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第4話
「あ……っ、っは、あぁ……」
熱い舌が、首筋から鎖骨を辿り、胸元へと辿り着く。胸の突起にきつく吸い付かれ、舌で転がされ、軽く歯を立てられたなら、電流に打たれたような衝撃が全身を駆け抜けた。
「っひぁ……あ、あぁッ」
片方を口で責められながら、もう片方は指先でぐにぐにと押し潰されたり摘まみ上げられたりする。そのたびに、おかしなくらいに、身体が跳ねた。胸を突き出してよがる声は、自分でも聞いたことのないものだった。
肌の上を辿る手が、下着の上から張り詰めた前を撫で上げる。幾度か、布越しに擦る手が往復した。それだけで目の前が真っ白になって、全身がびくびくと痙攣する。
「あ、あぁぁ――ッ」
腰が、跳ねる。じわ、と前が温かくなる。驚いたように目を瞠ったクロイツが、くつくつと肩を揺らした。
「まだ、直接触れてもないんだが」
「っあ……ぅ、う……」
もう、恥ずかしいなんてことを感じる余裕もなかった。これまでは吐き出せば治まっていた熱が、一向に引いていかない。ただひたすら、昇り詰めていく。未知の感覚に、この身体が自分のものではなくなってしまったような感覚に捉われて、恐ろしさに震えた。
「ッは……ぁ、あ……ッ」
より一層猛烈さを増した渇きが襲い掛かり、喉をかき毟りたくなる衝動に駆られる。
治まらない。どうすることもできない。激烈な飢餓感に、身も心も狂わされる。このままでは、死んでしまう。リディアンは冷静さを失ったように、掴んだシーツを手繰り寄せた。
「……大丈夫だ、リディアン。落ち着け」
「……っふ……ぅ、うぅ……っ」
「俺に身を委ねていろ。悪いようにはしない」
涙が、止まらなかった。ただ熱に翻弄され、どうにもならない身体を持て余しながら、子どもみたいに嗚咽を漏らして泣いた。
下着を、取り払われる。一度の吐精を経たというのに、未だ痛いほどに疼く前が暴かれる。
ぐっと持ち上げた脚を肩へと掛けて、クロイツは後ろを撫で上げた。欲しがるようにヒクヒクと震える場所へ、つぷりと侵入してくるものがある。
「っあ……あ、あぁ……」
「……凄いな。指に、吸い付いて離れない」
ナカで、指が蠢いた。くちゅくちゅと、淫らな水音が鳴る。――濡れている。ただの排泄器官だったはずのその場所が、今は受け入れるために、自ら粘液を溢れさせている。それはこの身体がオメガであるという、揺るぎのない証だった。
「ッあ、あぁ、や、やだ……やめ、ろ……ッ」
「こんなにしといて、やめろはないだろう」
指が、増やされた。わざと水音を立てるように、激しく掻き回される。ぐちゅぐちゅと鳴る音が、自分には見えない場所がどうなっているのかを饒舌に物語ってきて、リディアンは耳を塞ぎたくなる衝動に駆られた。
「――アァッ!!」
悦いところを、指先で押し上げられた。目の前に、チカチカと白が瞬く。何だこれは。こんなのは知らない。リディアンは息をするのも忘れ、全身を強張らせた。シーツを、強く握り締める。指先が白くなるくらいに。
「ここが、悦いのか?」
「あ、う、うぅ……い、い……そこ……きもち、い……」
腰が、揺れる。勿論、意思とは無関係に。
「あ……っふ……う、うぅ」
腰をうねらせて、更なる刺激を強請った。
そんなリディアンの姿を見下ろすクロイツの喉仏が、大きく上下した。食い入るように見つめながら、はっ、と荒く息を吐く。
指が、引き抜かれる。ぬちゃ、と、名残惜しむ音が響いた。余裕のない手つきで、クロイツが自身の前を暴く。
「……っあ……」
曝されたのは、滾りきった熱棒だった。暴力的なまでの質量が、天を仰いでいる。浮き出た血管が、ひどく生々しい。
――これが、アルファの……。
ごくりと、生唾を呑む。何もかもが、圧倒的だった。鍛えたつもりの自身の身体など、比べ物にもならないほどに精悍な体躯が、この身を組み敷いていた。
