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第3話

 最初こそぎこちなく会話していたエバンとクラウドだったが、和解から一週間経った頃には見違える程打ち解けていた。周りの方がまだ追いついていないくらいである。二人が一緒にいると未だに「大丈夫か……?」と周りが見守ってしまう。そして大丈夫そうだと安心するまでがセットである。 「いい加減視線がウザ……や、気になるから慣れて欲しいというかいっそ話に入ってきて欲しいんですけど」 「無茶言うんじゃないよ。あんな二人だけの世界に介入するのは野暮ってもんだ」 「その世界の一人が介入を望んでいるのですが⁉」  と、マグノリアとエバンの会話もあった。  そんな中、今日は珍しく非番が重なり、クラウドの居宅へとエバンが訪れていた。宿の一室を長期で借りて暮らしているエバンと違い、クラウドは街で小さいながら居を構えている。「一人で住む分には狭くても十分だ」との事。 「純粋な疑問なんだけど自分の家持つ場合って宿泊代とかどうなってんの?」 「宿泊代は無い。借りるのではなく買う事になる。買う時に家や土地自体の値段一括で払うか分割で払っていく。かかるとしたら生活費維持費諸々だ」 「そう……なんだ……?」 (分かってなさそうだな)  目が点になっているエバンを見て、クラウドは少し困りつつどこか微笑ましく思っていた。 (きっと以前までの俺ならこのエバンの様子にも腹を立てていただろうな)  見え方が変わっただけでここまで受け取り方が変わるとは、とクラウドは自身の気持ちの変化を感じていた。  そして二人でソファに対面で腰掛けながら会話をしていた時。 「君の手料理が食べてみたい」 「唐突」  深刻そうな顔をして何を言うかと身構えていたエバンは、予想外の申し出にきょとん、とした。 「それはまた……何で?」 「エバンの事をもっと知りたいから、では駄目だろうか」 「それで料理の腕を知りたいって思うのはだいぶ……踏み込むなあ」  どうするか、とエバンは悩む。時間的にもお昼ご飯の時間になる為、どちらにせよ食事の用意はしないといけないとは考えていた。しかし料理か……とエバンは渋る。 「食材とかは自由に使っていい、頼む」  再度のクラウドの押し。エバンはクラウドから視線をそらし、クラウド家の台所を見た。ソファから見える限りでも、なかなかの揃い具合だとエバンは思った。  普段はもっぱら宿の一階の酒場で済ませるか、野営の時に獲った獲物を焼くくらいでエバンは料理など殆どした事が無い。必要に駆られてばかりで、楽しんで料理する体験も無かった。誰かに習った事も無い為、確認を取った事は無いが手順が二通り程あれば料理になるだろうという認識だった。 (味も自信ないし、請われるようなものじゃないんだがなあ)  台所からクラウドに視線を戻した。目力が強い。エバンの料理が食べたいという気持ちがありありと伝わってきた。それに少し苦笑いした後、はあ、とエバンは溜息をつき、 「まあいいけど、期待すんなよ。後手伝え」 と了承を口にした。 「勿論だ」  その答えにクラウドは嬉しそうにまた微笑んだ。 「っし、じゃあ作るか!」  エバンは着ていた上着を脱ぎ、袖をめくって料理に取りかかる準備にかかった。  そして、 「君、料理苦手だったんだな」 歪な形に切られた野菜達がまな板の上に鎮座していた。それを一つ手に取り、物珍しそうにクラウドは見つめている。切りきれてなくて微妙につながっている野菜もあった。 「包丁がうまく使えねーだけですぅ〜」  口を尖らせてエバンが拗ねる。 「ナイフを使うのは上手いのに包丁は苦手なのか」  エバンの得意武器はナイフである。身軽さを活かして敵の懐に飛び込み制圧する方法を得意としていた。 「感覚が違うんだよ。人間相手に斬る形の事なんて考えないだろ普通」 「そうか」  エバンは包丁を手首で振りながらナイフとの感覚との齟齬を実感していた。  