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clear 06. 冬です
わたし、戸惑っています。
ここは屋台通り。第二都市の商店街です。空気がすっかり冷たくなって日が落ちるのがはやくなった放課後の、二人組の学生がたくさん訪れる、屋台通りです。
わたしの前には世那先輩とけいくん。にこやかにおだやかに会話をしています。いいですね。そして、わたしと、
「音音ちゃん、甘いもの食べない〜?」
もちろんこういうときは、優芽先輩。それは全然いいのです、いいのですが、まるでわたしと優芽先輩が、その、恋人のように歩いていると、いいのかなって思います。ちょっとそれは、いいのかなって。
「あ、あまいもの、たべますっ」
優芽先輩、世那先輩とけいくんをふたりきりにしたいのだと思うのですが、そうなると、わたしも優芽先輩とふたりきりで、それはいいのかなって。
「いい匂いだな」
ふいに、けいくんが少しだけ目を細めて、屋台通りを眺めました。わたし、耳を疑います。
いま、たしかに、けいくんは、いい匂いだと言った。
「け、けいくんっ、けいくん、匂い、」
けいくん匂いが分かるのですか。と聞こうと思ったのに上手く言えなくて、けれどけいくんはふわりとわらって「うん」といいました。
わたし、めのまえが滲んでしまって見えなくて、きがついたらドバーッと滝みたいに涙が止まらなくなっていた。
「よかった、よかったねえ、」
ぬぐってもぬぐっても涙が出てしまって、けいくんが「おい、目腫れるぞ」とハンカチで拭いてくれます。やさしい。
ようやく滝が小川くらいになって、優芽先輩がわたしの頭をなでなでしていることに気が付きました。は、恥ずかしい。
「これ食べな〜」
優芽先輩、なんでもない様子で、いつのまにか買っていた甘いものを渡してくれました。果物にチョコレートがかかっている。きらきらした飾りもついている。
「いただきます……」
パクッと頬張ったらもう涙はひっこんだ。おいしい。夢中でぱくぱく食べていたら、けいくんも食べていて、ええ食べてる! と思ったら、世那先輩がけいくんにお菓子を傾けていて、けいくんは当然みたいにパクッとしていて、なんてこと、と思いました。
でも、けいくんが「うま」と言っていたので、もう、なんでもいいです。
わたしは、けいくんを救うことができなかったけれど、その結果として、いま、けいくんが救われたのなら、わらっているのなら、それでいいのです。
◇
冬が来たら恋人たちが放課後を共にするのは、もうすぐ卒業式だから、というのが大きな理由です。四年生に恋人がいるみなさん、とても寂しいのだろうと思います。
世那先輩とけいくんも、放課後はいつもいっしょにいます。商店街だけではなくて、図書室に行ったり、教室でただお話していたり、とても楽しそうです。
「ウワサもきれいに消えたねえ」
アサミくんが言います。アサミくん、けいくんのはじめてのお友達なんじゃないかなと思います。もちろんツキちゃんもお友達ですけど、わたしのお友達だから、というのがあるので。
「アサミくんは、その、会いにいかないの?」
「んー」
アサミくん、たしか四年生に番がいると言っていました。もうすぐ卒業なのに、いいのかな。寂しくないのかな。
「いまね、けんかしてるから会いたくない」
アサミくん、そう言いながらも、なんだか楽しそう? 堂々としています。けんかしているのに、ムスッとしたりしないんですね。
すると、どこからかパタパタと走ってくるような音がして、アサミくんが、なぜか慌てたようにムスッとしました。
「アサミー! ごめんねー!」
なんか来ました。ものすごく背の高い人。優芽先輩も高いですけど、もっともっと高い。天井に頭が触れてしまいそうなくらい。
そんなひとが、スライディングするみたいにズサーっときて、アサミくんにガバッと抱きつくから、ちょっとびっくり。アサミくん、ムスッとした顔のままそっぽをむきます。いったいなにがあったのかな。
「きのうはほんとうに、船が沈みかけていたんだよー!」
あ、あぶないですね、それは。
「だからみんなを助けていただけなんだよー!」
わあ。やさしいひとだ。
「みんなのこと、だっこしてたじゃん」
アサミくん、そんなかわいい理由で怒っていたのね。怒っていたのか分からないですけど。
背の高い人は、また「ごめんよー!」と言います。たぶん、アサミくん面白がっていますよ。分からないですけど。
アサミくん、だんだん肩が震えてきて、笑い声が漏れてきました。ほらね。
「あはは! べつにそんなことで怒らないよ」
「……アサミー!」
「バカだなぁ」
背の高い人、分かりやすいくらいにホッとしている。アサミくんは、その人の頭をうりうりって撫でてます。なんかいいですね。ほほえましい。でもやっぱり怒っていなかった。いじわるだなあ。
アサミくんと背の高い人は仲良く帰っていきました。アサミくん、なんかよく分からないけど、よかったですね。
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