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後編
(……何だ? 温かいものに包まれてる……?)
ふと、アグナーの意識が浮上した。徐に目を開くが、薄暗くてうまく視界から情報を得る事が出来なかった。遠くの方に松明の火は見えるが、自分の近くまで明かりはうまく届いていないようだ。ここは何処だろう。
それでも周囲を出来る限り見渡してみる。左右を見渡しても何も見えなかったので視線を下に下げた。すると。
「……」
「……ユゼルさん? あれ、オレ何で生きて……?」
アグナーの視線の先、少し離れた所から立っているユゼルがアグナーを無言で見つめている事に気がついた。静かに、何も言わずただただ彼をあの黄金の瞳で見上げている。
その様子を不思議に思いつつ、アグナーはなんとか記憶を辿る。アグナーが意識を失う前に覚えている記憶は、体を切り裂かれて激しい痛みを感じた所までだった。迷宮の主に。それを思い出してアグナーは一気に冷や汗をかいて焦った。呑気に寝ている場合でも話している場合でもないかもしれない!
「そ、そうだ。ユゼルさん主は⁉ 無事って事は倒したんですか⁉」
「……」
しかしユゼルは答えない。
「な、何でさっきから黙って……。ちょっとオレそっちに行きます、よ……?」
アグナーは起き上がって体を動かそうとした。何故なら寝ていたという事は地面に横たわっていたのだろうと認識していたから。しかし、
「……あ、れ?」
動かない。手も足も、あげようとした体も。いやそもそも横たわっていたなら視線がおかしい。地面に立っているユゼルはアグナーを見上げているのだ 。
アグナーは恐る恐る自分の体を見下ろす。動かない手や足に腰に視線を向ける。
アグナーの視線に気づいたのか、何か蠢く動きが体に伝わった。くすぐったくて気持ちが悪い。アグナーが目を凝らしてその動きの正体を確認すると、まるで生々しい肉のような、何かがそこにあった。
最初は植物の蔦かと思った。極論だが寝ている間に巻き付かれてそれが蠢いているのだと。
しかし、アグナーが先程まで『温かいもの』と認識していたものは植物の蔦ではなかった。
「あ、……うわあああああッ⁉」
触手だ。
手も、足も、腰も、首も、体のあらゆる箇所を拘束されてしまっている。自由に動く事など出来ない。
それを認識した瞬間に酷い嫌悪感に襲われアグナーは手足を動かしもがいて拘束から抜け出そうとした。しかし触手はびくともしなかった。おぞましくてたまらない。
(こ、これさっきの主の触手⁉ 捕まってる⁉)
薄暗くて見づらいが壁もまるで何かの体内のように脈打ち、体液のようなものに濡れていた。肉の壁だ。まるでその全てに目があり、自分を見ているかのような錯覚を感じたアグナーは背筋が寒くなった。
恐らくここは主の巣だ。先程までいた階段付近よりも奥に連れてこられてしまったのだとアグナーは察した。ここは駄目だ。ここにいてはいけない。アグナーの頭の中で警鐘が鳴り響く。
「ゆ、ユゼルさん! 何でそんな落ち着いているんですか⁉ オレ捕まって……った、助けてください‼」
「……」
ユゼルは答えなかった。心ここにあらず、のような生気のない淀んだ黄金の目でアグナーを見つめている。光がない。
「ユゼル……さん?」
その不気味な様子に、アグナーは嫌なものを感じた。アレは本当にユゼルなのか? 魔物をあれ程までに嫌っていたユゼルならこの触手だらけの空間に一歩踏み入れただけで全てを切り刻む程の怒りを見せるはずだ。なのに、怒りも憎しみも、恐れも……何も感じられない。唯一感じ取れるのは、どこか光悦としているような熱さだけだ。それが瞳の奥で燻っているような……。