盗賊等と遭遇しない限り、その中で襲われ大人しくさせる為に多少痛めつけないといけない時しか人を斬る機会等ないように思えるが、昨今の世情からか道を外した者達が増えており以前より確実に機会が増えていた。 (世の中どうなっちまうのかなあ)  料理中に人を斬る事と未来への不安を思い出してしまったエバンは苦い顔をし、その考えを振り切るように話題を料理に戻した。 「そういうクラウドくんはどんな……えっうま、めっちゃ綺麗に切れてる」  エバンは切り方の名称等わからなかったが、均一に綺麗に切られた野菜や肉が並べられている光景におおーと感嘆の声をあげる。 「料理は好きだし自炊もするぞ」 「はー……人は見かけによらねーなぁ。オレあんまり美味しくも作れないから、遠出する時は店のものとか樹の実とか魚焼いただけとかで済ませるから好きとかわかんねー。まあ店のものは全部高いからきっついんだけど」  クラウドの意外な一面に驚く。まさか料理男子だったとは、と。感心しながら最近の物価高を嘆くエバンを見て、クラウドは思いついた。お節介ではないかと気になりつつも、恐る恐る 「……持ち歩ける携帯食料、君がよければ私が作るが」 と提案した。 「えっ⁉ まじで、いいの⁉」  それにエバンが驚いてクラウドを見る。その表情には驚きだけでなく、明らかに喜びの感情もあふれていた。それに安心したクラウドは顔を少し綻ばせて頷く。 「構わない。次から任務の時は声を掛けてくれ、作ろう」 「ありがたや〜! いやあ流石クラウドくん気が利くねぇ、思ってたより便利……じゃなくて頼りになる奴〜!」 「ハイハイ」  ヒューヒュー! と口笛まで吹いてクラウドを持ち上げるエバンに、クラウドは「調子がいいな」と笑みがこぼれた。  暫しそれで浮かれながら料理を続けていたエバンだが、ふと違和感に気づき動きが止まる。それを怪訝に思ったクラウドがどうかしたのかと話しかけようとした瞬間、エバンが勢いよくクラウドの方を向いた。 「ん⁉ というか今クラウドくん笑った⁉」 「な、何だその珍しいものを見た、という反応は」  その勢いにクラウドは気圧される。 「いや実際珍しいだろ⁉ 少なくともオレに笑いかけたのは今が初‼」 「……そんなまさか」  クラウドに全く笑った自覚はなかった。固まった表情のまま、右手で口を覆い隠す。目は少し見開いている。自分が笑った事実を受け止めきれず視線を下げた。 「そのまさかです! 君宴会でもしかめっ面だし」 「それは、……いやしかし、笑みが……今俺は楽しんでいると?」 「ん、クラウドくん?」  エバンはクラウドの様子が変わった事に気付いた。しかしその呼びかけにクラウドは応じる余裕がなく、 「楽しむ……良いのか、楽しんで……いや、しかし……」 と、ぶつぶつと呟きながら完全に下を向いてしまった。  エバンはその様子に少し驚いて瞬きをした後、もう一度呼び掛けた。先程より大きめに。 「クラウド!」  それにハッとしたクラウドは口を覆い隠したまま首を上げ、エバンの方を見た。 「っ……すまない、大丈夫だ」  しかし、目が忙しなく泳いでいる。エバンに焦点を合わせず、視線は動きっぱなしだった。 「自分でも今笑ったのは本意では無かったというか、意識してはいなくて。気が緩んでしまったらしい。気をつける」 「いや休みの日なんだしガンガン緩んで良いのでは」  寧ろそこが駄目ならいつ気を抜くというのか。息が詰まるにも程がある。相変わらずお堅い事で、とエバンはクラウドをからかおうとした。  しかし、すぐにそれをやめた。  クラウドは冷や汗をかいて、大層動揺しているように見えた。クラウドにとって少し微笑んだ事……いや楽しんでしまった事はここまで取り乱す程の衝撃だったらしい。 (これは……料理は一旦中止して話をした方がいいな)  エバンは持ったままになっていた包丁をまな板の上に置き、固まってしまっているクラウドをなんとか誘導して元のソファに座り直した。 「……」 「……」  沈黙。  クラウドはまだ自分の口を覆い隠してしまっている。