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第一章 モブ山モブ生の挑戦(7)

 俺は香月の友達になることにした。  香月の押しの強さに押し負けたのではない。本田たちとの付き合いは尊重すると香月が言ったからだ。  それならば、今と特に何かが大きく変わることはないだろう。普段は本田たちと一緒に過ごして、偶に香月と友達付き合いをする。これならばコミュ障の俺でもやり抜けそうだ。  本音を言うと今でも逃げ出したい気持ちはある。あるというか逃げ出したい。だが、よくよく考えてみれば俺と香月は同じクラスである。逃げ回ったところで最終的に教室で顔を合わせることになる。そうである以上、抵抗するだけ無駄だ。  だからこう考えなおした。来年のクラス替えまでの辛抱だ。  中等部の三年間、俺は香月とクラスが同じになることがなかった。高等部の一年次もそうだ。ならば来年はまたクラスが離れるのではないか。そうだそうだ。そうに決まっている。そう都合良く来年も同じクラスになれる筈がない。  そう思ったらかなり気が楽になった。  亘代は大喜びだった。  もしかすると香月の実物を間近で目にすることが出来るかも知れないのだ。これで喜ばなかったらファンの名折れ。「これで写真もイケるでしょ!」と、人の部屋でくるくる回り続けること五分ほど。それでも興奮冷めやらぬ亘代の、このまま宙を歩き始めるんじゃないかという浮かれっぷりに、帰宅した両親は何があったのかと心配していたが、俺が経緯を説明すると、あんぐりと口を開けて二の句が続かない様子でいた。 「まあ、直ぐに飽きるんじゃないか。民生は面白味のない子だし」 「そうよね。ちょっと変わった思いをしたいだけなのよ、きっと」  両親の言葉は、偽らざる本音というよりは、そうであって欲しいという願いに近かった。  それもそうだ。中流階級の奥山家(うち)と上流階級の香月家では家の格が違う。今は個人的な付き合いに留まっている俺と香月の関係が、仮にお互いの家を巻き込むようになったら? お上品とは無縁で生きてきた両親は、緊張感で酸欠になってしまうことだろう。  だが、お陰で更に気が楽になった。  そう、俺は面白味のない人間だ。ハンドボール部を辞めてからというもの、家と学園を往復するだけの生活。友人と深い付き合いをするでもない俺は、家では宿題とゲーム、そして動画を見るくらいしかしない。そういった俺のありきたりな人間らしさに、いずれ香月は違和感を覚えることになるだろう。もしかすると、俺に白羽の矢を立てたことを後悔するかも知れない。  望むところではないか。  だったら肩の力を抜いて、ありのままの俺でいればいい。そうすれば香月はどこかで飽きる。普通ではない人間に囲まれて、刺激ある生活を送っている香月だもの。俺のように刺激のない人間との付き合いは、直ぐに退屈に感じるに決まっている。  俺は楽観的な気分でベッドに入った。  寝入りばなの夢の中に香月が出てきたような気がしたが、眠気の方が勝った。  色々あったこの二日間。香月のお陰で精神的疲労が凄い。俺は自分でも呆気なく感じるほどにあっさりと深い眠りに落ちていった。

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