「……アグ……ナー……」
「! ユゼルさ、」
ユゼルが弱々しくアグナーの名前を呼んだ。ようやく返ってきた反応に一縷の希望を抱いてアグナーはユゼルを見る。
「ぜんぶ……おれに、くれ……」
しかし、彼が口にした言葉をアグナーは瞬時に理解出来なかった。
「は、い? ……ッえ」
そのユゼルの声を合図に、ただ蠢いていただけの触手の動きが変わった。
「ッんあ⁉」
触手がアグナーの服の中に入り込んできたのだ。そのゾワゾワとした感触に思わず変な声が出てしまう。アグナーの肌の感触を楽しむように、触手は肌の上を動き回る。
「や、やめ……っ」
たまらなく身を捩る。しかし体を拘束されている為逃げる事が出来ない。
何か意思が宿ったかのような動きへの気持ちの悪さと何をされるかわからない恐怖がアグナーの中を巡った。
「は⁉ や、おいやめろ……!」
そして触手はアグナーの服を暴き始めた。器用に動いて服をずらしていく。うまくずらせなかった箇所はビリビリと破かれていった。肌が、腹が、胸が、そして下腹部が、臀部が、肉茎が空気に触れていく。
その姿を、見上げて見ている人物がいる。アグナーは見られているという羞恥で顔を真っ赤にして出来うる限り抵抗しようと暴れているが意味はなかった。
「ひ……ひい⁉」
触手が新たに伸びてきた。触手はアグナーの顔の前に来るとその先端がくぱっと口を開ける。その口の中にいくつものおぞましいヒダが見え、アグナーは恐怖する。集合体恐怖症であれば発狂するのではないか思う程だった。その触手はにゅるにゅると動き、アグナーの乳頭と肉茎に噛みついた。
「えっ⁉ ……あ! んああっ⁉」
そのまままるで舌で転がすように乳頭を弄ばれる。直接的な刺激による言いようのないくすぐったさに身悶えた。
「ふっ、あ……ッ、なんで、あっ……アァッ⁉」
アグナーは何故自分がこのような辱めを受けているのか分からなかった。状況に心が追いつかない。乳頭と肉茎を同時に攻められて思考もまともに働かなかった。
肉茎は大きく口を開いた触手に深く飲み込まれ包まれていた。そのまま触手は肉茎をまるで口淫のように弄び始める。最も敏感な部分に強い刺激が与えられた事によってアグナーは嬌声を我慢する事が出来なかった。
「ッぐ、うぅ〜〜……‼ や、やめっ……⁉」
刺激に耐えていると臀部を別の触手に撫でられ驚愕する。アグナーは反射的に後ろを向こうとしたが
「ぐ、きゅっ……⁉」
首を絞めている触手が拘束を強め、頸部が強く圧迫された。苦しさで喉が鳴る。振り向く事は出来なかった。
(く、苦し……い……っ)
窒息しそうな苦しみ、与え続けられる痺れるような刺激に翻弄されていると後孔の入り口に触手が入ってきた。
「⁉ や、そこは……! んぶ⁉」
首の締め付けが僅かに緩んだと思ったら口の中にまで触手は侵入してきた。湿っぽく生暖かいものが口や喉を蹂躙する。
「んぐ、んんんんぶっんん⁉」
たまらず鼻で呼吸しようとしたがそれすら別の触手に塞がれてしまい、アグナーは呼吸手段を完全に奪われてしまった。更に最悪な事に、口に入った触手から何かの体液が排出されてきた。もがいている間に口の中にどんどん触手の体液が溜まっていく。溺れる。溺れてしまう。
だがしかしこれを飲み込んではいけない事は明らかだった。飲み込んだが最後どうなるか……間違いなくろくな結果にならない。耐え続けようとするがどんどん息が苦しくなっていく。
その間も攻め苦はずっと続いている。長くは耐えられなかった。
(……も、だ……め……)
アグナーの意思とは関係無しに、生を求めた体が喉をコクンと動かしてしまった。一度許してしまうと、喉が何度も上下して嚥下し続けてしまう。触手の体液が食道を通ってアグナーの体の中へと入ってしまった。