エバンに既に見られてしまった後なので遅いとは分かっていても、笑みの形を取っている口元をこれ以上見られたくない、と考えていた。  深刻そうなクラウドの様子にエバンは頭をかき、恐る恐る日頃感じていた事を口にした。 「……薄々思ってたんだけどクラウドくんてさ、なんか楽しむ事に対して罪悪感? いや嫌悪感あるでしょ」  クラウドの肩が僅かにはねた。わかりやすく動揺したようだ。 「……」  静かに、クラウドはエバンに視線を移した。 「……ああ」  クラウドが頷く。 「やっぱり。楽しむ時に楽しんで息抜きしないと人生辛いぞ〜? 只でさえ世の中暗いんだからさ」  辺境のこの街から任務でない限り出ないエバンでも、世の中が全体的に重苦しい雰囲気なのは感じ取っていた。この街の人々は、誰が言ったわけでもなくそれを吹き飛ばそうと努めて明るく振る舞っている。度々開かれる宴もその一つだ。 (何で色々苦しいのか、オレはよくわかってないし、もっと大きい街や……それこそ城下まで行けばわかるのかもしれないけど……いや今はそれどころじゃない)  エバンは改めてクラウドを見る。  暗い中でより暗く、息抜きもせず、いつ見ても肩に力が入っているクラウドの姿。それが、犬猿の仲だった当時からエバンは気になっていた。その時は苛立ちが大きかったが、今はどうして? という疑問が占めている。その嫌悪感は何故か。 「すぐは無理だとしてもちょっとずつ楽しむ事に慣れていけばいいんじゃないかとオレは思うね。そっちのが生きやすい。今とか意識してないのに笑みがこぼれたって事は楽しめる気持ちが消えてる訳じゃないみたいだし」  あまり良い言葉が思いつかなかったが、クラウドの常に自分を傷つけているように見える姿をどうにかしたくて、エバンは口を回した。普段ならもっと気軽に思ったままの言葉を紡ぐが、慎重に言葉を選ぶ。これはクラウドにとって大事な出来事になると感じ取ってしまっていたから。 「……楽しむ事に夢中になって、大事なものを取りこぼしてしまったら」 「?」  暫しの沈黙の後。ふと、ぼそり、とクラウドが口を開いた。  エバンがそれに何かを返す前に、クラウドがエバンの両肩を掴んできた。 「度々開いてる宴だって私はどうかと思ってたんだ。私達はこの街の自警団だろう。常に気を張ってここを守る役目がある。街の住人達にとっての頼りになる存在で常にあり続けるべきだ。なのに浮かれて、調子に乗って、バカ騒ぎをして!」  エバンが驚いている間にクラウドは自分の本心を打ち明け続ける。段々語気が荒くなっていく。 「そんな油断している時に襲撃を受けたり、大事故が起きたり、散財して貧しくなって人から奪うようになったらどうするんだ!」  大声と気迫に空気が振動し、ビリビリと響く。エバンは目を見開いて圧倒されていた。 「その浮かれ騒ぎの影で苦しんでいる人達だって絶対いるだろ‼」  一際大きく叫ぶと、クラウドはハー、ハーと肩で荒い呼吸をし顔を俯かせてしまった。肩は強く掴んだままだ。  エバンの見開かれていた目が切なげに細められ、クラウドを見つめていた。  数拍置いてエバンは声を掛けた。 「……ずっとそう思ってたんだな」  エバンの声にクラウドはハッとする。エバンの肩を掴んでいた手も離し、詰め寄っていた体勢から少し顔を離した。 「あ……っす、まない、熱く、なりすぎた」  溜めに溜めていたものを吐き出したからか、クラウドは冷静さを取り戻していた。今は心の内を吐露してしまった恥ずかしさと後悔で胸が占められている。 「クラウ、」 「わ、分かってるんだ、私のこの考えが極端過ぎるのも、深刻に考え過ぎなの、も」  震えたままの声でクラウドはまるで弁明するように、エバンが己を呼び掛ける声に被せた。  心情を吐露してしまい、それに対する反応を恐れている。 「クラウド、大丈夫だから」  怯えているクラウドを安心させるように、エバンが優しさを意識しながら声を掛ける。 「……」  クラウドが少しだけ顔を上げてエバンを見る。その不安に濡れた目はまるで親に怒られる事を恐れる子供のようだった。 