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veil 03. シスター
植物のお世話をするのってたのしいです。毎朝、メイルさんといっしょに草花に触れて、香りを嗅いで、メイルさんは薬効とか使い方とか、いろいろなことを教えてくれます。
どうしてそんなに詳しいのですか、と聞いたら、
「先生に教えてもらったからねぇ」
と言いました。
「あれぇ、おとねちゃん、丘の上の教会の子だっけー?」
「はいっ」
「じゃあ、おとねちゃんも先生の子だ」
「へえ。……えっと?」
なんと、メイルさんの「先生」とはシスターのことでした! なんと、なんと、メイルさんもわたしとおなじ、シスターの孤児院で育った子だった。
「ヨルもそうだよー、いまの教皇サマも」
「……ええ!?」
ということでした。みんな、シスターの子。
「先生がね、おねがいしてきたの」
「おねがい、ですか?」
「ここの未来を守ってくださいねって」
メイルさん、土いじりの手を止めて、なつかしそうな顔をします。貴方たちはそれだけを考えて動きなさい、とシスターは言ったらしいです。だからメイルさんたちは教会や孤児を守っている、すてき。
「ほんと、すごいひとだよねえ」
メイルさんが涼し気に言う。なんだかかっこいいなと思いました。
わたし、シスターのことは、たくさん悩んでしまったり、どうしてですか、って思ってしまったけど、わたしの尊敬するシスターがウソではないこと、信じようと決めました。メイルさんのおはなしが、その背中をおした。
ありがとう、メイルさん。
◇
今日はけいくんとVeilの学校に行きます。なんと、わたしが文字をおしえてあげます!
「き、きんちょうするなあ」
わたし、おしえたことってないから、自信ないです。けいくんが「意外と大丈夫」って言ってくれたので、大丈夫だと思うことにします。
Veilの学校はふたつの棟に別れていて、ひとつは十三歳からの子が通うところです。こちらは貴族の皆さんもいます。そしてもうひとつは、十三歳以下の、孤児のみんなが通うところ。
八歳とか九歳になると通うといった感じです。ちなみにわたしは七歳から通った。これ、決まりはないんですよね。ほとんど遊ぶ時間みたいなものですし。
この十三歳以下のみんなに、文字をおしえました。退屈だろうなとおもって、文字のカードをつくって、探したり色塗ったりするゲームをしました。
「いいなこれ」
けいくんが褒めてくれました! うれしい。けいくんも手伝ってくれて、たのしいかんじで、なんとかなりました。
「おとねせんせー! またねー!」
「はっ、はい! またね!」
おとねせんせい、かあ。いいですね。いい響きだなあ。と酔いしれていたら、けいくんがわらっていた。
わらってくれて、少し安心しました。
メイルさんの教会がひまになると、けいくんのところにちょこちょこ行っていました。けいくんの教会は子どもがたくさんいるから、たまにお手伝いもしました。
けいくん、いたって、ふつう。変わらないようにみえますけど、たまに、ふと、まぶたを伏せる。
わたし、心配だったけど何も聞かないで、ひとりにしない、ということをがんばっています。もちろんむりなときはむりです。
「おとね、おとね」
「幸くんっ!」
なぜかこそこそとわたしを呼ぶ幸くん。なんですか、と返事をしたら、しずかにって言われました。
「ちょっと、こっちこっち」
「はい、はい、」
なんだろう、秘密基地かな。ヨルさんの教会の、裏の庭の、木と木の間。一枚の布が屋根みたいになっています。地面に椅子とかある。あ、枝に飾りがたくさん、カラフルです。可愛い。
「優芽にぃのお嫁さんになるってほんと?」
「……へぇぃ!?」
変な声出た。て、てっきり、けいくんのことかとおもった。え、えっと、その、
「い、いちおう、お返事を、する、みたいな、わたしが」
「優芽にぃをまたせてんのかあ! やるなあ!」
「えへっ、いやっ、そのっ、」
幸くんが背中をぺしぺし叩いてくる。ぜんぜん痛くないなあ。幸くんって愉快な子です。
「おい、おとねサボるな」
ぴょこっとけいくんが覗いてきた。びっくりした。幸くんがけいくんに抱きついています。けいくんは引き剥がしている。なかよし。
「でも、おとねと家族になれんだあ。うれしー!」
幸くんが言います。それ、わたしもうれしい。と思っていたら、けいくんがふいっと顔を逸らしました。幸くんがじっとみている。なんだろう。こういうときの幸くんの顔って、ちょっと別人みたい。
「……おとね、ヨルが呼んでる」
「あ、うん! わかった!」
けいくんはちょっと不機嫌というか、悲しそう、さびしそう? とにかく沈んでいるみたいでした。
ヨルさんはお裁縫がお上手です。
「これ、持って帰ってくれる?」
「はい!」
大量のお洋服たちは、ちょこっとデザインや色味が違くて、とてもすてき。メイルさんとヨルさんって不思議で、ふたりのあいだで等価交換をしているんですよね。
どういうことかというと、メイルさんがお菓子をあげて、ヨルさんがお洋服をあげる。交換するんです。不思議だな。
「あー、でもこれ運ぶの大変か。俺も行こうかな」
「え! へいきですよ!」
「ちょっと散歩もしたいしさ、ね?」
「は、はい、それなら、」
ヨルさんがほとんどもってくれて、わたしは数着を抱えて、けいくんに留守を任せて、メイルさんの教会にヨルさんと行きます。
そういえば、ヨルさんとふたりでいるのは、はじめてだ。
「おとねちゃん、ちょっと聞いていい?」
「は、はい! なんでしょうか!」
ヨルさん、砂利道のずっと先を見つめたまま、「あのさ」と口を開きます。
「けいくんは、どんな子?」
「……どんな、ですか、」
ちょっと意外な質問でした。意外というか、ふわっとしている。どんな、と言われたら、そうだな。
「すてきなひとです。やさしくて、たよりになって、かっこいい。なんでもできるんです。ごはんもおいしい。あとは、」
あとは、なんでもひとりで抱えこんで決めてしまうし、自分のことをないがしろにします。自分は、どうなってもいいとおもっている。
と、言いたくなりました。
「危うい子だよね」
ヨルさん、わたしがだまってしまったら、そんなことを言いました。あやうい、たしかに。
「俺はねえ、修道士って仕事だけど、あんまり人にも神にも興味ないんだよね」
「お、おお」
「でも、ああいう子はね、ちょっと心配になる」
ヨルさん、なんだか、遠くを見て微笑みます。けいくんみたいなひとに、出会ったことがあるのだろうな。
「あ、あのっ」
わたし、ほんとうは、ちょっとなやんでいました。
「わたし、けいくんを救えるほどの、しっかりしたひと、ではなくて、でも、その、」
なやんでいたこと、言葉にしたら、ばらばらしちゃうな。ぜんぜん伝えられないな。くやしいな。
わたし、それきりなにも言えなくなってしまった。
「それ、きっと優しい感情だね」
ヨルさんが言います。やさしい……?
「不格好でも伝えてみなよ。優しい感情はね、意外と揺らされるんだよ。凝り固まった、めんどうなやつには、とくにね」
そ、そんな油汚れみたいな……。
でも、そうですか。それなら、
「が、がんばりますっ」
わたしが決意を固めたら、ヨルさんは「頑張れ」と言ってくれました。
みんな、とてもすてきなひとだな。
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