摂取を確認したのか触手はアグナーの口と鼻から離れていった。
「ッォえ……! ゲホッゲホッ!」
ようやく息が出来た。体液を無理やり飲み込んでしまった為、一部気管に入ったようでアグナーは激しく咳込んだ。もう遅いと分かっていても飲み込んでしまった体液がそれで少しでも排出されないかと必死になる。
「ゲホッ、いやだ、いやだ……ゴホッゲホッ……いやだ……!」
未知の何かが体内に入ってしまった恐怖で体の震えが止まらなかった。
「……ッ、……あ、熱っ……」
気がつけば、どんどん体温が高くなっていた。汗をかき、体は赤くほてり出し、呼吸や動悸も荒くなってきた。思考も薄皮一枚挟んだかのようにまとまらない。まるで酩酊のような状態だった。そして何より、誰かと肌を重ね合わせたくて仕方が無いという強烈な情欲が体の奥からせり上がってきていた。自分では制御が出来そうにない程。
「……ひゃ、あぁ! ふ、ふぁつ、あああぁーーッ! あっ、ぐ、う、あ……っ!」
体に異変を感じ始めると、先程からずっと継続されている愛撫の刺激もその激しさを増した。嬌声が我慢出来ない。甘さを含んだ高い悲鳴が喉からひっきりなしに上がってしまう。
アグナーは発狂しそうだった。
アグナーが触手に弄ばれ身悶えている姿を見つめながら、ユゼルは着込んでいた服をはだけさせだした。衣服の下に隠れていた鍛え上げられた筋肉と、長年の戦いを彷彿とさせる傷が徐々に露わになる。衣擦れの音と鎧部分を外す金属音。下半身は前を寛がせた。布越しでも分かる程に剛直はそそり勃ち、先走りで下着の色を変えていた。未だ布に隠れたままのユゼルの双珠は、堪えた分たっぷりと精を溜め込んでいる。
触手に翻弄されていたが、ユゼルに自分の痴態が見られていないか気になっていたアグナーは視線をなんとか動かした際にそれを目にしてしまった。
ユゼルの言葉で突然動きが変わった触手、脱がされた服、そしてユゼルも肌をあらわにしているという事実。これから起こる事を想像してしまい、アグナーは情欲に支配されながらも恐怖に震える。
最早あり得ない事だと一蹴するには外堀が埋まりすぎていた。
「やめ……っ、やめろ! ユゼルさんアンタどうしたんだよ⁉ こんな魔物の巣で! 魔物なんかと……何考えて、ッ⁉」
体を拘束していた触手が大きく動いた。アグナーの体は少しずつ下に下ろされていく。まるでアグナーの体をユゼルの前に運ぼうとしているかのように。
(……っ、頭がぼうっとす、る……。気持ち、いいのもキツイ……! でも、やはりそうだ。ユゼルさんは今正気じゃ、ない……っ)
アグナーが意識を失っている間にいったい何があったのか。ツァイスが潰され、アグナーも切り裂かれ、そこでアグナーの記憶は途絶えている。
(ユゼルさんは……きっと、っ、主に勝てなかったんだ。じゃあ、じゃあっ、この『人』はいったい、)
快感に耐え続け、それでも頭を回そうと奮闘している間にアグナーの体はユゼルの目の前へと運ばれていた。未だ胸や肉茎は攻められ続けているが、後孔を暴いていた触手がしゅるる、と出ていった。
ユゼルが、アグナーの既に開かれている足の間に入る。ユゼルが下着を完全に外すと、お互いの肌と肌が触れ合い、生温かい感触にまた痺れるような感覚がしてしまいアグナーは喉を鳴らした。
「……アグナー」
「ゆ、ユゼルさ……はっ、う……」
「……」
ユゼルは答えない。自身の剛直を持ち、アグナーの後孔に充てがった。にちゃ、というねっとりと湿っている音がした。触手が出した体液にアグナーの肉茎から溢れてきた先走りが混ざり、濡れていたらしい。
「おねが、やめて……くだ、さい……! ユゼルさ、ううっ。しょ、正気に戻って、ください」
