて、花々が咲き誇る、綺麗な庭だった。 「俺の孤児院ってさ、けっこう田舎だったんだ」  となりを歩くけいが言う。たまに歩きずらそうにするから手を握ったら、嬉しそうに笑った。 「でもにぎやかっていうか、うるさかった」  けいは、ふと何かを考えているときがあった。そんなとき、悲しそうな匂いになるときもあれば、楽しそうなときもあった。  いまは、悲しそうで楽しそうな、複雑な感情だ。 「畑泥棒がでたら、みんな飛んで来るし、どっかからお菓子が届くし、食料も服も、だれかがもってくるんだ。みんな、恩人だって言うんだ。シスターのこと」  けいは微笑みながら言う。その顔が清々しく見えたのは、きっと風がさらさらと髪をもちあげているから。 「俺も、恩返し、できたかな」  眩しかった。  きっとけいが逃げても彼らは止まらなくて、けいもそれを分かっていて。彼らの復讐には正義なんてなくて。  けいの体がふわりと揺らぐ。俺はそっと支えて抱き寄せて、さらりと髪を撫でたら抱き上げた。  けいは、強くて、脆い。  ただ愛おしいから守りたいだけなのに、けいは眩しくて、触れたら、痛かった。      

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