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veil 04. 止まり木
その日の夜、なんだか窓の外が明るくて、わたしは目を覚ましてしまいました。ぐっすり眠るみんなの顔をちかちかと優しい光が照らしている。
わたし、そっと外に出て、「わっ」となりました。
とてもきれいなホタルだ。
孤児院からもよく見えたんだよな。この時期。そう思ったら、なんだか孤児院が恋しくなってしまって、夜の散歩にでかけることにしました。月明かりもない夜だけど、ホタルがいるから明るい。いい夜だ。
孤児院までの道のりは、改めて考えてみると、けっこう大変なものですね。メイルさんの教会は街のはずれにありますけど、そこから、まばらな砂利道を、ずっとずっと歩きます。ここらへんは羊が住む牧草地帯。
ですが、途中から、柵が高くなります。
その柵の向こうは、全部シスターの薬草畑。すごいんですからね。びっしりとのびやかに育っている。
いまはメイルさんがお世話しているって言っていたけど、わたしもお手伝いできたらいいな。メイルさん、この畑の世話だけは、わたしに手伝わせてくれないんです。
薬草畑のさわやかな香りといっしょに歩いて、そして、しばらくすると右折する小道が見えてくる。とても細い道です。隠れ家につながるみたいでわくわくする。
小道の先は木々が茂って見えないのです。だから教会があるって知らないと、ちょっとむずかしいかな。そんなところもすきです。ひっそりとしていて。
この小道、すてきなんですよ。シスターは割れてしまった食器をくだいて、ここにばらまいたのです。ほら、ふみつけるとね、ザラザラパリパリカラカラって音が鳴る。水色と緑色が混ざったみたいなガラスがたくさん散らばっていて、だいすきです。
「シスター、あいたいなあ」
誰にも聞かれていないからつぶやく。あいたいな。シスターに、わたしはもうあえないのかな。
音を立てて歩くこと、すぐ。森の小道も抜けて、ようやく、丘の上の教会です。そんなにキツくない傾斜をぴょんぴょんとのぼったら、教会が見えてきた。けれど。
とてもしずかだ。暗くて、寂れてしまって、なんだか知らない顔になってしまったな。
「……ホタル、みたら、かえろ」
孤児院のみんな、丘の裏側の小さな池で、たまにホタルを見ていました。毎年ではないです。わたし、ねむっちゃうから。
「あれ、」
おどろきました。池のところにひとがいます。ひざをまるめて、池の方を見ている。ホタルがチカチカとしています。
「けいくん、」
声をかけたら、けいくんは少し肩をゆらしました。目の辺りをぐいっとぬぐっている。もしかして、泣いていたのかな。これは、ひとりになりたい悲しさなのか、ひとりだと悲しいのか、わたしはなやみます。
「……おとね、めずらしいな。起きてんの」
「あっ、うん。ホタルが、まど、きらきらで」
「ああ。俺も、それで目が覚めた」
「うん、あの、となりにいってもいい?」
けいくん、小さく頷いたので、わたしはとなりでひざをまるめます。けいくんの顔をちらりと見ます。もう泣いてない。でもホタルの灯りに目を細めている。
さびしそうに。
けいくんが、しあわせになれない世界なんて、いやだな。
ふと、そんなことを思いました。わたし、ちからはないです。強くない。わるいひとのひとり、殴ることもできない。あしもおそいです。おはなしも得意ではない。あたまだってふつうです。かおもふつう。かわいくない。ブサイクではないです。
でも、まいにち、しあわせです。しあわせに生きている。すてきなひとが、たくさんいて、しあわせです。
どうしてけいくんは、ひとりなんでしょう。それでいいって、まるで言い聞かせるみたいに、どうして……。
「……おとね? なんで泣いてんの」
そうですよね。わたしが泣くなって思います。でも悲しいですよ。ヨルさん、ほんとうに優しい感情は、油汚れを揺らせますか。信じていいのですか。
けいくんの、こびりついたわるいものを落とすのは、きっとわたしではないけれど、わたしはせめて、石けんの泡でくしゃくしゃにしたいです。
「わたし、けいくんに、伝えたいことある」
けいくんがじっと言葉をまってくれます。いつもそう。けいくん、いつもまっていてくれる。
「けいくんがうれしいと、うれしいってなる。かなしいと、かなしいって、なるの」
声がふるえてしまうな。こういうのはむずかしいよ。でも、でも、ずっと思っていることがあります。
「けいくん、ほしいものを、ほしいって、わがまま、言っていいんだよ」
だっていつもみんなのこと、すこしうしろから支えている。だからうれしかったんだ。けいくんがやっと、やっと、よいしょってくつろいで、あまえて、そういうひとに出会えたんだなあって。うれしかったんだよ。
けいくんは、何かを言いかけて、やめて、目を伏せて、「うん」と言いました。
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