入り口を先端で擦られる。通常なら快感など感じる筈がないのに、それだけで背筋にゾクゾクとした快感が走る。摂取してしまった体液の効果か、とアグナーは快感に溺れそうな頭の隅で思った。
「っ、あ」
ユゼルはアグナーの腰を強く掴んだ。入り口を弄んでいた剛直が徐々に挿入され、――一気に突き入れられた。
「ッ……が、は……っ!」
一瞬あまりの衝撃にアグナーの息が止まった。息を吸って吐くという当たり前の動きが出来なかった。どっと冷や汗が出る。かたかた、と体が震え始めた。
「ああ、これが、アグナーの中……」
ユゼルはまるで陶酔しているかの表情で、アグナーの中で包まれている感覚を味わっていた。
「う、うあ、あああ、そんな、何でっ」
アグナーは恐怖と絶望と困惑で錯乱状態に陥っている。震える目でユゼルを見上げると、口角を笑みの形にして湯悦に浸っている様子を目の当たりにし、一層震えが止まらなかった。
「さっきまでのも俺ではあったが、人だった時と地続きの体だとこんなにも満たされた感覚があるのか」
「ユゼルさ、やめっ、抜いてくれ…! こんなの、こんなの嫌だあ……‼」
深く挿入していくと、アグナーの下腹部がユゼルのものの形に薄く膨らんでいく。ユゼルはおもむろにその膨らみに手をやる。
「薄い腹だ。俺の形が見て取れる」
ユゼルが剛直をなぞるように腹を撫でる。擽ったさとこれだけでも与えられる快感にアグナーが身悶え、触手に拘束されたまま満足に動かせない手足を反射的に動かして暴れてしまう。
「うあっ、そこ、そこっ触らないで、くれ……中と外からで、たまんなくな……ッが、あ‼」
アグナーが喋っている途中でユゼルが抽挿を開始してしまった。
「温かい……少し擦れただけで、ッ気持ちが、良い……!」
「ッ、あっぐ、うああ……! と、止まっ、ンン!」
パンッ、パンッと肌同士がぶつかり合う乾いた音と、互いの体液が混ざり合う水音が肉壁に囲まれた巣に響く。閉塞的な空間から音は逃げず、手足を拘束されたままなので耳を塞ぐ事が出来ず、聞きたくないのにアグナーの耳に卑猥な音が入ってきてしまう。耳まで犯されている。
「ああいや、人じゃないな……半人半魔だ」
「オッ……おあっ! ぐ、う」
「……もう人の部分がどれだけ残ってるか、わからないが」
ユゼルが何かとても重要な事を話している筈なのに、それを理解する余裕をアグナーは持てなかった。何度も繰り返される抽挿による刺激をなんとか逃がせないかもがく事に必死になっていた。
「俺はお前のような善性の持ち主に焦がれていたんだ」
「……っ、……ぅ、え?」
腰の動きを全く衰えさせず、ユゼルはふいに口を開いた。抽挿の刺激に翻弄されながら、アグナーは何か言われた事に気づき涙で濡れている目を開いてユゼルを見る。
「今までも自分ではなく他人を助ける人間はいたが、俺の事を知ってなお俺を助けてくれたのはお前だけだった!」
腰を掴んでいた手がアグナーの両頬を力強く掴み、顔を一気に近づけてきた。鼻と鼻がぶつかりそうな程の至近距離で、ユゼルは目を見開いて狂気的な笑みを浮かべている。黄金の瞳が歪んだ情念を宿し爛々と強い熱を放っていた。
「お前こそ俺が求めていた人だ……! ああ欲しい……欲しい欲しい欲しい欲しい‼」
「ッひ……!」
動かせないと分かっていてもアグナーは思わず顔や体を逃がそうとしてしまった。アグナーは本気で恐怖した。
――誰なんだ、この人は。
目の前の『誰か』が恐ろしかった。深く潜っていく間にアグナーが知ったユゼルは、冷たくて、ぶっきらぼうで、どこか寂しそうな人だったのに。
狂ったように激情をぶつけられて、アグナーはユゼルの姿をした『誰か』を拒絶してしまった。
