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ブラック・アンド・ブルー 真夜中のデカダンス(1) | 石月 主計の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
ブラック・アンド・ブルー
真夜中のデカダンス(1)
作者:
石月 主計
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12 / 18
真夜中のデカダンス(1)
弓岡司
(
ゆみおかつかさ
)
は、一日の仕事が終わった後に、自宅の2階で
熊谷刀
(
くまがいかたな
)
の絵を鑑賞するのが習慣になっていた。熊谷は、かつて司と愛し合っていた高校時代の美術教師である。 卒業してからも、東京のワンルームで一緒に暮らした二人。けれども、熊谷は司より愛していた教え子・
相川流
(
あいかわながれ
)
の離婚を知り、出ていってしまう。これらの絵はその時に残されたものだ。 置き土産と言えば聞こえが良いが、
佐伯攻
(
さえきおさむ
)
にとってはガラクタにしか見えない。たった2枚を除いて。 司は、その2枚の前に立っている。どちらも司の肖像画。1枚は油絵の具、もう1枚はアクリル絵の具で描かれていた。 キャンバスに閉じ込められた18歳の司は、子どもの脆さと大人の強さが同居して、アンバランスな魅力を放っている。そこはかとなく滲み出る色気は、すでに男を愛するという業を飲みこんでいたからだろう。 肖像画を見つめる司の眼差しは寂しそうだった。もしかしたら、7年前のことを思い出しているのかもしれない。今は私がそばにいるというのに……攻の胸に大人げない嫉妬が渦巻いた。 邪魔するように手のひらで目元を覆い、視界を遮る。さらに後ろから抱きしめて、なるべく自分の体臭が強く香るように体を密着させた。司が振り向いて攻を睨みつける。 「まだいらしたのですか? とっくに帰られたと思ったのに」 「ああ、君が心配でね」 「僕が心配?」 司が首を傾げる。それが可愛らしくて攻は唇を奪った。呼吸を忘れるほどの長い口づけ。唇が離れると司は不満を露わにした。 「僕が絵を見ていると、いつも邪魔をするんですね」 「君には過去を振り返ってほしくないからさ。輝かしい今があるのだからね」 新進作家の安い絵に付加価値をつけ、破格の値段で売ってしまう。その優れた手腕で画壇から一目置かれている若き画商。それが、司のパブリックイメージだ。 そして、攻はパートナーとして常に隣にいる。その恵まれた体格から、世間では「用心棒」と呼ばれているらしい。 「熊谷先生は、今ごろどうしているのでしょうか」 「さあね、私たちに知る術は無いよ」 本当のところ、最近になって熊谷から頻繁に手紙が届いている。いつも、白い封筒に汚い字で司の名前を書いて。もちろん、司には見せていない。見せたら仕事そっちのけで会いに行ってしまうからだ。届いた手紙を整理するのは攻の役割。だから、見つけ次第シュレッダーにかけている。 攻はもう一度司を抱きしめた。今度は真正面から。司は特に嫌がっていない。 「君を裸にしたい」 「もし、ノーと言ったら?」 「君のここはイエスと言ってるよ」 司の股間に手を伸ばす。そこはすでに硬くなっていた。攻の獣じみた体臭に反応しているのだろう。 「抵抗したところで、ズボンの中に漏らしてしまうだけだよ」 司はため息をつく。それでも、潤んだ瞳で見上げてきた。 「いいですよ。その代わり、早く済ませてくださいね」 攻は笑顔で頷く。もちろん、そんなつもりは毛頭無い。夜明けまでたっぷりと鳴かせるつもりだ。 (熊谷先生、私の勝ちですよ) どんなに絵を残したところで、当の本人がいなければ司を満足させることは出来ない。攻は機嫌よく口笛を吹くと、明かりを消して司を部屋の外へ連れ出した。 * 夜明けが近づいてブラインド越しに陽射しが差し込んでくる頃、微睡んでいた攻は腕の中で司が身じろぎしていることに気づいた。 「眠れないのかい?」 「ええ、気持ちが昂ってしまって」 今日も朝から顧客との面会が控えている。少しでも眠らなければ体が持たないだろう。移動中に眠れるほど司は器用ではない。 「……お酒を飲んだら眠れるかもしれないのに」 「飲めないだろ?」 司も攻も酒は一滴も飲めない。ホテルで食事をする時も、お供は攻がモクテルやボトリングティー、司がペリエなどの炭酸水だった。 会食をすると、つまらない人生だと鼻で笑う顧客や仕事仲間もいる。だが、常に素面で理性を保っていられるほうが、よほど高尚だと攻は思った。少なくとも酒に酔って司を罵倒したことがある熊谷とは違う。 「もっと運動したら眠れるんじゃないかな」 攻が一物に伸ばした手を司は撥ね退けた。 「その手には乗りませんよ」 「……じゃあ、私に呼吸を合わせるんだ。吸って」 司は訝しげな顔をしながらも攻に従う。 「今度は吐いて」 何度も繰り返しているうちに、司の瞼がゆっくりと閉じてゆく。呼吸が寝息に変わったのを見計らって、攻も瞼を閉じた。 「君の眠りは私が守るからね……」
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石月 主計
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