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veil 09. ふたり
なんだか面白いことになっていた。
音音ちゃんと慧くんの学園祭に世那と来たのだけど、ちょっとだけ学園は騒がしい。
「へぇ、スタンプラリーで先着二十名を『星空喫茶』にご招待だって〜」
世那と二人でパンフレットを覗く。ヒントを頼りにこの広い学園内に隠れている、着ぐるみたちから、スタンプをもらうらしい。なんとも不思議な催しだな、ん? 着ぐるみ。
「あ、けいのクラスだ」
世那が呟いて、俺たちは顔を見合わせた。なるほど。学園祭がはじまって、もうすでに時間は過ぎている。けれど学園内をきょきょろしている人がかなりいるし、まだ先着二十名は埋まっていないとみた。
「よし! どっちが先か競走な〜」
「えぇ、協力しようよ」
そう言いながら、俺たちは早速ひとつめのスタンプをゲットする。これは絶対に勝ち取らないといけないな。
このスタンプラリー、なかなか凝っていて、まずはヒントの謎解きからはじめないといけない。
パンフレットにはひとつめのヒントがかなり抽象的に書かれていて、それを解いた場所にいる着ぐるみからひとつ、まだもらっていないヒントを選ぶことができる。
そのヒントでまた着ぐるみを探して、最後の着ぐるみに辿り着け、という感じだ。
謎解きとスタンプラリーが一緒にできて楽しい。
俺たちは二手に分かれて、たまに情報交換をしながら校舎内をめぐった。
「おっ! ペンギンだかわいい〜」
ヒントを頼りに向かった東校舎の最上階のろうかに、ペンギンが歩いていた。「あれ?」しかし、なんだか知っている匂いだ。
「音音ちゃん〜!」
「優芽先輩!?」
もごもごとくぐもった声がする。
どうやらペンギンは小回りが効かないみたいで、よいしょっと言いながらこちらをむいて、「きてくれたんですね!」とパタパタした。
「あ! スタンプ! これです! くびのとこの!」
ペンギンの着ぐるみは指がないらしくて、首に提げたスタンプをペシペシ叩いていた。「かわいいなあ」と言いながらスタンプを押していたら、音音ちゃんはそわそわしていた。
「あ! 優芽先輩、あとひとつですね!」
どうやらもうコンプリート目前みたいだ。音音ちゃんは「すごいですね!」と一通り褒めてくれてから、「では、最後のヒントをだします!」と言って咳払いをした。
「いつもここにいるけれど、変わっていくものが住んでいるところです!」
なんとも抽象的な、詩的な感じだ。「なんだろうなあ」と悩んでいたら、世那がやってきた。どうやらいまのところは俺の勝ちみたいだ。
「世那先輩もあとひとつですね!」
そして世那もヒントを聞いて、すぐに「ああ。なるほど」と、すごく嬉しそうな顔をした。
「え、世那わかったの!?」
「うん。いっしょにいこ」
全力でパタパタとする音音ちゃんに手を振って、世那と階段をおりていく。なんだか世那は上機嫌。なんとなく察しはつくけれど黙っておいた。
「勝負は世那の勝ちだなあ」
「それまだやってたの」
世那が笑うのを傍目に、のんびりと階段をおりる。なんだかなつかしいような物悲しいような気持ちだ。
学園に通い始めたばかりのころは、俺も、多分世那も、すごく退屈なところだと思った。けれど二年生になって、世那は慧くんに、俺は音音ちゃんに出会って、色々と巻き込まれたりして、とくに世那と慧くんなんて大変な目にばかりあっていて。
けれど、こうしてのんびり階段をくだっている。
悲しい日も寂しい日も過ぎてしまえば色褪せてしまう記憶のひとつで、それなら生きてきた時間に優劣なんてないのだろうな。
「あ、『時間』か」
ふとヒントの文言とつながってひらめいたら、世那は笑って、いつのまにか辿り着いていた中庭の片隅の時計塔を、そっと見上げた。
「大切な場所」
世那は呟いた。そして思い出をなぞるように、世那は扉を開いて、時計塔の階段を一段一段きしませていく。
(きっとふたりは、どんな日々でも大切に抱えて、生きていくんだろうな。)
そんなやさしい気持ちでのぼったら、にこやかで無愛想なクマが待ち受けていたから、ちょっと面白くなってしまった。
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