「クラウドの言ってる事は別に変な事ではないし、なんだったら正しい。正しすぎるから極端ではある」  エバンはしっかりとクラウドの目を見る。 「少し冷たい事言うぞ。オレは聖人でも何でもないから」  クラウドは無言で頷いた。 「例えば……何かの勝負で負けた側の気持ちを考えて勝った側が喜ぶのを我慢するのっておかしいだろ。そんなの勝っても誰も喜ばないし楽しくない。それっていずれじゃあ勝負する意味ないじゃんってなって衰退するだろ。見てる方もやってる方も苦しいんだから」 「……そう、だな」  弱々しい返事だったが、クラウドはしっかりとエバンの話に耳を傾けていた。 「オレ達は自警団だ。この街を守るのが役目だ。でもさ、クラウドくんが言うようにそんなオレ達が常にピリッとしてて、お互い贅沢をしてないか監視しあってたら気なんて抜けないし、それってどんどん疲弊するだろ。それを見てる住民達も、苦しそうに街を警護してるオレ達見てたら気分良い訳無い。時々息抜きで宴会開いて楽しくやってる姿を見せるのって、オレ達の為でもあるけどこの街の皆の為にもなってんじゃないかな。街全体の息抜きってやつ?」 「街全体の、息抜き」  そうそう、とエバンは笑顔を見せる。エバンはあまり説明が得意な方ではない。一所懸命に考えながらクラウドに言葉が届くように紡いでいる。 「誰かの苦しみは誰かの楽しみを奪うものではないし、誰かの楽しみで誰かが楽しくなる事だってある。誰かが苦しんでたら自粛して大人しくするんじゃなくて、楽しんでその楽しみを供給して空気を明るくする方がオレは良いと思ってる」  エバンは自分自身の過去に少し思いを馳せる。育った場所では周りを常に気に掛けて気を張っていなければいけなかった。そして、同時に時には気付かないように振る舞う事も大事だった。そうでなければ容易く零れ落ちてしまうだけでなく、連鎖して壊れてしまう。 「それに……ある程度、自分を守る為には見えないフリをするのも大事じゃないか」 「エバン……」  今度はエバンがクラウドの両肩を掴んだ。不安気に揺れているクラウドの目としっかりと視線を合わせる。 「冷たい事いっぱい言ったけどさ……要するにクラウドの事が心配なんだよ。今のクラウドとても苦しそう。そんなんじゃいずれ窒息しちまうぞ。気を張るだけじゃなくて、肩の力を抜いて、時には自分を守れ」  目を見開き幾度か視線を彷徨わせた後。クラウドは目を閉じて、肩に置かれているエバンの手に自分の手を重ねて頷いた。 「というのがオレの考え。これでオレの事軽蔑するなら今までのように嫌ってくれればいい」  クラウドの両肩からエバンは手を離し、両手を体の前で掲げてひらひらと動かす。先程まで張り詰めていた空気を和らげるようにエバンはわざとおどけたように振る舞い、苦笑いした。 (だいぶ好き勝手に言ってしまったからなあ……例えまた嫌われても仕方ない)  思わず踏み込み過ぎた事にエバンは反省する。そして自分らしくない振る舞いをしてしまった事も感じて一人気まずくなっていた。何事ものらりくらりとやってきていたのについやってしまった、と。  離れてしまったエバンの手に視線を寄越しながら、クラウドは考え込む。 「……、……いや。そんな事は、ない」  しかし考えても先程の言葉でエバンに嫌悪感を覚える要素は特に思い至らなかった。 「……そ?」  少しだけエバンが驚いた表情をする。踏み込み過ぎた事は不愉快にさせなかったようだ。 「ありがとうエバン」  何処か照れくさくなったエバンが頬を僅かに染める。 「あー、えっと……詳しい過去は聞かないぜ。今ので胸のっつかえが取れたらそれで」 「……助かる。……本当に、助かる」  噛みしめるようにクラウドは言った。 「エバンの言った意味もわかる。楽しむ、笑う……これからはもっと大事にしてみるさ」  ◆ 「と、言うわけで完成〜! フゾロイバッカリサラダとちょっと焦げたキチョウヒンノニクヤイタダケーノ!」 