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clear 04. 疲労に甘味
次々に押し寄せる注文をさばくこと、何時間だろう。「超本格ミステリー迷路カフェ」は有難いことに大盛況だ。謎解きも迷路も難しいのに、みんなカフェに辿り着くため、かなり頑張っているらしい。
「世那〜、どこいっちゃったんだよ〜」
お客さんのほとんどは世那と俺を目当てにしているのに、世那はどこかへ行ってしまったきり帰ってこない。まさかお昼寝でもしているんじゃないか、と心配していたら、また謎解きと迷路をクリアしたお客さんがやってきた。
「優芽先輩、いそがしそうですね……」
「音音ちゃん!」
なんと音音ちゃんが友達と来てくれたみたいだ。慧くんはいないみたいだけど。
「羽生えてる〜! 天使かとおもった〜」
「て!? と、とりです! 鳥!」
「鳥かあ」
音音ちゃんは背中に羽を生やしていてなんとも可愛い。服も羽毛みたいなふんわりとしたやつだ。いつにもましてふわふわしている。
音音ちゃんたちを席に案内したら、また注文に呼ばれた。
「ごゆっくりね〜」
「が、がんばってください!」
音音ちゃんが拳を握って応援してくれる。つい笑いながら、俺と話したいだけの注文を聞いて、配膳をして、と忙しくしていたら、出口のほうが騒がしくなった。
世那が、クマと一緒にいる。なかなかファンシー。
「けい、休憩になったら迎えに行くね」
と聞こえたから、あのクマ、慧くんか。とてもにこやかな顔をしたクマだけど、慧くんだと思ったら、なんだか面白くなってきた。
「じゃあ、またあとでね」
「……ん。はやくいけ」
世那がクマの頭をよしよしと撫でてふんわりと笑うからら、みんな釘付けだった。世那はそんなことを気にもしないで、去っていくクマの背中を見つめている。クマはぽてぽてと無愛想に歩いていく。面白い。
「優芽、ごめん任せちゃって」
「ぜ〜んぜん」
世那の表情が見違えるように明るい。どうやら、どうにかなったみたいだ。
「世那、よかったなぁ」
そう言って背中をぽんと叩いたら、世那は「うん」と嬉しそうに言う。こんなに無邪気な顔は見たことがなかった。やはり慧くんのおかげで、世那は人間らしくなったなと思う。
「けいくん、うれしそうだったなあ」
ふいに音音ちゃんがつぶやいていた。クマだったのに、そんなことが分かるなんて、さすがは音音ちゃんだ。
あの事件のときから、音音ちゃんは元気がなかったから、いつもの音音ちゃんで安心した。
それにしても慧くんが、あのクマかあ。と思い出して吹き出す。やっぱり面白い。
◇
俺と世那が自由時間をもらえたのは、昼が少し過ぎたころだった。
「働きすぎだよなあ〜」
「うん、本当に」
ちょっとしか休憩がもらえないから、ほとんど逃げ出すように出てきてしまった、まあ、怒られる道理もないし、どうせ最後の学園祭だ。楽しまないと損。
さっそくやってきたのは「動物喫茶」だ。音音ちゃんと慧くんのクラスだから楽しみだった。
「お〜! なかなか凝ってるなあ」
俺たちのクラスほどではないけれど、大きな植物が飾られた、森の中みたいなコンセプトで凄かった。みんな耳とかしっぽとかが生えていて可愛い。
「これさあ。慧くんクマで正解だったかもね〜」
世那が頷く。もし慧くんがネコ耳とかイヌ耳とかしっぽとか生やしたら、ちょっと危なかったかもしれない。とても似合いそうだけど。
「あ! 優芽先輩! 世那先輩!」
音音ちゃんが駆け寄ってくる。背中の羽がパタパタしていて可愛い。
「あの、けいくん、ここにはいなくて!」
音音ちゃんが頑張って説明している。慧くんは客寄せとして学園内を歩き回っているらしい。世那が「探すね」と行ってしまった。
音音ちゃんが席に案内してくれて、俺は「木の実ジュース」みたいな名前のドリンクを頼む。味はぶどうジュースだ。
朝から働いていたから意外と疲れていたみたいで、甘さが体に染みた。
「あの、優芽先輩」
「ん?」
「その、お疲れ様です!」
そう言って、音音ちゃんはテーブルにドーナツを置いた。たしか「森のドーナツ」みたいな名前のやつだ。
音音ちゃんは「サービスです!」と言って頭を下げて去っていく。
やさしい子だなと思いながら、つい匂いを確かめて、何も混ざっていなかったから食べる。匂いを確認する癖は、なかなか嫌なものだなと思う。
「おいし〜」
ふんわりと甘いドーナツを頬張る。やっぱり疲れているときの甘いものは格別だった。
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