「俺を拒絶するな……っ!」
次の瞬間ユゼルはアグナーの腰を強く掴み、先程までよりも強く、乱暴に自身を突き入れた。ずちゅんっ、と濡れた腸壁が擦り上げられるかのような音が響き、アグナーの全身をつんざくような鋭い快楽が襲う。アグナーの肉茎から精が溢れた。
「っ……カ、ハッ……⁉ ヒ、アアアアッ⁉」
アグナーの奥を容赦なく突き上げ、勢いを全く弱めずに律動を続ける。アグナーの目からまたぶわ、と新たに涙が溢れた。暴力的な快楽にたまらずアグナーは嬌声をあげる。
「や……ッ、止まっ……ヒ、うああ‼」
アグナーは制止を呼びかけようとするが、快楽でまともに喋る事が出来ない。
ふと、ユゼルがアグナーに顔を近づけた。
「なあ」
「う……?」
動きが緩やかになり、ほんの僅かな余裕が出たアグナーが視線を動かす。蠱惑的な闇の色が宿ったユゼルの目と目が合った。
薄く微笑んだユゼルがアグナーの耳に口を近づけて囁いた。
「素直なお前をもっと見せてくれ」
ユゼルの意思に反応した細い触手がアグナーの耳に近づき、
「いぎっ⁉ み、耳……耳やめっ、あああっ! はい、入って来るな、ああああ……!」
その穴の中へと伸びていった。耳孔を通り、奥へ奥へと侵入されていく。体の内側を明確に侵されている事にアグナーは叫んだ。困惑と恐怖の感情でアグナーの精神はもはや限界に近かった。
抽挿が一段と激しく再開された。
「やめ、んあああッ、や、めろ! 嫌だ……!」
内側に入った触手に恐怖しながらも、強まっている感度のせいで甘い声を上げてしまう。アグナーは嫌でも反応させられてしまう事に嫌悪を抱く。頭が痺れるような快感で思考がぐちゃぐちゃなままアグナーは考える事を放棄したい程に追い詰められていた。
耳の奥で、何かスイッチが切り替わるような幻聴が聞こえたのはそんな限界寸前の時だった。
「気持ちいい気持ちいい、もっとし、んおっ、奥もっとぉ……」
喘ぎながら、アグナーは自分の口から飛び出した言葉に目を見開いた。「え……」と本気で困惑し、目を泳がせた。慌てて否定の言葉を口にしようとする。
「ちが、ちがうっ! そんな事思ってな、……おぐッ⁉⁉ うああああ」
奥を強く叩きつけられて言葉は遮られてしまった。そのまま衝撃と強烈な快楽の波にのまれてしまう。今のは何だったのかと考える余裕を与えられなかった。
その様子を見ているユゼルの口は弧を描いていた。
また何かが切り替わったような感覚の後に
「ふぅッ……! イイ、イイよぉ……! オレの事もっとめちゃくちゃにしてぇ!」
まるで媚びるような声色の声と言葉がまた口から飛び出した。明らかに自分に異常が起きている。先程侵入してきた触手によるものとしか考えられない。
それからも、媚びる言葉と否定の言葉が同じ口から飛び出し、アグナーの精神に甚大なダメージを与えていった。どちらが己が本当に思っている事なのか、混ざり合って分からなくなる。自分が自分ではなくなる恐怖に混乱し、アグナーは涙や汗を流しながら叫んだ。
「や、め……おかしく、なる……! 頭の中、いじらないで、くれぇ‼ やだ、やだあっ……あああああ‼」
もう矜持も何も無かった。生理的に流していた涙ではなく、心からひたすらに嫌だ嫌だと叫び泣き出してしまった。心が決壊し、限界を迎えていた。
ユゼルはそんなアグナーの様子を見ても一切手心を加える様子はない。それどころか、限界が近いのか先程よりも更に激しく動き始めた。
「っ、は、……はは! なあ、俺を、受け止めてっ、くれるだろう?」
「むりっもう無理、気持ちいいの無理ぃ‼ ひ、……あッ、ふっうう! 壊れ、こわれる! 壊れりゅ‼ うああああッ」
あまりの苛烈さにアグナーは泣き叫ぶ。