「おお」  机の上には、切る過程でぐちゃぐちゃになった野菜類を詰め込んだサラダもどきと歪な形で焦げが目立つ焼いた肉が皿に載って置かれていた。 「味は保証しない! 多分食える!」 「おお……」 「お口直しに店で買ってきた干し肉もどうぞ」 「肉で肉の口直しするのか……」  すっ、と鞄から保存食で持ち歩いていた干し肉を出して机の上に並べた。 「あと味付け出来る調味料とかあるならそれで味誤魔化してくれ」 「わ、分かった」  実食。  三口程食べたエバンは静かにフォークを置いた。 「クラウドくん、オレ思ってたんだけど、どうせ腹の中にぐちゃぐちゃで入るなら口に入る前からぐちゃぐちゃでも構わないんじゃないかって」 「……今は?」 「見た目と味付けって大事だね」 「そ、そうだな」 「くそう、わからん! 加減も何もかもわからーん!」  両手を上げて悲痛な叫びを上げるエバンに、クラウドはふふと、ぎこちなく笑う。それに気付いたエバンも微笑んだ。  その際に袖の部分がずれて、左腕の肘に近い所に何かの跡がある事にクラウドは気づいた。 「ん、……左腕のこれは火傷の跡か?」 「えっうわ」  エバンは慌てて左腕を右手で押さえ、クラウドから左腕が見えないように体を反らす。それに、目をパチパチさせて少し驚いたクラウドは不思議そうにエバンに尋ねる。 「……何故隠す」 「い、いやいや気持ち悪いだろ」 「君の身体に気持ち悪い所などないが」  間。 「全身に鳥肌立ったんだけど」  両腕を擦り、エバンはクラウドから僅かに後退する。しかし離れた距離分クラウドが詰めてきてしまった。距離が近い。 「言う相手間違えてるだろ……いやいくら相手が女性だったとしても今のはちょっと気持ち悪いわ」 「そこまで言うか」 「キザ過ぎる」 「そんなに……」  クラウドにとっては素直にそう思っただけの特に深い意図がない発言だった。しかしエバンはドン引きしている。その反応から何がまずかったのか分かっていないが、クラウドはとりあえずエバンから僅かに離れた。 「昔……いや何でもない! もう昔の事だし」  つい口をこぼしそうになったがエバンは首も手も振ってその衝動を振り切った。 「話してくれないのか?」 「黙秘しまーす。オレも聞かなかったんだからそっちも聞かないのが平等だと主張しまーす」 「……残念」  クラウドが苦笑する。それを言われたら強く出れない。  食事も片付けも終わって、また二人でソファに並んで腰掛けていた。エバンは慣れない料理等で疲れが出た為背もたれによりかかっていた。  暫し無言でいたが、クラウドがエバンの方に視線を寄越し見つめてきた為エバンは姿勢を正した。 「エバン、君は私にとっての光だったんだな」 「ん? 光? ……何この手」  クラウドはエバンの片手を両手で包み込んだ。急な接触にエバンがクラウドの手と顔を交互に見比べて困惑する。クラウドの目はまるで愛しい者を見るように蕩けている、ように見えてしまった。 「私は本当に酷い思い違いをしていた。君は私などにここまで心を割いてくれるような素晴らしい人だったんだ」 「え、」  エバンが固まる。とんでもなく過大評価をされてしまっている事に驚く。 「私は君を一等大切にしよう。これからもずっと一緒にいてくれ」  握られた手に僅かに力が込められる。 「あ、ありがとう……? まあ同僚だし、これからも一緒にはいるのでは……?」  困惑しつつも一応離れる予定はない為に同意する。すると。 「……エバン……」 「ウワッ重ッ‼ 急に抱き着いてくるな‼ 距離の詰め方が極端‼」  エバンはクラウドに正面から強く抱き締められてしまった。クラウドはまるでエバンを自分の中に閉じ込めるようにぎゅう、と力を込める。 (ええーー……な、何だコイツ……これがあの冷たかったクラウド? 懐に入れた人へのパーソナルスペース狭すぎだろ)  あまりのクラウドの変わりように困惑しつつも、エバンは振り払ったりはせずにそのまま大人しく抱き締められていた。

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