ぐっと、脚を掴む手に力がこもる。大きく脚を、開かされる。凶悪な陰茎が、入り口に宛がわれた。見せつけるように、ぐっと下半身を折り曲げられる。
「……あ……そんな、の……入るわけ、な……」
カリの部分が、入り口をなぞるように上下する。先端は、クロイツの先走りとリディアンの粘液でぬらぬらと濡れていた。
後ろがヒクつくのを止められない。恐ろしいはずであるのに、その熱を焦がれている自分が、確かにそこにはあった。
「力を抜け」
「いや……だ……むりだ……そんな、っ」
「無理でも挿れる」
「や、だ……いやだっ、こわい……っ、こわ……あ、あ、あぁ……」
ぐぐぐ、と。少しずつ、少しずつ、狭い隘路を抉じ開けるようにして、ナカへと押し入ってくる。真ん中から、押し広げられて、内臓を、押し上げられて。
「ッアァ……っぐ……」
息が、止まった。吸えないし、吐けない。視界がブレて、喉が引き攣る。余りの衝撃に、パニックを起こした脳がフリーズする。
許容を超えた杭が、なおも身を裂くようにして捻じ込まれる。めりめりと、繋がる場所から不穏な音が聞こえてくるようだった。
「ぅ、ぐ……っう」
「……全部、入った」
そう呟くクロイツの息は、弾んでいた。苦しげに、眉根が寄る。
目を見開き、呼吸を止めているリディアンに気づいたクロイツが、ぐっと身を密着させてくる。さらに深く繋がって、リディアンは苦しげに喘いだ。
「……息をしろ、リディアン」
「っは……ぁ、ぅ……」
「……っ……力を抜け。これでは動けない」
言われていることは理解できる。だが、どうすれば良いのか、分からなかった。何もかもが初めての経験に、思考回路が働かない。頭と、身体が、繋がらない。
息をすることもままならず、震える喉で喘ぎ、ぽろぽろと涙を流すしかできないリディアンの唇を、クロイツは啄んだ。ちゅうっと下唇を吸われる。ちゅっちゅとリップ音を立てて、何度も、何度も。やがて、熱を帯び、じんと痺れる下唇を、食んできた。やわく、噛みついてくる。
「――っは……」
息を吸って、吐けるようになった。至近距離で、見つめ合う。ひどく蒙昧な瞳が、クロイツを仰ぐ。見下ろしてくる瞳には、そんなリディアンの面差しだけが映り込んでいた。
「……リディアン」
低く、名を呼ばれる。たったそれだけなのに、ぞくぞくぞく、と甘い痺れが駆け上がる。
再び、唇を塞がれた。奪う口づけではなくて、分け合うような、そんなキス。唇のあわいを縫うように、舌が這う。口を開く。にゅる、とすかさず入り込んでくる。差し出した舌を、甘噛みされた。柔肉を食べるみたいに、噛んでくる。
「あ……、んぅ、はぅ……あ、ん」
気持ちがいい。ずっと、噛まれていたい。長く伸ばしたリディアンの舌を、クロイツの唇の輪が扱くように上下する。ぢゅ、ぢゅる、と唾液の水音が立つ。飲み込み切れず、口角を伝う蜜を吸い上げるようにして、唇ごと噛みつかれた。
茫洋とした脳裏に、ふと過る。このまま食べられてしまうのではないか、と。
キスに夢中になっていたお陰で、気がつけばナカの苦しさは幾分か紛れていた。はっはっと浅く速い呼吸を繰り返しながら、濡れそぼった瞳でクロイツを仰ぐ。
艶美な双眸が、そんなリディアンを見下ろしていた。
「……可愛いな」
落とされた呟きに、耳を疑った。可愛い、と、そう聞こえた気がしたから。誰が、誰を?リディアンは蕩けるような瞳で、じっとクロイツを見つめた。クロイツの瞳には、リディアンしか映っていなかった。
「お前は、俺のものだ」
埋め込まれていた質量が、ゆっくりと引き抜かれていく。逃すまいと、粘膜が絡みつく。物寂しげに、収縮する。――あぁ、抜けてしまう。そう思った、刹那。
「っひぁうッ!!」
一気に、最奥を穿たれた。肌のぶつかり合う音が、室内に響く。目の前が、白一色に弾ける。衝撃に喉を引き攣らせていると、再びゆっくりと引き抜かれていく。
「他の誰にも、触れさせない」
「っあ……あ、あぁ……」
また、あの衝撃が来る。恐怖と、期待に、全身がぶるぶると震えた。
ばちゅん!