「……なあ、なあなあ⁉ 壊れてもいい、俺を、ぐ、受け止めて、くれ……! っ、ああ!」
ユゼルの剛直から、溜め込まれていた精がアグナーの最奥に放たれた。
「ッ〜〜〜〜⁉ あ、あつ、あついぃぃぃ……!」
一滴も溢れないよう、ユゼルはアグナーを強く抱きしめて、孔を剛直で完全に塞ぐように押し込めた。アグナーのお腹に欲が溜め込まれていき、それに応じてお腹が更に膨らんでいく。その熱さと張ったような感覚はアグナーを更に苦しませていった。
何度も絶頂を迎えさせられ、精も放たれた後。
「……ぁ……ぅ……」
アグナーは顔どころか体中真っ赤にして、涙や鼻水、唾液をなすすべなくを垂れ流してぐったりとしている。触手によって体が支えられていなければ地面に倒れ込んでいた。許容量を超えた快楽によって思考はもう殆ど機能していない。余韻すら受け止めきれずに時折体をビクビクと震わせているのみだ。
ユゼルがアグナーの首筋に触れてきた。感触を楽しむようにゆっくりと撫でている。アグナーにそれに反応する余裕はなく、されるがままになっていた。
そして、手でアグナーの首を包むように持つと
「んぐ⁉⁉」
アグナーの首を、ユゼルは思いっきり絞めた。急に気道が狭まった事で呼吸が阻害され、圧迫感で耳鳴りがし始めた。
強制的に意識を戻されたアグナーは混乱したまま苦しさに悶える。
「――ッ! が、あ……! ぐ、ンン⁉」
更に、ユゼルは挿れたままになっていた剛直を再び抽挿しだす。状況把握が出来ないまま息苦しさと痺れるような快感が同時に感じられ、再びアグナーは混乱の渦の中に放り込まれた。
そしてどんどん酸素が足りなくなっていく。アグナーが引きつった声を出し、目を見開き、口から涎を垂らそうとも、ユゼルは力を込め続けてきた。その口元は笑っている。周りの触手もアグナーを拘束している触手も連動しているのか一層動きが激しくなっていた。
(死んじゃう死んじゃう死んじゃ、う)
手が自由であったなら、アグナーはユゼルの手を引っ掻いてでもこの凶行を止めただろう。触手に阻害されてしまい、必死に動かそうとしても腕に絡まっている触手を引っ張るのみであった。
摂取させられた体液の効果なのか、殺されそうだというのに、アグナーのモノはしっかりと勃ち上がっていた。
(苦しい気持ちいい苦しい死んじゃう気持ちいい死んじゃう死ん、じゃう)
アグナーの視界がぼやけてきた。目が血走っている。息苦しさと圧迫感に死の恐怖を感じながらもせり上がってくる快感に脳が支配されて、アグナーは人生で一番と言える気持ちよさを味合わされていた。
どんなに抵抗しても逃げられない状況と、どんどん思考能力を失う頭で何もかもが真っ白になっていく。
(もう、きもちいいなら、なんでも……いい……)
目から光が失われ、とろんと溶けていく。自覚なく、口の端から涎を垂らしながら苦しい筈なのに口は笑みの形をとっていた。
そして、遂に快感が上り詰めきり、ギュウゥと首が一層強く絞められると同時に
「〜〜〜〜〜〜ッッッぁ……‼♡」
絶頂を迎えたアグナーは声にならない甘さを含んだ声を喉から絞り出した。とてつもない快楽と首が潰される程の痛みと酸欠の苦しさで脳が破壊される。最期の最期で、アグナーは抗いきれなかった。体を痙攣させながらアグナーの意識は堕ちていった。
ぐぽっ、ぐぽっという音を立てながら律動を続けていた剛直の締め付けが弱まった。そして、だらん、とアグナーの体から力が急速に抜けたのをユゼルは感じた。アグナーの体が後ろに倒れる。触手による支えで、仰け反った姿勢のまま、アグナーは微動だにしなくなった。
アグナーは、絶命していた。
「ああ……イキながら逝けたな、アグナー」
