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第三章 疫病神、本懐を遂ぐ①

 みんななんでわろてるん? たのしいん? そんならええよ。  そんでぼくな、カイシャ行くシュギョウやったらやってもええで。だれとするん? おじいちゃんとおじちゃんもするん? おばちゃんもする? パパとママもいっしょなん? みんなでするんや。たのしいな。    なあ、あのかいだんのとこにおったおにいちゃんはどこにおるん? ぼく、あのおにいちゃんともいっしょにシュギョウする! だってな、あのおにいちゃん来たらな、コケコッコのおばちゃんはすぐどっか行ってしもてん。    コケコッコのおばちゃんはな、ずうっとぼくのおとなりにおんねん。いっしょにどっか行こ、って言うてくんねんけどどこかはしらん。なんて言うてるんかわかれへんから。  けどぼくな、行きたないねん。パパとママのとこにおりたいもん。おにいちゃんおったらコケコッコのおばちゃんおらんようになるもん、やからいっしょにシュギョウする! ぼくいまからおにいちゃんさがしてきてもええ? やったあ! わかった。おそとには出えへん、おうちのなかだけでさがす。おやくそくな、ぼくもういちねんせいになるねんから守れるよ。  あ、あのおにいちゃんやで。こっち来てる。おねがいしてみるな、ぼくといっしょにシュギョウしてくださいって。  マゴ? マゴってなに? おじいちゃんのおともだち? そんならぼくもおともだちになりたい。ううん、ぼくひとりでおねがいできるよ。えっと、ぼくとおともだちになってシュギョウしよって。おなまえもちゃんと言えるよ。  ぼくは、くじょうりくとです。ぼくとおともだちになって。そんでいっしょにシュギョウしよって。   第三章 疫病神、本懐を遂ぐ      間違いなく七月がこの世でいちばん暑い。  作務を終えて洗濯物を洗濯機に放り込み、朝活として座禅を組みに来ているご近所さんに水分を摂れと助言しているとあっという間に時間がすぎる。暑いせいか着替えが多く、最新のドラム式洗濯機も、その横にあるたっぷりの水で洗える縦型全自動洗濯機もフル稼働だった。ここに飛び込んだら自分で洗う手間省けるな……暑さのあまり思考が危険になった九条陸(くじょうりくと)は、頭をブンブン振って風呂に飛び込む。本当は水風呂がいいがあとがつらい。  朝のお勤めは毎日かかさないが、今日は土曜日で休みだ。一週間で消耗した体力を回復しようと寝直すことに決めたが、早坂はどうするだろうと考える。この寺の住職代理で、九条とともに「悪霊祓い」を行っているふうちゃんこと早坂楓士(はやさかふう)はもう少ししたら唸りながら起き出してくるだろう。朝に弱いのだ。  事務所のホワイトボードに書かれていたスケジュールどおりなら、今日はあと三十分ほどは長めに寝かせておいても大丈夫なはず。よっしゃそうしよ、と頭の中で予定を組む。何もなければ昼からは自宅のアパートに戻って、空気の入れ替えをして水回りの掃除だ。できれば敷きっぱなしだった冬用のラグも取り払って、忘れていたダウンジャケットもクリーニングに出しておきたい。動き回るのはまったく苦ではないが、この暑さではアパートに辿り着くのがやっとかもしれない。  灼熱の脱衣所に降り立った九条は、少し考えてバスタオルだけを腰に巻き付けた。どうせ本堂からはここが見えないし、まだまだ早朝だ。その姿のままキッチンに移動していつもどおり米を五合し掛ける。まだ夏バテには早いらしく米が残っていたことはないが、これからもこの量で大丈夫かと計算した。残りそうなら冷凍にしておこう。一応冷凍食品メーカーの社員だから、レンチン後のご飯がおいしくなる冷凍術を知っているのだ。  さすがに今日はアイスコーヒーを飲む。冷蔵庫にあった缶コーヒーを腰に手を当てて一気飲みしたら、体が中から冷えて少し楽になった。さて、次は早坂だ。今頃のそのそ起きようとしているかもしれない。  そして少し散らかったリビングに顔をしかめた。昨日はこんなに暴れて飲んだっけ? 早坂も九条もまあまあ飲む方だが急に電池が切れるのは早坂だった。だったらあのふくらんでいるソファーの中身は早坂だろう。いつもは大抵途中で目が覚めて自室に戻るのに珍しいこともある。 「ふうちゃん起きれる?」  当たり前に早坂だと、少し雑にたたきながらタオルケットをどかす。もう一度ふうちゃん、と呼びながら顔を見て九条は「えっ」と言ってその場に凍り付いた。    こいつは誰だ? 見たことのない男が仰向けに寝転がっている。少しだけ眉間にしわを寄せた表情は精悍でもあったがスッキリと整っており、こんな状況でなければ見惚れていたかもしれない。もう一度「えっ」っと声を出すと男はぱっちりと目を開けた。開ききるかどうかの瞬間、「ふうちゃーん!」と叫んで猛然とダッシュする。      誰だあれは。当たり前みたいに慣れた感じで熟睡していた。あの部屋の中を自分はタオル一枚の真っ裸でしばらくうろついていたのだ。怖すぎる。建付けの悪い襖をガタピシさせながら苦労して開け、早坂の部屋に飛び込む。また苦労して閉めようとしたが、廊下が軋む音が大きくなってあの謎の男が近づいているのだと知りそのまま早坂の横にダイブした。起き上がりかけていた早坂がその勢いのまままたベッドに沈み、なになにどうした!? と大騒ぎしている。   「なになに!? お化けか?」 「違う変質者や! ふうちゃん警察!」 「スマホ、ああ……充電すんの忘れてた」    アホかふうちゃん! と九条は叫んだが、自分だってスマホはキッチンに置きっぱなしだ。あかんあかんこっちくると悲鳴を上げた瞬間、男が部屋に入り込んできた。デカい、九条と同じくらいの身長だが体の厚みが段違いだ。組み合ったら負ける――思わず早坂を抱きしめたら鬱陶しいとばかりに胸を押し返されてしまった。 「ふうちゃん危ないで!」  だが早坂は動じない。大股で進んできた男が立ち止まり、ふうちゃん、と言いながら部屋の中央にちょこんと正座した。 「ふうちゃんごめんね。俺もしかしたらとんでもないもの持ち込んでしもたかもしれん」

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