38 / 55

clear 04. 疲労に甘味

 次々に押し寄せる注文をさばくこと、何時間だろう。「超本格ミステリー迷路カフェ」は有難いことに大盛況だ。謎解きも迷路も難しいのに、みんなカフェに辿り着くため、かなり頑張っているらしい。   「世那〜、どこいっちゃったんだよ〜」  お客さんのほとんどは世那と俺を目当てにしているのに、世那はどこかへ行ってしまったきり帰ってこない。まさかお昼寝でもしているんじゃないか、と心配していたら、また謎解きと迷路をクリアしたお客さんがやってきた。 「優芽先輩、いそがしそうですね……」 「音音ちゃん!」  なんと音音ちゃんが友達と来てくれたみたいだ。慧くんはいないみたいだけど。 「羽生えてる〜! 天使かとおもった〜」 「て!? と、とりです! 鳥!」 「鳥かあ」  音音ちゃんは背中に羽を生やしていてなんとも可愛い。服も羽毛みたいなふんわりとしたやつだ。いつにもましてふわふわしている。  音音ちゃんたちを席に案内したら、また注文に呼ばれた。 「ごゆっくりね〜」 「が、がんばってください!」  音音ちゃんが拳を握って応援してくれる。つい笑いながら、俺と話したいだけの注文を聞いて、配膳をして、と忙しくしていたら、出口のほうが騒がしくなった。    世那が、クマと一緒にいる。なかなかファンシー。 「けい、休憩になったら迎えに行くね」  と聞こえたから、あのクマ、慧くんか。とてもにこやかな顔をしたクマだけど、慧くんだと思ったら、なんだか面白くなってきた。 「じゃあ、またあとでね」 「……ん。はやくいけ」  世那がクマの頭をよしよしと撫でてふんわりと笑うからら、みんな釘付けだった。世那はそんなことを気にもしないで、去っていくクマの背中を見つめている。クマはぽてぽてと無愛想に歩いていく。面白い。 「優芽、ごめん任せちゃって」 「ぜ〜んぜん」  世那の表情が見違えるように明るい。どうやら、どうにかなったみたいだ。 「世那、よかったなぁ」  そう言って背中をぽんと叩いたら、世那は「うん」と嬉しそうに言う。こんなに無邪気な顔は見たことがなかった。やはり慧くんのおかげで、世那は人間らしくなったなと思う。 「けいくん、うれしそうだったなあ」  ふいに音音ちゃんがつぶやいていた。クマだったのに、そんなことが分かるなんて、さすがは音音ちゃんだ。  あの事件のときから、音音ちゃんは元気がなかったから、いつもの音音ちゃんで安心した。  それにしても慧くんが、あのクマかあ。と思い出して吹き出す。やっぱり面白い。 ◇  俺と世那が自由時間をもらえたのは、昼が少し過ぎたころだった。 「働きすぎだよなあ〜」 「うん、本当に」  ちょっとしか休憩がもらえないから、ほとんど逃げ出すように出てきてしまった、まあ、怒られる道理もないし、どうせ最後の学園祭だ。楽しまないと損。  さっそくやってきたのは「動物喫茶」だ。音音ちゃんと慧くんのクラスだから楽しみだった。 「お〜! なかなか凝ってるなあ」  俺たちのクラスほどではないけれど、大きな植物が飾られた、森の中みたいなコンセプトで凄かった。みんな耳とかしっぽとかが生えていて可愛い。 「これさあ。慧くんクマで正解だったかもね〜」  世那が頷く。もし慧くんがネコ耳とかイヌ耳とかしっぽとか生やしたら、ちょっと危なかったかもしれない。とても似合いそうだけど。 「あ! 優芽先輩! 世那先輩!」  音音ちゃんが駆け寄ってくる。背中の羽がパタパタしていて可愛い。 「あの、けいくん、ここにはいなくて!」  音音ちゃんが頑張って説明している。慧くんは客寄せとして学園内を歩き回っているらしい。世那が「探すね」と行ってしまった。  音音ちゃんが席に案内してくれて、俺は「木の実ジュース」みたいな名前のドリンクを頼む。味はぶどうジュースだ。  朝から働いていたから意外と疲れていたみたいで、甘さが体に染みた。 「あの、優芽先輩」 「ん?」 「その、お疲れ様です!」  そう言って、音音ちゃんはテーブルにドーナツを置いた。たしか「森のドーナツ」みたいな名前のやつだ。  音音ちゃんは「サービスです!」と言って頭を下げて去っていく。  やさしい子だなと思いながら、つい匂いを確かめて、何も混ざっていなかったから食べる。匂いを確認する癖は、なかなか嫌なものだなと思う。 「おいし〜」  ふんわりと甘いドーナツを頬張る。やっぱり疲れているときの甘いものは格別だった。    

ともだちにシェアしよう!