ユゼルはアグナーの頬に手を添える。絶命したばかりの為温かい。この温かさはすぐに失われてしまい、冷たく固くなってしまうだろう。
「ふ、ふふ……ハハッ……これで、アグナーが最期に見たのも聞いたのも感じたのも、全部俺だ! 俺はアグナーの全てを喰らったんだ‼」
既に死体となったアグナーの体を抽送を止めないままユゼルは掻き抱いた。
心臓の音は聞こえない。呼吸音も聞こえない。開いたままの目に光は無く、何も映してはいない。僅かに開いている口からは涎が垂れたままだ。中を穿っても何も反応は返ってこない。ぐぽっ、ぐぽっと水温と肌がぶつかる音が巣内に響いているだけだ。
「……ぐ、ああ……ッ‼」
やがて、ユゼルはアグナーの最奥へと白濁の精を放った。
触手が弛み、アグナーの体を解放した。解放された彼の体を強く抱き締めながら、ユゼルはその場に座り込んだ。
巣内には精や汗、血、触手の生々しい匂いが充満している。周りの触手は二人を囲むようにして蠢いている。
「……ハッ、ハァ……ハァ……俺……は、」
ユゼルは荒い息を整えた。血走っていた目に徐々に理性の光が戻り始めた。爛々とした輝きも鳴りを潜めていく。アグナーの後頭部を強く掴んでいた手を緩め、ユゼルは見開いた目でアグナーの顔を見ようとした。
(……自分は……いったい何をした?)
しかし、理性が戻りきる前に。
「……う、うぐ……ぐっ、ぐああ……ッ!」
突然ユゼルの頭が割れるように痛み出した。アグナーの体を支えきれずに二人して地面に倒れ込んでしまった。にちゃ、という生々しい音が響く。呼吸が荒くなり、冷や汗をかき、頭を抱えて横たわった。
触手がユゼルとアグナーを取り囲むように動く。
苦しんでいるユゼルの隣にはアグナーの死体がある。薄っすらと光のない目を開けて虚空を見ているかのようだった。
――オマエガ コロシタ
「うああああ……ッ」
ノイズで歪んだ声が頭に響く。痛みが増していく。ユゼルは堪らずに藻掻き暴れまわる。
――タノシカッタ ミタサレタ
また響いてきた声に、ユゼルは苦しみながらも声を絞り出して叫んだ。
「そうだ……ッ、ハァ、ハァッ……俺は満たされた! アグナーはもう俺のものだ! ッ、心も生も死も貰い受けた、……ハァ、ゲホッ! 体も、俺のものだ!」
触手が蠢く音しか響かない巣内で声が反響する。ユゼルは地面で藻掻きながら、アグナーの体を片手で自らに引き寄せた。片腕でアグナーの体を掻き抱く。
「……ぐ、あああ‼」
また強く頭が痛み出した。片手で頭を押さえて呻く。
――ニンゲンドモハ トリカエシニクル
「渡すものか渡すものか! 俺を受け止めて俺に全てを差し出してくれた存在を手放すなど……‼」
最早声の正体が何なのかなどユゼルは思考しなかった。する事が出来なかった。そこに考えが及ぶ前に、的確にユゼルの正気を失わせる言葉が浴びせられていく。
頭の痛みが、正気を失っていく程マシになってきた。
――デハ ドウスル
再び声が聞こえた時には、頭の痛みは静まっていた。横たわっていた地面から徐に起き上がり、アグナーの体を掻き抱きながら座る。項垂れていた顔を上げ、巣の上部を見上げて視界に映る何かに向かって口を開いた。
「……ここで、永遠に守り抜ク」
妖しく淀んだ熱を持った黄金の瞳を、自身が抱いているアグナーの体に向け、言葉を続けた。
「俺ノものを奪ウ人間どモヲ殺し尽クし、永遠に……フタリデ」
最早人間ではない■■■は歪んだ笑みを浮かべて、そう宣言した。
――祝福しよう、新しき[[rb:主 > ワタシ]]の誕生だ
聞こえてきた声にノイズは無かった。
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