「――ッア!!」
背が、弓なりに撓る。身体が、跳ねる。
「っひ、あ、あ、あっ、あぁッ」
狂ったような抽挿が、始まった。凶悪な肉棒が、信じられないほどの奥を、幾度も幾度も突いてくる。灼けた杭に奥を穿たれるたび、張り出したカリに悦い部分を擦り上げられるたびに、開ききった唇からはあられもない嬌声が溢れて止まらなくなる。
「っや、あ、あぁぁ!やだ、いや、やあぁぁ!!」
「っは、キツ……最高だ、リディアン」
「やめ、やめてっ、くれ、あ、あぁッ、ぅ、うぐ、ぅ、ぁ、あ、あぁぁ!!」
「俺の、リディ……俺だけの」
「いやだ、いやだぁ!ゆる、して、も、むり、だ、むり、だって、ぁあ、あぁぁ」
相手に縋りつくように、腕を回した。誰かに縋りついたことなど、これまで一度もなかった。それでも。縋りつかずにはいられなかった。止む間のない律動に、堪らず爪を立てた。ぐっと食い込ませてなお、抽挿は激しさを増した。
「ああぁぁ!だめ、だめ、ッ、ッア――ッ!!」
男らしい、明確な射精は得られないままに、リディアンの屹立は、どぷ、どぷりと白濁を溢れされた。紛れもない絶頂が、永遠と続く。高止まりしたまま、降りてこられない。
強過ぎる快楽に、なおも高速に腰を打ちつけてくるクロイツから、本能的に逃れようと身を捩る。しかしがっちり腰を掴まれていては、微動だに出来なかった。恍惚とした表情で腰を振り続けるクロイツの耳には、やめろと懇願するリディアンの声は届いていないようだった。
――ラット……!
アルファとして育てられたのだから、それくらいは教養として知っている。オメガのフェロモンに当てられたアルファが起こす、発情の証。理性を狂わされ、オメガを犯すことしか考えられなくなるという暴力的な本能。目が眩むほどの濃厚なフェロモンを浴びせられて、リディアンは恐怖に身が竦んだ。
――怖い……壊される……!!
強烈な刺激に直接脳を揺さぶられ、全身の細胞の全てが沸騰したみたいに熱を発する。繋がった部分からは、壊れてしまったみたいに愛液が溢れ出していた。楔を打ちつけられるたび、ぐちゅぐちゅという音が淫らに響き、尻のあわいを伝い、背中のほうへと流れていく。
「は、はぅ、っ、ぅっく、ぅ、う、ぁ、あっ」
リディアンは、為す術もなく揺さぶられ続けた。既に自身の象徴は力なく垂れ、先端からは透明な液体だけを零し続けているというのに、後ろの粘膜はクロイツに絡みつき、逃そうとしない。前も後ろも、ぐちゃぐちゃだった。
濡れた白金の髪が、白いシーツに乱れ咲く。壊さんばかりの勢いで腰を打ちつけてくるくせに、肌に触れてくる指先は、驚くほど優しかった。汗ばんだ額に張りつく前髪を、そっと払われる。その向こうに見えるブルーの瞳は、慈しむような色を湛えていた。
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